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手に入れられないものを、手にする
「その本が、気になるかね」
老人は懐かしいものを見た時のような遠い眼差しをしていた。
「突然こちらに向かって飛び出して来たみたいで」
「もしかしたら、そいつは本当におまえさんを求めておったのかもしれんな。まさに、運命の出会いというやつだわ」
そう言われると余計に気になってしまうが、高価そうな本だ。
「貴重なものなのでしょう」
「ふむ、その本に値段を付けることは出来んな。そいつをいつまでも手元には置くことは出来んからな」
謎めいた言葉だったが、結局、ただで譲ってくれることになった。