アルヴォレ国での驚倒
ヴェーラ国を発ってから三日後が経過した。一日目と二日目のように草原を歩いていると道の先から木々が茂った森が現れた。
アルヴォレ国だ。そう確信したのは森の先に人工的に作られた木門があったからだ。
「もうすぐだね!」
私はムギを見て、目を輝かせながら言った。ムギも私の方を見て、つぶらな瞳を見せた後木門を潜った。
木門を潜った先には薄暗い森の道が続いており、木の形は杉に似ついた針葉樹であった。
ヴェーラ国付近の奥が見えないほど暗い森を思い出すが、そこまで暗くはなく、奥から二つ目の木門から太陽の光が見えた。魔物や人もおらずただただまっすぐとした道が続いていた。もう歩けばすぐらしい。
私とムギは歩幅を合わせて進んだ。
そうしてついに二つ目の木門をくぐった。
その先にはまる童話のような不思議な街並みで、幹の中に家がある構造だった。
施設は八百屋さんのような屋台が野菜を売っていたり、ヴェーラ国のように「アルヴォレ国案内所」と書かれた看板があるので色々あることがわかる。
「すごい⋯⋯!」
「にゃ~ん」
私は入り組んだ森林に国が出来ていることに驚いた。ムギはそれに共感するように鳴いた。
入り口前に八百屋さんがあったのでまずそこに向かった。私が歩きだすとムギもその後ろを付くようについてきた。
「いらっしゃい!気軽に見ていって!新鮮な野菜ばかりだよ!」
はちまきを頭に巻いている陽気なおじいさんが、元気に挨拶した。久しぶりに人と対面したので私は安心して自然と口元が緩んだ。
品揃えは「カカオ豆」「銀杏」のようなあまり見られないものから「ぶどう」「りんご」のようなスタンダードなものまで主に木から実るものばかりだった。
しかし、ラインナップの右端に「フォルサ」という見も知らない商品が売ってあった。
見た目は緑から黄色のグラデーションで、綺麗な球体の形をしている。
「すみません」
「どうしたんだい?」
「こちらのフォルサってなんですか?」
私が質問をすると、八百屋のおじいさんが微笑んで答えた。
「フォルサはこの国限定の果物で、シャキッとした食感にほのかな甘さがあってな!しかも食べると不思議なことに自分の力を少しの間だけだが上げることができるんだ!」
確かに不思議な果物だ。食感と味の説明からおそらくりんごのような果物だろう。
「なるほど!では銀杏なども同じような効果は?」
「それは各国の果物と同じように効果はない。ただフォルサだけがこのような性質を持つんだ!しかし別の国に同じような効果を持つ果物が存在するかもしれないな。」
もしかしたら銀杏などの果物も、と思ったが異世界も現世同様効果はないらしい。
ムギのペロペロケアで空腹は凌げるが、当然食べ物を食べたことにはならないので少し物足りない。
久しぶりに果物など味のあるものを食べてみたいがお金がないので結局諦めるしかない。
いつか異世界でも働いてお金を稼ぎたいが、そもそも私はここの世界で働けるのだろうか。
「すみません!フォルサを二つ⋯⋯いえ、三つください」
後ろから声が聞こえ、ムギが後ろを向いた。私が振り向くと、そこには推定190cm程の筋肉質の男性が居た。
見た目は両肩に肩鎧を装着しており、装飾が豪華な服と、皺のない綺麗なズボンを着ている。
「あいよ!どうもありが⋯⋯ってえええええあ!?」
いきなり八百屋のおじいさんが面食らった顔をして驚いた。それに反応してムギはびくっとした。
「申し訳ありません!つい普通に接客をしてしまい⋯⋯」
「大丈夫ですよ。それにあなたはここの八百屋に入ったばかりですよね。環境に慣れさせることが第一ですので、普通に接客してください。」
八百屋のおじいさん深々と頭を下げると、後ろの男性は見た目に似合わない優しい口調で説得した。
「わかりました⋯⋯それでフォルサを二つでしたか?」
