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【BL】終の先の住処(全年齢)  作者: しあわせ千歳


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1/9

森の中でポツンと暮らすおじいちゃん半妖受けが若い青年に絆されていく、約束の恋愛小説。


はじめまして、しあわせ千歳と申します^ ^♪


この作品は2024年の夏~秋のBL小説の公募に向けて執筆した、

しあわせ千歳が当時のありったけの萌えを詰め込んだ渾身のBL小説作品です。


結果だけを申し上げますと、大賞をいただくことはできませんでした。


しかし、有難いことに選考には通過しまして、この作品を読んでいただいた方々より複数の「いいね」を頂くことができました。


とてもうれしかった半面、大賞をいただけなかった私自身の未熟さも見え、とてもいい経験をさせていただきました。



そこで、せっかくなのでこちらに、

選考に通過しましたBL小説作品『終の先の住処ついのさきのすみか』の全文を掲載いたします。


厳しいお言葉もあるでしょうが、なにかしらのご反応をいただけると、しあわせ千歳が喜びます。


できれば気持ちの良いコメントなどいただけるとより、しあわせ千歳が舞い上がります笑。



こちらは連載ですが、

小説全文でも50,000文字に至らない程度の文量で、比較的、短時間でお楽しみいただけます。


それでは、しばしのお付き合いのほど、どうぞよろしくお願い致します。




(しあわせ千歳)

 




◉ちるちる「性癖大爆発♥光・闇の創作BLコンテスト」 選考通過作品





『終の先の住処』(ついのさきのすみか)


 著 しあわせ千歳



(元々はR18作品ですがラストシーンのみの為、対象部分は書き換えております。安心して読み進めてくださいませ!

また、対象部分は連載最終話のみですので第一話も全年齢対象作品です。)







 山々に囲われたこの辺りでもひと際標高がある皇海山すかいさんの広大な尾根、とはいえ十分に山の奥に位置したこの場所を紡久つむぐにとっての終の住処と決めている。


約束を果たす為にここで独り暮らしをするトタン屋根の平屋の一軒家は紡久の生家だ。


 元は茅葺屋根でとても古い建物だが、住んでいるついでに手入れを続けていれば不便もなく最寄りの集落からこの一軒だけが離れていてもひとり気ままで何の苦労もない。


元々はこの場所にも他に数軒の家々があったのだが、時代だろうか一軒、また一軒と住人が減りこの小さな山奥の集落に住む者はもう紡久のみとなってしまった。


 寂しいとは思わない。

山の中でも話し相手は居る。まったりとした毎日の日課として木々や草の間、もう荒れてしまった山道を歩き近所のケヤキの御神木を見回っている内、紡久の周りに今日も友達が増えてきた。


「おはよう」と声をかけると、右手から


「紡久!」


と親しそうな明るい声が、

左手から


「人の挨拶なんかしないよ」


とひねくれた声、

そして紡久の三歩先を行く一体からは、


「おっはよう」


と陽気な声が返って来た。


 紡久とこうして言葉を交わせる妖怪は珍しくはないものの、多くもない。


妖怪の言葉のみを話す個体と紡久は会話が出来ないし、そもそも口の無い妖怪は何も喋らない。口が在っても言葉を一切解さない個体も居る。そんな小物妖怪たちと、言葉を超えた絆で紡久は関係を築いている。


仲が良いと個人的には自負しているが、妖怪は気まぐれなのでそうそう心を砕く事はしない。ただ、たった独りでこの長い人生を生きるには、紡久にとって彼ら妖怪の存在が必要なのだ。


 ゆっくり気の向くままに妖怪たちと共に歩を進めていると、山の木々と生い茂る草の間にふと見慣れぬものがあるのに気づく。


白い布か何かだろうか、紡久は立ち止まり興味本位でいつもと違う方へと一歩を踏み出す。いつもは気にもならないミンミンゼミの鳴き声が珍しく耳についた。


「おおー、珍しい。人だ。紡久、人が倒れてる!」

「死んでるか?」

「いや生きてるかも知れないぞ」


 先に目的の場所に着いた愉快な妖怪たちが「それ」を取り囲み口々に喋る。だが気まぐれの妖怪は人と違い悪気なく簡単に嘘を吐くので紡久は彼らの言う事の全てを信じはしない。


