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乙女ですもの清らかに恋したい  作者: summer_afternoon


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貴方が産めば貴方の子

昔々のお話です。

(おう)の国に、それはそれは美しく、ん? な王女がおりました。

ん? というのは、なんと言いましょうかーーー例えば、ある日。


「ああ、この子らはお留守番なんです」

「借ります」

「いえ、お待ちください。お待ち、、、誰か、誰かーっ」


王女は(うまや)の馬に馬具をセットしてまたがり、もう1頭の手綱を持って出かけてしまいました。出かけた先は、紳士が集まった狩場。

2頭の馬が現れると、紳士達を乗せていた馬達が暴れ出しました。2頭を追いかけ、いななき、後ろ脚だけで立ち上がり大騒ぎです。


「うわぁっ」

「誰だ! 発情したメスを連れてきたのは!」

「こら、追うなっ」


皆、馬を宥めるのに必死。狩は台無しです。


『流れ弾が危ないって私を連れてってくれないんだもん。ふーんだ』


ーーーと、まあ、個性的な王女でした。




ある日、王女は、母親である女王に呼ばれました。


「エレーヌ、16歳になってだいぶ経ちますね。そろそろお婿(むこ)さんを選びましょう」


そんなことを言われても、エレーヌはまだまだ結婚などしたくありません。すぐ上の兄もその上の兄も、他にもいる合計4人の兄達はまだ誰も結婚していないのですから。

エレーヌは王立学園に通っています。許嫁(いいなずけ)が決まったという同級生の話はちらほら聞きます。それでもエレーヌは、まさか自分の身に結婚話が降りかかるなんて思ってもいませんでした。


「お母様、私はまだ恋も知りません。結婚など」


エレーヌは、まだまだ夢見る乙女でいたいのです。


「お黙りなさい」

「……」

「立場というものがあります。この国の秩序を守り、存続させる自負を持ちなさい」

「そんな、お母さ、」

「とっとと産みなさい。大変なんだから出産は。若い方がいいでしょ」

「そんな、お、」

「最初から女の子が生まれるとは限らないの。私みたいに何人も男の子しか生まれないかもしれない」

「そん、」

「誰の子だって構わない。貴方が産めば貴方の子!」


エレーヌはうちひしがれました。


『お母様、ひどい』


「秩序」と言った舌の根も乾かぬうちに「誰の子でも」とはなんということでしょう。母親は女王、国の絶対的権力者。子を産む奴隷となれと命じられたも同然。


エレーヌは、暗く冷たい石の廊下を歩き、自室でベッドに潜って丸くなりました。


『逃げよう』


エレーヌは決めました。決めてからの行動は早いものです。


『ドレスってめっちゃ非合理的』


きらめく布がふんだんに使われ、袖やスカートは別々の布。コルセットだけでなく、下にはあれを履いてこれを履いてここで結んで、と一人で着ることもできません。でも、脱ぐことは自分だけでできます。エレーヌはぽいぽいっとクソ重いドレスを脱ぎ捨てました。


すぽっ 


エレーヌはときどきお忍びで城下へ遊びに行くときの町娘の姿になりました。被って胸辺りから腰までをきゅっと締めるだけ。シンプルです。足捌(あしさば)きはらくらく。エレーヌは城壁を登り、壁の凸凹(でこぼこ)とツタを伝って外へ出ました。

勝手知ったるなんとやら。外からは堅固で難攻不落な城であっても、中から外へ出ることは、それほど難しくありません。


満月は、エレーヌの行き先を明るく照らしてくれました。


エレーヌには行きたいところがあるのです。ーーー星宿る海ーーー

星が終わりを迎えて消え、新しい星が生まれるところ。そこでは風が美しい音楽を奏で、それを聴いた人は、自分の運命を知ると言われています。

央の国の誰もが知る話です。エレーヌは様々な本を調べました。旅の本、民話の本、天文学の本。けれど、どこにも載っていませんでした。


エレーヌは自分が女王になって央の国を背負うとは信じられません。優秀な4人の兄達を差し置くなど、理不尽です。


『絶対に私は、好きな人と大大大恋愛をして幸せに暮らす運命なの!』


そのことを確認したいのです。


歩いていくと道の先に、煌々(こうこう)篝火(かがりび)が燃えている場所がありました。歩いたのでちょうど小腹が空いてきました。パンを分けてもらおうと、ふらふらと近づきました。


が、そこには4人の兄達が、覆面兵達を従えて待っていました。


「お兄様!?」

「最初にこのルートを教えたの、オレじゃん」


と4番目の兄。4番目の兄に教えたのは3番目の兄、3番目の兄に教えたのは2番目の兄、2番目の兄に教えたのは1番目の兄。でもって、1番目の兄に教えたのは母親である女王でした。

当然エレーヌの逃亡はそこまでです。


城に戻され、玉座に座る女王の前に(ひざまず)きました。


「そうよね、エレーヌ。結婚なんて嫌よね?」


逃げるというアクションは、エレーヌに結婚したくないという強い気持ちがあることを示したようです。それは女王の心を動かしました。


「お母様。私は世界のどこかにあると言われている星宿る海へ行きたいのです。風が奏でる美しい音楽を聴いて、自分の運命を知りたいのです」


女王はイスの肘掛けに肘をついて頬杖をつき、しばらく考えました。そして「そーね」と承諾。


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