異世界に飛んじゃった猫
「あれ?さっき家でSNSを見てフォロワー20万人の待機していたはずなのに、なんで?」
辺りを見回してみると、さっきいたグレーがベースのリビングから一転して、現実ではありえないほど彩度が鮮やかで、雑草が膝まで伸びている草原に私はいた。
「手にスマホもないし、夢かな?」
そう疑った私は手を握ったり開いたりして、感触を確かめた。
しかし、握った際に手掌から指に伝わる温もりは現実そのものだった。
ここはおそらく現実だと、状況を整理したところで私は一緒にSNSの様子を気にかけてくれていた愛猫の存在を思い出した。
「そういえばムギは!?おーーーい、ムギちゃーんーーー!!どこにいるのーーー!」
地平線が見える程広大な草原に響き渡るように、私は叫んだ。
しかしその声は届かなかったのか、ムギは見当たらない。
私は心配で、辺りを何度か歩き回った。
膝まで草原が伸びていて、とても歩きにくい。
草原に飛ばされてから、一時間程経っただろうか。
こんな見渡しのよい草原で見当たらないのであればムギはいないのではないか。
もしかしたら、私だけ移動してムギはそのまま家に居るのかもしれない。
でも、その場合誰がお世話をするのだろうか。
いくら熟考が好きな私でも、考えることが多すぎると感じた。
歩いたり考えたりして少し疲れた。
そう思った私は、休憩がてら一度雑草の茂みが浅い場所に腰を下ろし後ろに手をついた先に、偶然横に緑の草原には似合わない茶色い毛玉が落ちていた。
「ムギ!ここにいたの!?倒れてるけど大丈夫!?」
どうやら、ここまで来て見つからなかったのは横になっていて茂みに隠れていたからのようだ。
私はすぐムギの心音を確認___しようとした時、毛で隠れていた瞼から瞳がいきなり現れ、体を起こした。
そして小さな前足をまっすぐ伸ばし、後ろ足を支点にして床にぺたりと体を沈めながらあくびをした。
どうやら、ただ寝ていただけのようだ。
ムギの無事を確認した私は固くなっていた肩をほぐし、ムギの頭を撫でた。
ムギは目を瞑り、気持ちよさそうに頭を私の手にすり寄せた。
ムギが見つかりひと段落着いたところで、私はムギを抱いてこの草原を回ってみることにした。
私は確信したことがある。
ここは現実だけど現実の概念が通じない世界___つまりどういう訳か、私たちは異世界に来てしまったのだ。
そう解釈した根拠として、所々に見慣れない植物があるからだ。
タンポポのような形だが、色が赤いので絶対タンポポではない。
さらに、ゲーム等でよく出てくるスライムっぽい生物がいるけど...水色でぷるぷるしているから多分スライムである。
ただ、私たちには襲い掛かってこないようだ。
ゲームではよく襲い掛かってくるものだけど、たぶん興味がないんだと思う。
でもこちらにとっては好都合、なぜならムギを抱いた状態で襲われたらひとたまりもない。
そんなことを思って草原を回っていると、今度は先が全く見えない森に当たり、私とムギは少し森を眺めていた。
すると後ろから
「待ってください!行かないで!」
と大きな声で言われた。
誰だろう、と後ろを振り向くとそこには鎧で覆われた人が立っていた。
「あぁ、いきなり大きな声を出してしまってすみません。私はヴェーラ国の副隊長でアズーロと申します。この森の偵察に来ました。」
と言いながら兜で覆われた顔の中身を見せた。
目は透き通った青色で、とても綺麗だ。
「アズーロさんですか!ヴェーラ国とはどこですか?」
ムギはきょとんとしている。
私もまったく聞き覚えがない。
やはりここは異世界であると、私は改めて確信した。
「ここから2㎞程先のところにありますよ!港町でとても綺麗です!こんな危険な場所で立ち話もなんですし、よければ私がヴェーラ国に送りましょうか?道中の安全は保障します。」
アズーロさんから提案が来た。
たしかに、行く宛もないし、この森は危険らしいから着いていくことにした。
しかし、この時の私はまだ知らない。
いつの間にかムギが世界一強くなっていることに___