この目で確認するまで真実とは限らないのだ。


「どれどれ」


 白い布の傍まで来て「それ」を覗き込めば、そこには人、男性が俯せに横になっている。

遠くからでは見えなかったが、背中に山の獣、大きな熊か何かに引っ掻かれたであろう爪痕とおびただしいほどの赤黒い血が出ていた。


 一見して彼はこの山で遭難したのだろうと知れる。


昨日、同じ頃にここを通りがかった時には紡久も友達の妖怪たちも気が付かなかったのと、背中の傷がまだ新しいのと、土や草の地面に落ちた血は黒くなっておらずこちらも真新しい。


倒れた男の薄く開いた唇の前へそっと手をやれば、指の先に触れる風がある。微かに呼吸をしているのだ。まだ生きている。


 人として見殺しには出来なかった。

自分よりも幾分か大きな男の身体を、片腕を紡久の肩に回し脱力する男の足を半ば引きずる格好で何とか自分の家へ運んだ。


道すがら着いて来た妖怪が周りで「痛いの痛いのといでいけ~」と口々に言っていたのが微笑ましく、男の重みが和らいだ。


 まずは手当だ。男は虫の息で今にも死んでしまいそうだが、そうさせない秘策が紡久にはある。


だが傷口からばい菌が入り体内へ広まってはいけない。血のついた上半身の白い服をひと思いに破り脱がせてやり、ついでに彼を運ぶのに血で汚れた紡久の甚平と一緒にそれらを浅い樽に張った井戸の水に浸した。

透明な水に鮮血が混じる。


この水は後で変えるとして、他の樽を手に急いで縁側から庭へ出る。狭く小さな庭の隅に湧き水の如く、昔よりは量の少なく湧き出るそれを大切に溜めた窪みより一杯だけ、いつも側に置いている湯飲みに汲み、樽へは井戸から新しい水を入れて部屋へ戻った。


「おいお前、しっかりしろよ」


 声をかけてやればちゃんと聞こえたらしく、男がほんの小さく呻く。よし、意識がある、これなら助けられる。


 手ぬぐいを澄んだ樽の水で濡らして軽く絞り、男の背中の傷にそっと当てる。

痛いのだろう、男が若干肩を揺らしまた呻いた。


だからといって作業を止めず、とんとんと手ぬぐいを動かし砂や汚れを落としていく。

消毒には傷口を洗うのが一番だが、男は身長があり紡久には抱えられない。風呂場にシャワーがあれば良いが、この家の風呂にそれは無い。


 時間をかけてしっかり傷口を洗うと、そこからまた新たな血がじんわりと溢れてくる。紡久は目途をつけて支えていた男の身体を、部屋に敷きっぱなしになっていた自分の布団へ横這いに寝かせた。