「いえ、三つです」
「ああっ!ごめんなさい!」
「もう一度言いますが大丈夫ですよ。一度落ち着いて⋯⋯」
すごい慌てようだ。しかし、その様子からしてただの偉い人とは思えなかった。
「ま、まいどあり!」
そうして男性はフォルサを買い終わったが、10分ほど時間がかかっていた。私はつい心配で見守ってしまった。
「ムギちゃん!じゃあ次のお店に行ってみよっか!」
ヴェーラ国の時は行っていなかったが、異世界のお店がここまで楽しいとは。
私は一度この国のお店や施設をめぐってみようとして歩き出した。
「あっ、すいません!そこのペットを連れている方!お時間よろしいですか?」
するとフォルサを三つ買ったさっきの男性に声をかけられた。私とムギはシンクロして驚き、さっきのように後ろを向いた。
「は、はい!大丈夫です!」
「ありがとうございます。いくつかお話をさせていただきたくてね。少し歩きますが、あちらまで来ていただけますか?」
そう告げながら、奥に見える特段大きい建物を指差したが、周りと同じようなツリーハウスではない。
しかし、こんなに偉そうな人が私と話をするということは、かなり重要なことなのだろう。
「わかりました!」
「では、行きましょうか。何か問題を起こされたとか、そういうことではないのでご安心ください」
私はムギと一緒についていった。
そうして、目的地に着いた。
近くで見ると、木材同士が組まれてできた支柱がしっかり作られているのがわかる。屋根はそこまで高くないので一階建てだろう。
「ここの入り口から右に部屋があります。そこで話しましょう」
「はい!」
建物の中に入り、正面にはもう一つ大きな扉があった。私はそれに一瞬目を配り、言われた通り右に行った。
「ではペットと一緒にこちらにお掛けください。お茶も入れますので少々お待ちを」
「失礼します」
私は椅子に腰かけ、ムギは私の膝に乗って寝転がりあくびをした。
建造物が木ばかりなので木でできていると思ったが、クッションが布地の中にありとても座り心地がいい。
部屋を見回すと、よく磨かれて滑らかになっているテーブル、壁は木目がしっかり生かされている木壁など、手間と時間がかかるような見た目をしていた。
「どうぞ」
男性はそういうと淹れたてのお茶を私の目の前と男性の方に一つずつ置いた。
「ありがとうございます!それで、お話とは⋯⋯?」
私がそう問いかけると、男性は優しそうに微笑んだ。
「その前に、自己紹介をしても良いですか?私の名前はジェネローゾ・レイ。ここの国王です。」
「⋯⋯!?」
私は身を震わせた。振動が伝わったのかムギもぴくっとして私の方を見た。
「今まで黙っていて申し訳ございません。街中で言うと他の聞いた方が驚かれるかと思いまして黙秘していました」
「なるほど⋯⋯つかぬ事をお聞きしますが、八百屋の方は知っていたみたいですけど何か関係が?」
「はい。あの方は元々他の国に住んでいまして、生活が少し厳しいというお話を聞いてお店と土地を渡しました。その過程で国王だと言いました。私のことを知っている方はごくごく僅かですよ」
つまりあのおじいさんにとってこの人は恩師ということらしい。確かに慌てる理由も良くわかる。
「しかし⋯⋯なぜそんな重要事項を私に?」
「自分の情報とあなたの情報を”交換”したいんですよ。といってもわからないと思うのであなたの情報を一つだけ言いますね。外部には漏らさないのでご安心を」
「はい!言ってみてください!」
国王はお茶を一口飲んで一つ間を置いた。私もそれに続いてお茶を一口飲んだ。
興味半分で国王が知っているという情報を聞いてみた──がしかし、国王が持っていた私の情報は、この人が国王であったことよりも驚くべきものだった。
「あなたは、異世界から来た方ですよね。」