女好きとギャンブラー
空のカーテンが見えるのは、北の国の北西の端でした。
「エレーヌ、先に城へ行って、国王にご挨拶しよう」
と言っても、まだまだ国王が住む都まで、何日もかかります。
道すがら、エレーヌは侍女のジジの正体を聞きました。もちろん本人から。
「女性専用の護衛を育てる養成所があるのです。男性には警護できない場所がありますので」
ジジの父親は騎士でした。それゆえ、ジジは武術の英才教育を受けました。
「そうだったのね」
但し、騎士と言っても下級の生まれ。父親は実績で成り上がりましたが、ジジは女性。軍への入隊すらできません。ジジは女性専用の護衛養成所へ行き、護衛を生業とすることにしました。つまりは実力派。
「身分が低いので、貴族階級の様々な礼節は勉強中です」
「そんな。謙遜しなくても。とても助かってる」
ジジはいつも、その面で的確です。
このとき、御者と護衛についても聞きました。2人とも軍で凄腕の兵士でした。出自のため下級ですが、やはり実力派。御者に扮している方が酒好き女好き。護衛の方は酒好きギャンブル好き。
「だから、夜、片方しかいないのね」
「そーなんです。クズ男、、いえ。御者はその辺で引っ掛けた女のところへシケこん、、いえ。お泊まりしています。ギャンカス、、いえ。護衛は賭場へ行っています」
「トバ?」
「エレーヌ様は何も知らなくていいのです。世の中にはクズやカスが、、いえ。女性が避けるべき男がいるということです」
ジジはそう締めくくりました。
旅は様々な風景を見せてくれます。北の国は東西に長い国。季節は移り変わり、冬になろうとしていました。北の国はとても寒く、秋の終わりから雪が降ります。うっすらと白い雪化粧に景色はきらきらと輝きます。
畑、農村、市場、街。
「トバも見てみた「ごほっごほっごほっ」
エレーヌの何気ない言葉に、ジジが咳を被せます。
「大丈夫かい、ジジ。この薬を。喉がすっきりするよ」
優しいファウストは、すかさず薬を出します。
「いえ、大丈夫です。失礼いたしました」
馬車は城に到着しました。
雪がしんしんと降り、凍えそうな寒さです。とても丁重に扱われ、護衛も御者も一緒に国王のいる間へ通されました。玉座への階段の前で横一列に並びます。このとき、央の国の後継者であるエレーヌが最も上座の中央です。こんな些細なことに、エレーヌは忘れたい自分の立場を感じてしまいます。長男のフォーですら、付き人のように振る舞うのです。
『ん?』
エレーヌは、両端の護衛と御者が口をあんぐりと開けて目をハートにしていることに気づきました。視線は国王にしなだれかかっている妃の胸。
妃は長身グラマータイプではありません。小柄で濡れたような瞳、陶器の肌、花びらのようなぷっくりした唇、圧巻の胸。露出はそれほど高くありませんが、胸の谷間の始まりが見えます。座っているだけなのに、腰の辺りが艶かしく色香を放っています。見事なロリ顔マシュマロボディ。並んでいる両側の野獣のヨダレは、今にも床に垂れそうです。
謁見が終わると、護衛と御者はハイタッチ。
「やっべー。謎の谷に吸い込まれそーだったし」
「いるだけでエロい」
流石にファウストは会話に加わりません。
ジジは2人に呆れました。
「やだやだ。結局はおっぱいなんですね」
思わずエレーヌも頷いてしまいました。
御者は、ちろーんとエレーヌとジジの胸を一瞥。「はんっ」と鼻で笑いました。そんなやりとりができるほど、今ではすっかり打ち解けていました。
『ムカつく』
2人とも、ファウストがいる前ではかなりちゃんとしていますが、エレーヌとジジの前では、耳クソを弾き飛ばしたり、靴下の臭いを嗅ぎ合ったり、女の子を口説き落とせるか賭けたりしています。
「オレらなんて、フツーだよな」
「んだんだ」
護衛と御者のおかげで、エレーヌは兄達の素晴らしさを再認識するのでした。
その日は、北の王の城に宿泊することになりました。夜は宴です。エレーヌは未成年ですが、ノンアルコールで歌や踊りのおもてなしを受けます。御者は厩近くの部屋にいますが、護衛とジジは傍に控えていました。
大臣達の紹介をされると、なんと、10人のうち8人が妃の一族でした。その偏りに、エレーヌは北の国が内側から崩れていることを感じました。
就寝時刻になると、どこからともなく美しい女性がやってきました。「お部屋へご案内します」とファウストと護衛を連れて行こうとします。エレーヌとジジのところにはイケメンです。
『これね、ハニトラ』
エレーヌはファウストからハニートラップの話を事前に聞いていました。




