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第0話 プロローグ [始まり、或いは分岐点]

初めまして、ご存じの方はお久しぶりです。

久々に改稿がまとまってきたので、ぼちぼち連載を再開していこうと思います。

 ―――「あっこれ多分ダメだな」


 そんな風に完全に全てを諦める事なんて、正直小説の中でもなければそんなことは起きないと思ってた…それも数秒前までの事なんだけどさ。


 手を伸ばしてみてもダメで、足掻こうにも何もできない。しようが無い。八方塞がり、絶体絶命。そんな言葉が容易に浮かんでくるわけだ。


 後はもう、世界の条理と言う名の不可抗力に全てを委ねる外無く―――



「うぎっ」



 ドゴッと言う盛大な音と共に押し出されるようにして情けない声を上げ、”階下に落とされた衝撃”によって俺の意識は易々と刈り取られた。











「ったた…」



(まさかこんな年にもなって階段から落ちるなんて…)


 目を開けたら、そこは見知らぬ天井…なんてどこぞやの物語の導入的な事は無く、階段の踊り場に、頭を下にした状態で目を醒ました。

 現在実質一人暮らしの俺の家に、起こしてくれたり、病院へと連れて行ってくれる存在はここにはいない。


 未だに痛む後頭部と曲がった状態で固定されていた事による首の痛みに顔を顰めつつ、俺は立ち上がった。



「どれくらい気失ってたんだ…?」



 流石に数時間単位で気絶はしていないだろうと思いながら時計へと目を向けると、先程二階にいた時間から計算して、ざっと数十分程しか経過していなかった…けど。

 ふと、今日のこれからの予定を思い出して焦りを感じた。



「7時20…やっば!?急がないと!」



 普段のルーティンで早めの起床を心がけているものの、先程の気絶の事が有り、学園の始業時間が着々と迫りつつあった。

 これから朝食や着替え、洗顔歯磨きetc…とやる事が積みに積みあがって…


(いや考えてる暇あったら動くか!)


即座にそう考えると、俺は出来得る限りの効率で準備を進める事にした。もちろん朝食はカットです。学園でなんとかしよう。学食とかあるし、うん。

 最悪食わずともなんとかなる…はず!



(ふぅ、やっぱ寝起きに水はさっぱりする…な?)



 着替えを済ませ、洗顔を行っている…と。


 ふと顔を上げた瞬間に、鏡に映っている『()()()』に見覚えがある事に気が付いた。

 確か、この顔はどっかで見たことが…?


(いやいや、頭でもおかしくなったのか?そもそも俺の顔じゃんか)


 一瞬浮かんだ思考にはてなマークが多発する。普通に考えて自分の顔に『見覚えがある』なんて思う訳が無いだろ。見覚えも何もこれまで十数年間共にしてきた俺自身の顔だし。

 まぁ、”似た顔”に見覚えがあるならまだしも…だけど生憎と俺はまだ世界に2,3人はいるって言うドッペルなゲンガーには出会ったことが無い。



「頭打った時におかしくなったかな…」



 頭をリセットするようにもう一度冷水を顔に当てると、俺は準備を済ませて玄関へと向かう。


 12月、季節は冬。

 北の大地と比べてあまり雪が降らない地区とは言うけれど、それでも12月に入ったばかりで、年末も近い時期となれば寒さはひとしおだ。

 俺は玄関先のポールハンガーに掛けているコートを羽織ると、外へと向かう。



「行ってきます」



 時刻は7:40。ここから駅まで向かい、降りた駅から学園へと向かわなきゃいけないことを考えると、あまりゆっくりしてられない。するつもりも無かったけど。

 今から俺が住んでいる春輪台という地域、その中の最寄り駅である曙前まで向かった場合、電車の時刻的に少し間に合わない…から。


(“走って”行った方が早いな)


 そう脳内で呟くと、俺は足元に『式』を構成し、風の発生―――『魔術』を発動させた。











 十数年前。

 日本の某所にて見つかった遺構から、人に対し、『四大元素を操る事が出来るようになる』という変異を齎す物質が発見されたことからやや停滞していたこの国、如いては世界の時代が音を立てて動き始めた。