 綺麗にしてみれば、男の背中は太すぎる二本の爪によって割かれているのが見て取れる。


どんなに大型の熊でもこんなに太い爪は持てないだろう。

とすれば、この傷をつけた犯人は山に棲む大型の妖怪だろうと紡久には容易に想像がついた。


不運な男だ。このような周りに何もない山へ入ったが最後、妖怪の巣窟で餌食になる。命が助かるだけマシだといえた。


 人知れずため息を漏らし紡久は洗った手ぬぐいで男の顔の泥を落とす。そして傍らの畳の上に置いたままの湯飲みを取り、そっと男の口へと飲み口を押し当てた。


「飲め、ひと口でいい」


 そっと湯飲みを傾けるが、痛みに耐え閉じられた男の口内へ入ることなく透明な液体が頬から落ち、シーツへ沁みを作る。


意識のしっかりしない人には飲めないかと考えを改め、紡久は再び湯飲みを傾けほんの少しだけ、舐める程度飲ませるつもりでそれを自分の口へ含んだ。


 そっと男の唇へ自身のそれを押し当てる。含んだまま飲み込まないようにしながら舌と唇で男の口を割り、無理やりに中身を含ませてやった。


口に入ればあとは飲み込ませるだけだ。男の気道を確保するため、屈んでいた身を起こし首の裏へ手を回そうとした時、男の喉が鳴った。


「よかった、飲めたな」


 吐息交じりの声に答えは返ってこない。しかし横たえた男の様子を黙って見ていればじきに呼吸が落ち着いてきたのが見て取れた。背中の傷の痛みが和らいだのだろう。


 それから紡久は手ぬぐいをまた洗い直して、男のまだ泥だらけの顔や身体を改めて拭き綺麗にしてやる。泥を拭っては手ぬぐいを水で洗い、それを幾度となく繰り返す。


細かな擦り傷が男の肌にたくさんあった。つい先ほど飲ませた物が効いてきたようで、それらは見る見るうちに塞がっていく。


少し飲ませ過ぎたかもしれないと若干の不安が胸に込み上げた。

だが飲ませなければ男は死ぬだろうし、紡久の処置に文句は言わないだろうと心の内で結論づける。


 血で膝などの肌に張り付いた「ずぼん」を脱がせ一通り男の身体を拭き終えると、綺麗になった顔をしっかり覗き込む。


体格が良いとは思っていたが、思ったよりも若い。二十歳そこそこだろうか、好青年だ。


 それから、血と砂まみれの男のずぼんを樽の水の中へ漬ける。処置で汚れた紡久の肌も手ぬぐいで洗った。

応急処置だがしないよりは良い。


後で風呂に井戸の水を溜めて湯を沸かそう。


そして男の下の布団の汚れたシーツを変える。自分より身体の大きい男を一旦布団の上から退け、また戻す作業はわりと重労働だった。


ここまでして、紡久は畳の上に立ち上がり眠る男を見下ろし、大きなため息を吐く。


もう大丈夫、そんな安堵の息が勝手に何度も唇を滑って出た。


 暑い時期とはいえ怪我をした身体では寒いかと思い薄手の布団を掛けてやると、男が小さくいびきをかき始めた。


人の気も知らずのんきに眠っている。本人の治癒力にもよるが、そのうち背中の傷も塞がるだろう。今はこのまま眠っていればいいと紡久はまたふっと息を漏らした。


 男が目を覚ます頃には腹を空かせるはずだ。何か食べられるものでも準備してやろうと、畳の高い位置から土間へ降り竈へ火をつけようとマッチの小箱を取り、更にたすき掛け用の紐へと手を伸ばし、ふと気づく。


そういえば普段着の甚平が血で汚れ脱いだので、紡久は上の服を着ていなかった。


 意外と心の余裕を失っていたようでくすっと自身の行動を笑い、男が目を覚ます頃も裸のままでは恥ずかしい、と畳一間の広い部屋へ戻り角の押入れの中から替えの甚平を取り出し羽織る。


独りの気ままな生活では、洋服や着物よりも甚平が楽だ。

押入れ特有のカビの臭いは仕方がない。独り暮らしで二着の甚平を普段着として洗っては交互に着ての生活なのだ、もう一方の洗い立ての甚平は男が目を覚ましてから着せてやるとして今すぐに欲しい紡久の分の洗い立ての服が無かった。


 そうして竈の土鍋で湯を沸かす間に男の様子を遠くから確認する。いびきはこの距離では聞こえないが、周りでは害のない妖怪たちがまた興味津々と彼を囲い、口々に何か言っていた。


微笑ましい光景だが、妖怪の持つほんの小さな妖気でも弱い人に悪い影響を及ぼす。


男には意思を強く持っていてもらう他できる事がないが、少しだけ考えを巡らせ、紡久は再び彼らへ視線を向けた。


「お前たち、米を炊くから手伝ってくれ」


 大きな声で誘えば予想通り妖怪たちが数体、こちらへ向かってくる。


言葉を知らない妖怪は他の妖怪の行動や仕草でも理解できるらしく、後から紡久の居る土間へやってきた。

いくら紡久以外の人の存在が珍しくても、ただ眠っているだけの男には興味が続かないらしい。


 米を炊くのは紡久にとっても一大行事だ。

こんな山奥で稲作をし自分で作っているというのにあまり米を食べない。


腹が空かない体質だが、米に限らず食事を摂る事さえ面倒で最近では三日に一度、忘れていれば五日間も食べない事があるくらいだ。


それも一度の食事に必要な量は茶碗一杯分あればいい。庭に湧き出るそれを少し舐めていれば死にはしない。それだけで十分に生きていけるのだ。


「米? 白いの?」

「たべる」

「今たべる」

「ふふ、今食べたら生の米のままだぞ」


 口々に喋る妖怪たちはその言葉の意味を分かっている個体と、分からずもただ口にしている個体がいる。

ただ、どの妖怪が紡久の話す人の言葉をしっかり理解しているのかは把握している。


「白い米を炊くよ。今夜はお客様が居るからな、いつもの玄米は硬くて消化に悪いんだ」


 言いながらも紡久は紐を背中へ回してたすき掛けをして、のんびりとした動作で竈へ火をつける。竈にくべた薪の火が大きくなるまでには少しの時間がかかるので焦っても仕方がない。


