物語は、そこで終わっていた
帰宅後、すぐに風呂を沸かして入る。
その後も全身に昼間の熱がこもったままのようで、やる気が起きなかった。
寝る直前になって、ようやく本のことを思い出した。
デイバックは防水仕様だったので内部は濡れていなかったが、帰宅時に一度中身を全て机の上に出してそのままになっていたのだ。
布団に潜り枕を胸元に挟み、うつ伏せの態勢で本を開く。
固い布張りの表紙を開くと、ここにも題名や作者名などは書かれておらず、すぐに文章が現れる。
そのせいか、一瞬、見知らぬ文字のような違和感があったのだが勘違いだったのだろう。
その本に出てくる世界には大陸がひとつあるだけで、他に大地は無いという。
表紙に貼られた地図がそれだろうな。
ある時、魔物が現れるようになり世界は滅亡の危機を迎えた。
その時、ひとりの剣士が現れ、魔法使いと力を合わせて魔物を封じこめたという。 その剣士は、勇者だと人々に讃えられた。
しかし完全に魔物は消滅したわけではなく、封印の力が薄れた頃には甦ることが予想されたのだ。
その時に備えて魔法使いは、今際の際に、剣に魔力の全てを注ぎ込み、やがて、それは封魔の剣と呼ばれるようになったという。
幾度も同じことが繰り返され、今再び、世界に魔物が姿を現わしたという。
ページをめくる。
白紙だ。
それ以降は、どこまでも白紙が続いているだけだ。
本を閉じるが本棚に収めようとは思えなかった。
本とは、それだけで完結した世界であるという思いがあったからだ。
この本は、 誰かがその続きを書いてくれるのを求めるように中途半端で終わっている。
枕元の携帯の近くに置き、目を閉じる。
明日、もう一度あの場所を訪れてみよう。老人がこの本をただで譲ってくれたのは不良品だったからなのか、それとも他に理由があったのだろうか。