 最初こそ「超能力者!」と往年のオカルト番組よろしくテレビや各メディアで取り上げており、一部では観光資源にしようとまで考えていたらしい。

でも、その物質が発見された遺構(後に中枢溝(センティリオ)と名付けられたもの)が各地で発見され始めた事、また同時に発生する能力者の多発、及び悪用による事件も相まり、次第に『超能力』と珍しい物を見る目から『魔術』と言う呼称へとシフトした。


 そしてその動きと同時に、現状法律が存在していなかった魔術の濫用防止の為、政府は魔術省の発足、及び魔術統治協会(M.R.A)を設立。

 魔術統治協会は未知数であった魔術を学問として研究を行い、メカニズムを適用させることにより『式』として魔術の詳細を設定する事を可能とした。

 これにより、これまで個々の感覚で発動していた魔術は暴発等の危険性を抑え、より一層の発展へとつながる事となった。


 しかし、技術の発展という物は、光の面だけでは無く影も生みだしてしまうという事は歴史が証明している。

 案の定、各地にて魔術による犯罪がこれまで以上に多発。さらには魔術を持つ者、持たざる者の間に格差的な差別が生まれたりと、明るい未来が遠のきつつあった。


 それから2年ほどが経った頃。

 中枢溝の発見数も既に大小合わせ百を超え、同時に魔石から発見される物質の解析も進んできていた。そこから見つかった物質は『魔石』と呼ばれ、魔石から発生した気体である『魔素』が体内の血液と結びつき、噛み合わさる事により、魔術を使用できるようになる。


 この解析により、魔術は後天的に生み出すことが可能になり、魔術の適正がある者の呼称である魔術師の人口も増え、人口に対し7割後半と、過半数を超えるまでに至っていた。

 この時期になると「そのうち使えるようになるかも」と言う思考から魔術師、非魔術師間での差別意識も薄れ、警察など取り締まる側にも魔術師が増えてきたことにより、犯罪係数も減少傾向にあった。


そしてそこから更に1年。

 日本のみならず世界各地でも魔跡が発見されたことにより、日本では後発である世界に対し、今までの様に追い越されないよう魔術師の育成に対していっそう力を入れ始めるようになった。


 そこで生まれたのが魔術学園と呼ばれる物だ。


 名前の通り魔術について学ぶための学術機関であり、魔術の基礎から応用、M.R.Aが定めた魔術に関する規定の履修により、日本国内における魔術師の質の向上と、魔術の悪用の抑制の両方を目的として設立された。


 効果は非常に良く、『魔術の学園』というファンタジー御用達な要素に心躍らせた者達も多かったのもあり、勢いに乗ったその後は全国へと増加を続け、今では各都道府県すべてに魔術学園が存在するという状態にまでなった。











 魔術の発見より早十数年。人が使うに最適化された式によって、足元に加速を得るに十分な風が発生すると同時に、俺は街中を駆け抜ける。


 イメージとしては、足を無理矢理エンジンで動かしている感覚と言うか…難しいな。簡単に言えば、通常の一歩の走りで進める間隔を5,6倍レベルまで拡張してるって感じだ。

 とはいえ、それ一つだけ発動したらもちろん足への負担が尋常じゃない。一歩一歩に通常の5倍以上の力がかかる訳だからな。

 そこで同時に使用するのが『身体強化魔術』という物だ。これは体内に巡る魔素、それに魔術を干渉させることにより、筋肉等の一時的な強化を施せる魔術だ。

 

 ただ、この身体強化魔術って言うのは、体内の魔素にリンクするという性質上、あくまで『持ち前の身体の能力を引き出す』という、つまりは現状の身体の延長線上までしか強化を施せない。1から100までが限界の身体では、100以上には出来ないって事だ。


