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祝福の鐘が鳴らされた時、この世界に勇者は現れた。  作者: 黒猫川 散歩
第2章 後半 魔王討伐隊、北進する
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揺れる、気持ち

 穴の底のウルドの灰は埋め戻され、土饅頭(どまんじゅう)の上には三本の枯れ枝が立てられた。


「墓標ですか」


 僕の呟きに、ダルトレイが答えを返す。


「いや、誰かが間違えて掘り返さないための目印に過ぎない」


 この先の村で、どんな魔物が待っているか分からないが、王国へ引き返すとしても足が必要だろう。


 馬車は、魔王討伐(とうばつ)隊が森の先に広がる大地の裂け目の調査を終えるまでは、村に停留するという。

 とりあえずは、村まで同行してから行き先を決めよう。

 ここに留まっていても良いことは無いだろう。


 ここまでの道行(みちゆき)でのことを思い出し、馬車に急いで乗り込もうとするが、マジクルは体型に似合わず意外と身軽なので、先に席についてしまっていた。


 乗員は昨日と同じだったが、今日は僕がマジクルとマッホとの間に挟まれることになった。

 マッホに迷惑が掛からないようにマジクルを押し留めようと(つと)める。


 窓外(そうがい)を流れる景色は、段々と草丈(くさたけ)が高くなって来ていた。


 霊峰だというノルアス山の偉容(いよう)(せま)って来る。


 (ふもと)には森が取り囲んでいる。

 その手前の村は、まるで、ミニチュアのように見える。


 北方(ほっぽう)の大地は起伏が多いようで、車輪がホッピングを繰り返す。


「あ、ごめんなさい」


 車内が揺れると、反射的にマッホが僕の手を(つか)んで来て、その(たび)に彼女に謝まられてしまう。


 座席は長椅子(ながいす)だけなのでベルト等で固定されていないし、肘掛けも存在しないので、掴まるものが無いのだろう。


「馬車に、乗り慣れていないのです」


「僕も同じですから、わざわざ断らなくても大丈夫ですよ」


 車輪が地面の石に乗り上げたようで、マッホが急接近して来た。


「すみません。やはり、ご迷惑ではありませんか?」


「平気ですから」


「それなら、良かったです。本当に、(よろ)しいのでしょうか?」


(かま)いませんよ」


「それでは、お願い致します」


 その僕の返答に、マッホは自分の身体を近付け、両手で僕の手を掴んで来た。彼女の体温が伝わって来て、気恥ずかしい。


「ありがとうございます。安心しました。空を飛ぶのは平気ですが、地面の揺れは少し苦手なのです」


 何か(たが)いの認識に齟齬(そご)があるよな気がするが、指摘するのも悪いような気がする。


 車内が振動する度に、握られた手に力が込められる。


  王国付近の街道は手入れをされていたようだが、この(あた)りは、草が踏み倒されて道の(よう)になっているだけのようだ。


 やがて、手を掴む力が弱まって来たので、馬車の揺れに対して慣れて来たのかと思い横目で見てみると、寝息を立てていた。


「マッホは、緊張しておるようだわ。なにしろ、旅に出るのは初めてだからのう。それも、魔王退治だとは重荷であるわ。ヨミトよ、孫を少し休ませてくれんかな」


 マジクルが、僕に視線を向けてくる。


「この子の両親に魔力の素質は無く、先祖返りなのだ。そのせいもあり、親子関係が上手く行っておらん。わしが祖父であることも魔法学校では(ねた)まれておるようで、親しいものがおらんのだ。お前さんは、同世代のようであるし、マッホと仲良くして欲しいのだがな?」


「勿論です。けれど、彼女が良ければですが」


「嫌われては、おらんよ。お前さんが馬車に乗り込む時、マッホは自分から話しかけておったであろう。珍しいことだわ」


 馬車は立ち止まらずに走り続ける。

 他の人達は目を閉じて休息していた。追手の姿は無いのだろう。


 ノルアス山が近づいて来ると、中腹(ちゅうふく)に、無数の穴が整然と並んでいるのが見えてきた。


「あの穴は、何ですか?」


「どれであろうか?」


 マジクルは車窓(しゃそう)から身を乗り出すようにして探すので、そのまま落下しないか不安になる。

 僕はそちらを、指さした。


「あれは、教会の跡だな。信徒(しんと)(とき)を掛け、山を()り抜き作り上げた伽藍(がらん)だわ。一時は王国の別荘としても使われておったが、今は廃墟(はいきょ)になっておるわ」


「どうして、使われなくなったんですか?」


「麓に、森が見えるであろう。昔は、聖なる森と呼ばれた神域であったが、今は、迷いの森と呼ばれておる」


 どれほどの広さがあるのかは、ここからは分からなかった。


「歴史書には、森に魔物が現れた時のことが伝えられておる。その時、山腹の教会も襲われて、(ほとん)どのものが命を落としたそうだわ。山の(いただき)氷土(ひょうど)(のが)れ、生き長らえた者達も、その後は山を降りて、森の手前に村を作り移住したと云うわ。それ以降、森から先は、禁足地(きんそくち)になっておる。だが、今でもノルアス山が霊峰であることは変わらず、(あお)(うやま)っておるようだ。わしらが目指しておる村は、そこだわ」


 山頂は万年雪に(とざ)されているように、白一色に塗られていた。


「村で何が待っておるか、わしにも(わか)らんわ。今のうちに休んでおくのだな」

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