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6.プロローグ(再)

 学校へ行こう。

 朝、目を覚まして、いつも通りにコーンフレークを食べながら、そう決意した。

 理由は単純。

 思いつく限りの娯楽はとっくに遊び尽くしてしまったこと。

 そのため暇を持て余し、長い休みに飽き飽きしていること。

 あとは、今日は天気が良かったこと。

 とにかく。不思議なもので、あれほど待ち焦がれていたはずの休みに、今はもうウンザリしていて。

 何となく学校が恋しくなった。

 それだけのことだ。


 外へ出る。

 質量さえ感じるほどぎらぎらと鬱陶しく照りつける太陽に辟易する。

 背負った荷物が嵩張るうえに、重たいのが実にいただけない。

 こうして、俺の夏休み最終日が始まった。

 目標はひとつ。

 今日という日を精一杯、楽しむことだ。


 そして、辿り着いた学校。


 誰もいるはずのない教室に、彼女はいた。



 *



「…………きれい」


 秋野は笑っていた。

 終わりを象徴する光景。

 地獄みたいだと思った景色。

 真っ赤に染まる廃棄物の海を前に。

 とても素直に、笑っていた。

 何故か今、俺にはそれがとても自然なことのように思えた。


 夕暮れとゴミの海。

 夏休みの最終日で、この世界の終わり。

 そして俺たちが出会った日。

 そこには因果も意味もないけれど。

 ただ、笑う秋野を見て、俺は良かったと思った。

 町を出なくて。

 秋野と会えて。

 ここへ来れて。

 笑顔を見れて、良かった。


「榎本くん、ありがとう」

「え?」

「私を、教室から連れ出してくれて」


 秋野は真っ直ぐ、俺の目を見つめていた。


「……私、水槽の中のお魚は幸せなのかって考えてたの。外敵はいなくて、守られていて。

 ……だけど狭くて、不自由で、寂しいかも知れないって、考えてた」


 でも、と秋野は続ける。


「そんなの、本当はどっちでもいいのかも。だって、世界なんて、こんな簡単に壊れちゃうし……

 壊せちゃうんだって、わかったから」


「…………壊す」


「だから、ありがとう」


 そう言って、秋野は笑った。


「どう、いたしまして」


 地平線の向こうに太陽が沈んでいく。

 残された時間はあと僅かだ。


「それから、クレープも水族館も……私のために選んでくれてたでしょ」


 それも、ありがとうだね、と秋野は微笑む。


「……いや、礼を言われるほどのことしてねえよ。ただの暇潰しだし」


 何だか無性に照れくさく、無愛想に誤魔化した。

 どこかの歯車が噛み合わない感覚。

 いつものように振る舞えない自分に戸惑う。


「デート、でしょ」

「あ、いや……ああ」


 秋野からの訂正に面食らう。

 俺が言い出したことなのに。

 どこか晴れ晴れと、何かが吹っ切れたみたいに笑う秋野はとても綺麗で、

 心臓が早鐘を打つ。


「榎本くんは、どこか行きたい所ないの?

 他に何か、やりたいこととか……やり残したこと。

 付き合うよ、今日のお礼」


 俺を見る秋野の向こう。

 最後の夕陽が落ちて、空が藍色に染まる。

 夏の、夜の匂い。


「…………学校」


 気づけば、俺は答えていた。


「学校に、戻らなきゃ」

「……学校?」


 そうだ。


 俺にはまだ、やり残したことがある。




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