 それゆえ、この2つでも汎用性は無くはないけど、俺の筋肉を使っている事に変わりはないから、使用終了と同時に溜まった足への負担が俺に襲い来ることになる。


 そこで、俺はもう一つ、『保護』という魔術を足に掛けていた。

 これは魔術の中でもオーソドックスで、広く汎用性があるものの一つなんだけど、効果は単純明快、魔素を用いて対象に衝撃を吸収するコーティングを行う、って魔術だ。

 この3つの併用により、安定して魔術を用いた高速移動ができる。



「それっ、と」



 半ばパルクールじみた動きで塀と塀の間を抜けたりしながら、俺は警察に極力見つからない様なルートを通っていく。


 何故そうするかって言うと、防衛が必要などの状況を除いて、魔術による犯罪防止の為、指定場所や状況以外での魔術使用は自粛せよ、ってM.R.Aに制定されているからだ。

 まぁ…俺みたいに見つからないようにやれば、大抵なんとかなる。黒寄りのグレーだ。


 と、僅か数分程で、学園まであと数百メートルといった所まで辿り着いた。俺は魔術をすべて解除すると、何食わぬ顔で通学路を歩きはじめる。

 すると、後ろから聞き覚えのある、俺を呼ぶ声がした。



「よっ~す!涼平」


「ノリか。おはよ」


「おう!おはよーさん!」



 後ろから俺に声を掛けてきたこいつは三吉(みよし) 忠則(ただのり)。この学園に入ってからの同級生だ。いいやつなんだけど…たまにおかしい行動力を発揮する事があるブレの激しいやつだ。



「いやぁ、今日もまた冷え込んだなぁ、涼平」


「雪降るって話もあるくらい…だから…な」


「うん?涼平?どしたよ」


「ああいや…涼平、だな、うん」


「マジでどうしたんだ?自分の名前でも忘れちゃったか?

是枝涼平だろ?このえ、りょうへい」


「あ、うん!そうそう、そうだよな」


「変な奴だなぁ」


「お前に言われたかねーよ」


「えーっ!?なんで急に俺が言葉で殴られたんだよ!?」


「自分のこれまでの行動を思い出すんだな」



 そうだ。俺は確かに是枝涼平…央都にある魔術学園、常盤学園に通う2年生で17歳。


 ただ…この『自分を客観的に見ている』ような感覚は何だ?俺は何者だ?どういう存在なんだ?『自分自身』ではない。

今日の朝からずっと、この世界、俺自身を『遠巻きに見ている自分』が存在している。自分自身を他人を見るかの様な視点で見てしまうのはなんなんだ?



「…―い、涼平さんや~?」


「っ、ごめん、ちょっと考え事してた」


「ちゃんと学園までは歩いてたからいいんだけどさ」


「うん?…ああ」



 気付けば、既に学園の敷地内に入っており、玄関の手前まで来ていた。どうやら考え込んだまま歩いていたらしい。器用なもんだな。



「悪い悪い。ちょっと色々考えることが有ってさ」


「まぁ年末だもんなぁ。俺も冬休みは最北端でも行こうか思ってるし」


「また唐突な…」


「心躍るじゃん?」


「…無理はすんなよ?」


「わーってるよ!」



 そう言えば…と俺はスマホのロック画面を開くと、日付を確認する。

 12/2…そういえば今日はアレがあったはず…と俺は今日の予定を思い出し、ノリへと告げる。



「転校生が来るのって今日だったよな?珍しい時期に来るもんだよなぁ」


「…へ?」


「なんだよ、なんか変なこと言ったか?」



 俺としては、さも当たり前のように、話題提起のつもりで言った…んだけど。



「お前…転校生って言ったか?そんな話あったか?」



 マジで知らない、といった風なノリに、俺は怪訝な表情を浮かべる。

 おかしい。確かに今日だった筈だ。確か名前は―――



(すめらぎ)冬摩(とうま)。間違いない。今日転校してくるはずだ」


「そんな話全然入ってこなかったけどなぁ…まぁお前が嘘言うとは思えないんだけど…って涼平さん????またシンキングタイムですか~い?」


「いや…」



 …おかしい。おかしすぎる。転校生?皇冬摩?

 昨日までそんな情報知らなかった筈だ。どこからそんな単語が現れたんだ?…いや、もしかしたら寝ぼけたままか…?

 ま、まぁ…結構強めに頭打ったわけだし、確かに変な夢を見た可能性は捨てきれない。



「…もしかしたらそう言う夢だったかもしれねぇわ」


「たまにあるよな~そういう現実と混ざったような夢」


「お前も夢見るのか」


「お~い涼平さん?俺の事なんだと思ってるの?」


「夢見る前に既に実行に移しそうだなって」


「はっは!否定できねぇな」



 ひとまず思考を振り切り、俺はノリと共に教室へと向かう。

 夢か…この不思議な現象も夢だったら、もしかしたら次の瞬間にはベッドだったりするのかな。











「はーい、おらみんな席に着け~HR始めっぞ~」



 教室に入ってきた先生が、けだるげな表情と声音でHRの開始を告げる。これで何も起きなければそれはそれであの思考の違和感が際立つ。起きたら起きたで未来予知か何かを疑う。

