タダほど高い物はない
「農民が畑を捨てると聞きました」
「まあ、畑が人頭税ってとこにムリがあったんですな。ふぉっふぉっふぉ」
北の国の農民の税は、農作物の収穫量ではなく、1人どれだけと課せられます。女性は男性より少ないのですが、14歳以上の子供と老人に容赦ありません。
「子が生まれても届け出なくなりましてな。ふぉっふぉっふぉ」
1人につきいくらと税を徴収されるので、農民の間で、例えば長男だけ出生届を出し、実は次男と2人で畑を耕して1人分の税を払う、という形がスタンダードになっていました。そこへ、近くで金脈が見つかりました。戸籍のない者は金鉱山へ働きに行きました。そちらの方が儲かるからです。働くならタイパ重視。農業をしていた者も畑を捨ててしまいました。逃げ始めると止まりません。農業には、大勢で力を合わせてしなければならない作業があるからです。残された者達は大変になり、ガテン系金鉱山タイプでない人は央の国へ逃げました。北の国で捕まれば罰を受けます。しかし、央の国ならば治外法権。役人達は簡単に追うことができません。
いろいろと分かりました。成金さんは、役人と繋がり、役人はその上の上の役人と繋がり、上の上の役人は貴族である官僚に繋がり、最終的には王妃の一族と繋がっています。
『興味深い』
エレーヌは、飛び石状態で悪が繋がってることに感心しました。人は自分と同じ種類の臭いを嗅ぎ当てるものなのでしょうか。
北の国の妃の話も聞きました。
マシュマロのようなボディでおねだり上手。向上心に溢れた女性とのこと。エレーヌは、長身グラマーな露出高い系美女を想像しました。北の国の王は、政治の席にも妃を同席させ、24時間片時も離れないとのこと。妃の一族は次々と要職に就き、権力を縦にしているようです。
「老いらくの恋といいますか、色欲といいますかーーー溺れると、歯止めが効きませんな。それもまた人生の彩り。ふぉっふぉっふぉ」
ファウストは首を横に振りました。
「北の国王といえば、若き日より多くの武勇に優れた名君。まさか、政治の席に妃を連れてくるなど……」
エレーヌも、北の国の王はめっちゃ強く、大軍を率いて国を守った英雄と聞いています。
「ずっと手を握り合い、体を寄せていると評判です。ふぉっふぉっふぉ」
エレーヌは想像します。露出高い系グラマー美女が、年老いた国王の隣で政治を具に見ているところを。このような場合、水面下で実権が妃に移り、ゆくゆくは国王が崩御し、妃が政治の表舞台に立つというパターンが定石です。最悪、国王は妃に毒殺されます。
現在、北の国の役人の間では、賄賂と汚職が横行しているそうです。そのことを成金さんはとても喜ばしく思っていました。
「金は力です。旦那様方もよく分かっておいででしょう。ふぉっふぉっふぉ」
成金さんは、盃を掲げてふんぞり返ります。
エレーヌは、官僚でもなさそうなのに成金さんが事情通なのを不思議に思いました。
「とても詳しいのですね」
成金さんは自慢げに語りました。
「ワシは金を運んでましてな。食べ物にかける金箔、特注の金の装飾品やらなんやら。貴族の屋敷にも出入りしているんでな。ふぉっふぉっふぉ」
「そうなのですね」
「お嬢さんも何か欲しい物がおありかな? 大抵のものは金で手に入りますぞ。情報でもなんでも」
『情報!』
エレーヌは知りたいことがあります。星宿る海の場所です。
成金さんは、エレーヌの目がきらっと輝いたのを見逃しませんでした。
「お嬢さん、何をお望みですかな? 命を助けていただいたんだ。タダで教えましょう。ふぉっふぉっふぉ」
すかさずファウストが断りました。
「それには及びません。妹は、まだまだ子供。知りたい情報の種類が違います」
『バカにされた』
ガキんちょ扱いされてしまいました。エレーヌは、ちょっとムッとしましたが、ファウストを許しました。成金さんの「タダ」という言葉が妙に押し付けがましかったからです。
「ところで、美味しいお酒ですね。ありがとうございます」
ファウストは一旦、情報という話題から外れました。しばらく歓談した後、切り出しました。
「北の国では空にカーテンが現れると聞きました。ご覧になったことはありますか?」
そして、言葉巧みに場所、季節、時刻などを聞き出しました。情報を得られました。




