その先で、待っていた者
門を抜けると、広場のような場所に出た。
鐘の音は今も断続的に続いている。
奥に見える特徴的な建物の屋上から塔は突き出していた。おそらく教会の鐘塔だろう。
そこは高層階の建物に取り囲まれてはいるが開けた空間で、所々に樹木や休憩するための椅子があるので公園のような場所なのだろう。
しかし、今は地面は隙間なく大勢の人々で埋め尽くされ、木の枝や椅子の上にも犇めいていた。
群衆の間には鎧を着た兵士がいるようだが、混乱を鎮めるどころか身動きすらも出来ないようだ。
すべての目が、一点に集中している。
その場所は、階段状に盛り上がっているようで、人々の頭が段になっていた。
舞台だろうか。いや、それならば、客席から見下ろすような形状の方が観やすいだろう。
未だ鐘は鳴っていたが宗教的な儀式の雰囲気でも無さそうだ。
人々の先には立ち入れない空間があるようで、そこには複数の石像が置かれているのが隙間から窺えるが、そのせいで余計に何のための場所か分からなかった。
中央に石の台座があり、僕のいる離れた場所からでも、そこに三人の男が立っているのがわかる。
中央の赤毛の若い男性が、天に向けて、剣を掲げていた。
その腕だけでも筋肉質の肉体が窺えた。
刀身全体が、光に包まれている。
陽光を反射しているというより、それ自身が光を放っているようだ。
先程より僕の背後で騒ぎが起きていた。
この場所に人が集まりすぎたので門扉を閉めようとしたのだろう。
しかし、扉の前後に人々が集まっているので閉じられず、離れるよう命令する兵士の声と、続々と増える人々の間で互いに身動きが取れなくなり騒動となったのだろう。
その赤毛の男性の脇には、ふたりの男が立っていた。
ひとりは中年の兵士のようだが、戦闘向きではなさそうな飾りが多い鎧を纏い、剣も提げていない。髭を長く伸ばしており、他の兵士よりも地位も年齢も上のように見える。
もうひとりの方が年配で、どちらかというと剣よりも杖の方が似合いいそうだ。
その男が、両手を空中に掲げる。
その動作で全身を覆っていたマントが翻り、胸元に紋章が現れる。
それが合図だったように、鐘の音が止まる。
余韻と共に人々のざわめきも鎮まってゆく。扉の前の争いも自然と静寂へと変わっていった。
「この者は、封魔の剣に選ばれ、その持ち主となった。古の歴史書より、この世界に勇者が現れた時には祝福の鐘が響き、その到来を告げると伝えられておる。今がまさに、その時である」
広場中へと、その声が響き渡る。
大歓声が沸き起こる。
先程よりも高く大きな音で鐘は連続して鳴らされる。
これが、祝福の鐘か。
世界中に音を響かせるように繰り返される。
再びマントを翻し、両手を上げる。
「これより、この者は魔王を封じるために旅立つことになる。まずは、王へと報告せねば。皆は、勇者が姿を現した証人となったのだ」
今のが祝福の鐘であったのならば、それまでの鐘の音は人々を集めるための知らせのようなものだったのか。
寝る前に読んだ本のことを思い出す。
あの本は、魔物が現れたところで終わっていた。その続きの物語を僕は夢で見ているのだろうか。