運命に抗うための、手段
山といっても登山ではなく、ハイキング向きのゆるやかで高台のような場所だった。
周辺地域の公共施設も集まっているようだ。
この先の頂上には展望台があるようで、一厘富士という表示の看板を途中で見かけた。
駐車場には車が停まっているが、自転車は一台も無かった。
昨日も熱中症警戒アラートが出ていたので近隣住人は外出を控えているのだろうか。
開いたままの自動ドアを抜けた時点で、異変に気づけたはずだ。
大抵の図書館の新聞雑誌のコーナーは冷房目当てや休憩場所としている常連がいるのだが、誰も見かけない。
館内を見渡して、ようやく異変に気づけた。
蝉の鳴き声が、聴こえてくる。
窓が開いているのだ。それも全ての窓だ。
屋外ほどでは無いが、室内にも熱がこもっているのに気づいた。ここまで自転車を走らせて来て身体が温まっていたので体感するのが遅れたのだろう。
「クーラーが壊れているのですか」
カウンターの職員に尋ねてみる。
「そうなの、この頃、施設を制御する空調設備の調子が悪いようで時々止まるの。今日は駄目ね、皆さんすぐに帰られます。私達はお仕事なのでおりますけれど」
「それじゃあ、自習室は」
「もっと、悲惨よ」
覗いてみる。
天井にクーラーがあるようだが、その下にブルーシートが敷かれバケツが置かれていた。
「クーラーが動き出すと、温水のシャワーよ」
他の施設も同じような状況らしいので外へと出る。
先程より陽射しが強くなっていた。
駐輪スペースへ向かう途中、建物で日陰になっている場所にベンチを見かけたので、つい座り込んでしまう。
再度、時刻を確認する。
今から帰ったら昼食の時間だろう。
わざわざサンドイッチを作ってもらったのだが、持ち帰って家で食べるのも恥ずかしいような気がして、少し早いが食べることにする。
ペットボトルも一本飲み干して、しばし微睡む。
一日の計画を練り直す為に、この先を検討してみるが、今までの選択が悪い結果を生み出しているようで決まらない。
もしかしたら運命を司る存在がいて、僕をどこへか導くために立ち塞り、そちらへ向かわせているのかとも思ってしまう。
そのせいで悲惨な結末を迎えるのならば、おとなしく家へ戻った方が良いような気もする。
少し休憩をしてから帰宅しようと、一瞬、目を閉じる。