雨上がりの、再訪
目覚めると、いつもの自室の天井だった。
枕元には、あの本が置かれたままだ。
手に取ってページを開いてみる。
昨日は白紙だったところに、文章が記されていた。
その世界に、魔物を倒すために勇者が現れたというのだ。
昨日よりも物語が進んでいる。
それも、僕が夢のなかで見た出来事が書き残されたようにだ。
ただし、その先は相変わらず白紙のままだ。
やはり、もう一度、あの小屋を訪れてみよう。
昨日濡れたデイバックと靴は軒下に干してあったので、違う鞄を取り出して、本も入れる。
一応、勉強道具や筆記道具も準備する。
着替えも用意し、帽子も探し出した。
念の為に、携帯用のレインコートも持っていこう。
「早く帰ってくるのよ」
朝食を終えて出かける僕に、母親はテレビドラマの続きが気になるようで、画面を見たままで声だけをかけられた。
今日も猛暑日のようだ。
昨日の雨の痕跡は風景のどこにも残っていなかったが、自転車の車体には泥がこびりついたままだ。
森が見えてくるまではスピードを出して走って行く。郊外に向かうので車は少ない。
脇道は、膨らんだカーブに隠れるような場所にあったので、その付近に近づいたら速度を落として進んでゆく。
森の小道を見つけ進んで行くと、小屋が見えて来る。
窓ガラスが陽光を反射していて眩しい。
ウッドデッキの階段を登り、ガラス越しに室内を覗いてみる。
薄暗く、室内に人の気配は無い。
昨日のように奥にいるのかも知れないと思い、ノックしてみる。
しばらく待ってみるが、返答は無かった。
ドアノブに手を掛けてみるが、固く閉ざされているようだ。
今日は休業日なのだろうか。気が向いた時に営業するとは言っていたが。
小屋周辺を、一巡りしてみる。
背後には森が迫っていた。
やはり、この場所で行き止まりのようだ。
小屋の三方には、いくつか窓があったが換気目的のようで、他には出入口は無いようだ。
ウッドデッキに戻る。
鞄からノートを取り出して、一枚破る。ここを訪れたことを伝えるメモを残すことにする。
郵便受けを探すが見つからなかったので、扉の下の隙間から室内に差し込んでおく。
山の上図書館のクーラーは壊れたままだろうな。
駅近くの図書館の自習室は既に席が埋まっているだろうか。
そう考えながら自転車を走らせていたが、結局、どこへも寄らず、昼前には家に帰って来てしまった。
昼食を食べると、昨日からの外出の疲れが出たのか、眠くなってきてしまう。
少し昼寝をしてから、勉強をすることにしよう。