 けれど、席すら置かれていない隣のスペースが、俺の疑問を証明しているかのようだった。


(起きても起きなくても八方塞がり…)


どちらに転ぼうがおかしいものはおかしい…その事実に半ば諦めかけていると。



「唐突だし、この時期なんだが…うちのクラスに転校生だ」



 教師が徐にそんな事を言い出し、クラス中がざわつく。…やっぱりそうだ。朝の思考が当たった。当たってしまった。

 ノリの方も俺の方に驚いたような視線を向けてくる。俺だって驚いてる。ここまでくればもう誰が来るかなんて確定だろう。そう思って俺は次の言葉を待つ。



「それじゃ“冬摩”、入ってきてくれ」


「———」



 パチリ、パチリ。と次第に欠けていたピースが集まり始める。

朝から感じていた違和感と言う名の綻びが、一つの形を成していく。



「皇、冬摩と言います。東北の方から転校してきて———」



 彼の姿が、立振る舞いが。声が。

 次第に隙間を埋める役割を担っていく。






『俺は涼平。是枝涼平だ。よろしくな、冬摩』


『いいか、冬摩。魔術のポイントとしては―――』


『何か分からない事でもあったか?』






 今までに口にした覚えのない言葉が脳裏に浮かぶ。

(なんだ…なんなんだ、これ?)



「っと…それじゃ冬摩は…涼平の隣で良いかな、席は空き教室にあったはずだから、ちょっと取ってくる」


「分かりました」



 と、次第に俺の隣の席へと近づいてくる冬摩。

 そして、隣に来た冬摩に対し、俺はこう言うんだ。



「よ。俺は涼平。是枝涼平だ。よろしくな、冬摩」


「うん。よろしくね」



 そして―――最後のピースがカチリ、と音を立てて嵌まった。


 何故俺が俺自身を客観的に見ていたのか。それは記憶の中で、俺が”キャラクター”だったからだ。

 『是枝涼平』は間違いなく俺だ、そして今までを生きて、これからも生きていく…けど、どこか別の場所、別の次元では俺は”キャラクター”であり、”登場人物”だ。

 そしてノリも、隣にいる皇冬摩もまた、同様だと思う。


 そうだ、この世界は…この”舞台”は―――











ゲーム、『Magic@/(マジカル・)Majesty’S(マジェスティーズ)』の世界なんだ。

















「…ふぅン…世界が、動いたねェ」



 そう呟き、私は窓の向こうへと目線を向ける。

 初めてのパターンの観測。その事実は、私の気持ちを昂らせるには十分すぎる情報だった。


 何百、何千と繰り返してきた試行。そのそれもが、終ぞ定まったレールから違える事は出来なかった。どれも選べる道は全て分岐点の上。結局レールの上はレールのままだった。しかし…そもそも()()が間違っていたのだ。

 現に、今回の”道”では早速イレギュラーに遭遇する事が出来た。これを快挙と言わずして何と言おうか。



「最初からレールに載せない。まさかそういう事だったなんて、ねェ」



 ややバックボーンが不明瞭ではある…が彼の事だ。

面白いことに彼からは悪意という感情が微塵も感じられない。まるでそうされないように”制限”されているかのように、だ。今回の展開と言い、とても不思議な人物だ。


今回、私の不手際で彼に使われてしまったのは殆ど不慮の事故のようなものなのだが…これが驚くほどに相性が良かった。

どうやら、あの”世界”のこちらとの親和性は、違和感を拭えるレベルで、異常なまでに高いようだ。



「パラレル。あるいは―――いや、憶測で判断するのは悪い癖だ」



 ふと、画面に目を向けると、視線の向こうでは、彼が自らに三重にも掛けた魔術を用いて、街中を走る様子が映っていた。



「あんな魔術の使い方、普通の人には出来ないけどねェ。ただの一般人かと思っていたけど…これは何かありそうだ」



 とはいえ、今はそれが面白く、それでいて未来への期待が十分にできる。いや———これは、十分以上だ。半ば確信めいた気持ちを内面に隠せず、私は無意識のうちに笑みを浮かべる。



「今度こそ、なんで言い過ぎたと思ったけど…もしかしたら、君は壊してくれるのかねェ?」



そう呟き、私は彼の―――是枝涼平の成功を願うのだった。

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