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プロローグ
だいたい2年前の冬、父に連れられて行った水族館で1人の男の子が水槽を鈍器で殴る事件があった。
ガラスと鈍器のぶつかる少し高めの音は周囲の空気全てを割ったように辺りに響き渡った。
スポットライトが当たったかのようにその男の子に一気に目線が集中した。私も、男の子に目線を向けた人間の1人だった。
その翌日の朝、リビングのテレビではその事件の報道が映されていた。男の子は未成年だったために実名報道はされず、映像にもモザイクがかかっていた。その動画では男の子がガラスを殴る瞬間が捉えられていた。
ガラスと鈍器がぶつかったその瞬間、周りの人は悲鳴をあげてあとずさったり、こけてしりもちをついたり。
すぐに警備員とスタッフが来て男の子は取り押さえられていた。
水族館の水槽がそんな簡単に割れるはずもなく
怪我人は一人もいなかったらしい。
そのテレビをキッチンから見ていた母が
「そんな危ないことをするなんて、親は何してるの」と、ため息をついていた。
呆れ返る母を後ろ目に
私は、すっと、胸がすくようなきもちになっていた。