その先で、待っているもの
鐘が、鳴っている。
細く高い尖塔の頂を支える四本の柱の間で揺れ、陽の光が当たると金色に輝く。
「ちょいと、そんなところで立ち止まらないでおくれ。間に合わなくなってしまうよ」
背後からの言葉で、僕は往来の只中、ひとり立ち尽くしていたことに気付かされた。
反射的に謝って、脇へと移動する。
そのせいで人波に乱れが生じたようで他からも同じような文句が出てしまい、何度も謝罪の言葉を繰り返す。
すれ違う際に見た姿は老婆だった。
一枚の白布から織り上げたような服を纏っており、肌と髪も同じような色だったが、瞳だけが赤く印象に残った。
通りかかる他の人々も似たような格好や人種のように見える。
言葉が通じたのかわからないが、相手の言葉が理解出来たのだから問題は無かっただろう。
やがて、老婆は人波に紛れて見えなくなった。
皆は、鐘の音のする方を見上げるような姿勢で足早に進んでいるようだ。
ここは、どこだろう。
世界の、どこかの国なのか。
気が付いたら、ここに立っていた。
それにしても言葉が理解出来たのは何故なのだろう。
往来の隅に寄り、立ち止まってこの状況を把握しようとするが、絶え間なく後から人が現れ、その川の流れのような一方的な勢いに押されて前方へと進んで行ってしまう。
両脇には石造りの建物が続いている。軒先が広く開いており、品物が並べられていた。
また、建物のない路上には木製の台を置いたり、敷物を地面に敷いただけの仮設の店舗を広げているものも多いようだ。
ここは商店街か市場だろうか。
鐘の音に釣られて、店主が飛び出して来る姿も見かけられた。
しばらく流れに身を任せていると、人々は壁にあるアーチ型の門扉に吸い込まれて行くのがわかった。
僕もそちらへと近づいてゆく。
その先には、何が待っているのだろう。