二国間の道のり
今回は描写多めです。
私たちがヴェーラ国を発ってから丸二日が経過した。
道中村や国はない草原で、通りすがりの商人や草原の見回りの兵士に挨拶や軽い雑談程度をしたが、基本的に人の気配はない。
その人たちにこの世界では敵のことを魔物と呼ぶこと、魔物の種類ごとの名称などを少しだけ教えてもらった。
周りを見れば人の代わりに野生の魔物が点々といる。
ただ魔物は平均レベル10程でそこまで強くないらしく、いつものスライムが主に占めているといった感じだ。
しかし、ムギはあの時のように倒しながら行くのではなく、今回は大人しく歩いている。
猫の気まぐれで倒された魔物が少し不憫に思える。
そんな感じなので丸二日ずっと歩きっぱなしだから、当然食べることも寝ることもしていない。
本来ならここで倒れそう、というか倒れるはずだが私はまったく疲れていないし空腹も感じない。
その背景としてムギの能力にある。
能力:ペロペロケア・ムギが舐めた場合、体力を全回復する
言い換えれば、ムギにペロリと舐められた相手の体力が瞬時に最大まで回復するそうだ。
しかし説明に書いているもの以外に、なんと空腹や疲れもすべて回復するらしい。私の体で直接実感した。
つまりはこの能力さえあれば、どんなに長い道のりでもずっと歩くことができたり、怪我をした時でも傷を治すことができる。当然ムギも例外ではない。
ムギのこの能力があって本当に助かった。
私は二日前南に行こうと決めたが、その理由として国があるからだ。
「アルヴォレ国」と記された国があり、マップ上ではヴェーラ国と大体A3サイズ程の大きさで8cmほど離れている。
ヴェーラ国は大分北の方角だったらしく、マップの右端に位置している。
そこから北や東は港、つまり海になっているので先は記されていない。
そんなアルヴォレ国は森に囲まれ、他の国よりはっきりと綺麗に描かれている。マップの木々が一つ一つ細かい。
そのため、なんでこんなに綺麗になっているのだろう?と気になったのもこの国を訪れる理由だ。
そんな風に私がマップを見つめていると、前から一人のブレーベ帽を被ったおだやかな商人のおじいさんが歩いてきた。
商人から見て右手には、荷台を引く馬一匹の姿があった。馬を見たのは初めてだ。
「こんにちは!」
「こんにちは。旅の者みたいですが、どこに向かっていらっしゃるんですか?」
私が最初に挨拶から始めると、続けて商人が質問した。
「ここから先にあるアルヴォレ国に向かっています!二日ほど前、ヴェーラ国に滞在してました!」
「ヴェーラ国ですか!私は今からそこに向かっている途中です!アルヴォレ国はちょうど一日前にそちらに出発しまして、その前はそこで商売をしていたんですよ!」
「そうなんですね!一日前といいますと、アルヴォレ国にはあと一日で着くということですか?」
「ええ。私は荷台と馬を連れているので、あなたなら急げば半日ほどで着くと思います。」
気づけば、もうすぐ目的地らしい。特に急ぐ予定もなく風景をゆっくり見ながら行きたいので、商人と同じく一日程かかりそうだ。
「わかりました!ありがとうございます!」
「いえいえ。そういえば、こちらの子は?」
と言ってムギを手のひらで指し示した。その後ムギは一歩前に出て商人に近づいた。
「この子は私のペットでムギといいます!一緒に旅をしていて、とてもかわいいんですよ!」
「いいですね~!本当にかわいらしい!」
商人がそう言うと、ムギがゆっくりと振り子のようにしっぽを揺らした。とても嬉しそうだ。
そうして私と商人はムギの話題を主にしばらく話した。
「いいものを見させていただきました。とても癒しになりましたよ~!」
「いえいえ!こんなに喜んでいただけて、嬉しい限りです!」
ムギも嬉しそうに商人の方を見つめている。たくさん褒めてもらえたから、ムギのモチベーションも上がったのではないだろうか。
「ではそろそろヴェーラ国の方に向かいますね。」
「お気をつけて!」
「ありがとうございます。あなたもお気をつけて!」
そう言うと、商人は荷台と馬を従えてヴェーラ国の方角に向かった。
こうして、ヴェーラ国を経ってから二日目の夜が経過した。空を見上げると、細くて明るみのある三日月が浮かんでいた。
私は草原に少しだけ盛り上がった丘で立ち止まって、三日月の光に見とれていた。
ムギは私を待っているのか立ち止まった私の右隣で座り始めた。すると私の右手を少しだけ舐めた。ペロペロケアで体力を回復するためだ。
「きれい⋯⋯」
夜空には三日月が浮かび、日本では簡単に見られない無数の星が細やかに輝いている。この空にも星座や太陽系などはあるのだろうか。
「みゃおーん」
そんなちょっとした疑問を浮かべると、私の隣にいたムギが一度鳴き声を発し、私の先に歩き始めた。前に進みたいのだろう。
「ムギちゃんごめんね。つい気を取られてた。じゃあ、先に進もっか!」
私たちは綺麗な夜空の下でまたアルヴォレ国へと歩き始めた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ここからほぼチートのスローライフのように進みます。