火の動向をいつも見ているのに珍しい物を見る様な目でじっと見つめている妖怪をそのまま放っておき、

紡久は他の妖怪を伴って隣の棟の倉庫代わりにしているそこへ自分で作った米を取りに行く。

知り合いから貰った精米機へ玄米を入れて白くした。


「この機械、すごい、すごい!」


 毎度、精米機が動くのを見ながらも初めて見るのだと言い続けるこの妖怪は、紡久の言葉を半分は理解してくれる、男の子の座敷童だ。


人でいうと三歳くらいの見た目だが、きっと紡久よりも長く生きているに違いない。


精米を終えると、白い米を桶に入れて庭の井戸へ向かい、洗う。

米も水も目分量だが、怪我人に食べさせるならば少し柔らかい方が良いだろう。


竈へ戻り、念のため眠る男へ視線をやる。米を取りに行く前と何も変わった様子はなかった。


「白米っ! 白米っ!」

「たべる」

「今たべる」


 紡久の足元で不器用にぴょんぴょんと座敷童が跳ねる。

他の小物妖怪たちは同じことをずっと言いながら、竈の上の土鍋を見上げている。蓋をした土鍋から、美味しそうな湯気がもくもくと上がっていた。


「まだだ、火から上げたら蒸らすからな。お前たちは手を出すな」


 手伝ってくれ、と言ったのは紡久だが本当に手伝ってもらう事など何も無い。


言った事を理解し出来るだけの妖怪はあまり居ないし、頼み事をするほど彼らを信用してもいない。

ただ毎日その顔を見せに来てくれるから話をする。ただそれだけの関係だ。


「ほわあ~~~っ」


 炊き立ての白米の入った土鍋の蓋とを開けると、一体の妖怪が湯気とよく似た声を出す。


その一体以外の妖怪も同じく瞳を輝かせ、土間に置いた土鍋を取り囲み真っ白を見つめている。

微笑ましいと思いつつ、紡久は彼らを自由にさせて自分は白米へ竹製のしゃもじを入れた。


「……早く、早く!」

「白いのたべる」

「たべる」


「まだ熱いぞ、火傷するから手を出すな」


 そう言っているのに二体の妖怪が左右から土鍋の中へ手を差し入れる。

紡久はもう片方の手で彼らのそれを払いのけ、湯気の立つ白米を空いた桶に移して冷ます。


眠る男の為に握り飯にしてやろう。いつ目を覚ますか分からないが、それなら冷めた飯でもうまいだろう。


「えーと、塩は、っと……」


 言いながら立ち上がり、土間のすぐ側へ塩を取りに行く間にも妖怪が言いつけを破り手を出して白米を口に運んでいる。

これはいつもの事で、妖怪たちに食べられても十分な量の米を炊いたので問題ない。


「うまい、うまい」と言いながらしゃがんでちびちびと米を食う姿はやっぱり微笑ましかった。


「よーし、つまみ食いはそこまでだ。握り飯のほうが塩味があってうまいぞ」


「これもうまい」

「うまいからこれでいい」


 言いながらも妖怪達用に土鍋の中に残した米から視線を離さず両手を使い食べる彼らにとっても白米は珍しい。


玄米に比べて味が美味しいのは紡久も分かっているが、白米は触感があまりなく紡久の好みはぷちぷちとした触感のある玄米だ。その方が米を食っていると実感できて好きだった。


 塩をまぶした握り飯とその他にもいくらか食べ物を準備し終え、紡久は更にまだ動く。

風呂釜に井戸の水を溜めておき、男が起きたら薪を燃やして風呂を沸かすのだ。


紡久の身体も男の処置で汚れたので、彼の後に入ろう。

このところは昔よりも夏の暑さが濃い。風呂の準備は重労働で二日か三日に一度と決めているが、本当は毎日入って身体を清めたいものだ。


 井戸と風呂場を往復していたその時、不意に地面が揺れる。

ごうごうと音が鳴り、持っていた桶から水が溢れる。咄嗟に桶を足元の土間に置き、紡久は布団で眠る男の元へ駆け寄った。


その間にも大きく揺れる地面は棚から物を落とした。


 男を気づかい身体を支えるうちに地震が治まる。体勢を変えないまま紡久はほうっと息を吐いた。

安堵して身を起こし男の様子を窺うと、


「ううっ」と一度だけ呻いた男が再び小さくいびきをかき始める。のんきなものだな、と頬を緩めた。


 地震が多くなっている。この土地との約束が紡久を欲しがっている。“その時”はもうすぐそこまで近づいていた。


 




 



 

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