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祝福の鐘が鳴らされた時、この世界に勇者は現れた。  作者: 黒猫川 散歩
第2章 前半 魔王討伐隊、北へ行く
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走るものと、追うもの

 そこにあったのは、一面の草原だった。

 植物に(おお)われた世界のようだ。


 (たけ)(ひざ)ほどで高くは無いが、地の果てまでも続いている。


 (さえぎ)るものがないので、(かす)かな風でも遠くまで吹き渡るようだ。


 葉先が陽光に()け、白い(うお)の群れが泳いでいるように輝いていた。


 彼方には、大陸を縁取(ふちど)るように山脈が取り巻いているのがわかる。


 北のノルアス山という霊峰(れいほう)だけは天に突き出すように目立ち、(いただき)には雪が白く積もっていた。


 王国手前だけは馬車が行き交うからか、地面が()き出しになっている。


 そこから北へ向けて、一本の道が伸びている。


 馬車同士がすれ違える程の幅がある。地表の起伏や道の蛇行(だこう)があるので全てを見通せるわけでは無いが、ノルアス山の(ふもと)に見える森まで続いているようだ。目指すのは、その手間にある村だ。


 馬車は北へ向けて走り出す。


 その街道の始まりには、両脇に石積みの塔のようなものが置かれている。標識のようなものだろうか。


 車内では時折誰かが話し出すが、長くは続かず、車輪の立てる音だけが響いていた。


 窓から見える景色には変化が無く、窓枠で切り取られたそれは、青空と草原という題の風景画のようだ。


 中天(ちゅうてん)に太陽が登った頃、馬車は止まった。


 後部扉が開かれたので、車外へと出る。

 昼食の時間だろうか。


 身体を伸ばし、軽い体操をする。

 常にマッホのことを気にしていたので関節が強張(こわば)っていたようだ。


 木陰(こかげ)になるような場所を見つけ荷物を拡げる。

 (おも)(おも)いの場所を選び、食事の包みを開いてゆく。具材は異なるが、朝食べたものと同じだ。

 御者(ぎょしゃ)が温かい飲み物を配ってくれた。


 遠足のようだ。


 そのまま草に倒れたら眠ってしまいそうになる。

 そういえば、昼寝をしたことで、この世界を再訪(さいほう)したのだったな。


(にお)うな」


 今まで一口も喋らなかったサンダムが呟く。


 鼻を利かせてみるが、草いきれがするだけだ。魔物の気配があるのだろうか。


 周囲は開けた草原が取り巻いていているだけで、僕にはその理由がわからない。


「ふむ、何者かが、(あと)をつけておるのかもしれん」


 マジクルも(あた)りを見(まわ)し、同意する。


「見てこよう」


 ダルトレイが立ち上がり、草叢(くさむら)のなかに入ってゆく。


「私も行きます」


 ジョンズも慌てて後を追う。


 フィンとサンダムは周囲を(うかが)っているようだ。


 もう一台の馬車の乗員からも何人かが、後を付いて行った。


「魔物でしょうか?」


 僕はマジクルに尋ねてみる。


「わからぬ。(かす)かな魔力を感じたのだが、小さな魔物か、逃げてしまったのか、はっきりせんな」


 マジクルが頬張ったまま返答をする。


「そんなに大勢の方で探し回っても、相手が警戒してしまうだけですよ」


 マッホは(あきら)めたような口調だ。


 しばらくすると皆は戻って来た。


「馬車と並走(へいそう)して草が倒れていました。何者かが跡をつけていたのは確実です。土が乾いていたので足跡は、はっきりしませんでしたが」


 ジョンズは地面を探し回ったのか、手足が土で汚れていた。


「御者がこの先に休憩小屋があると言っている。食事を終えたら、そこまで急ごう」


 ダルトレイが皆に伝える。

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