閑話 イリスの気持ち
よろしくお願いします。
イリスは、精霊の国でずっとソワソワしていた。
「また名前を呼ばれているわ。」
仲間にそう告げる。
嬉しそうに、でも落ち着かない様子なイリスのことを仲間は見慣れているので、
「早く召喚されると良いわね。」
と声をかけてやる。
この一年間、何度も名前を呼ばれたが、一向に召喚はされない。
名前を呼ばれるたびに人間の世界を覗くけれど、魔法陣すら見当たらない。
イリスを呼んでいるのは、エリーゼと言う可愛らしい少女だった。
そもそも、召喚されるとき、人の召喚の言葉は大概横柄だ。
「出でよ、魔界の者よ」だとか、
「我が下僕となれ」とか。
それなのに、この子エリーゼは、とても優しく名前を呼ぶ。
一言一言、丁寧に。
人に伝わってやがて廃れた精霊の言葉を、――おそらく古い本を引っ張り出してきて、調べたのだろう――その発音一つ一つを丁寧に再現して、どんな人間よりも正確に、優しく、思いを込めて、イリスの名だけを呼ぶ。
そんなことをされたら、相手はどう思うか。
そう。イリスは、エリーゼにベタぼれになってしまった。
「今日もまた呼ばれたわ!」
「ああ、なんて可愛らしい声。」
「上手におしゃべりできますように、ですって!ええ、ええ、しますとも。おしゃべりをたくさんしましょう!」
エリーゼがイリスの名の発音を練習するたびに、パタパタとそこらじゅうを走り回るイリス。
呼ばれる度に、(エリーゼは呼んでいるのではなく読んでいるのだが)心がくすぐったくなる。
「召喚されたら、抱きついてしまいそう!」
そう言いながら、両腕で自分を抱きしめるイリスを、仲間たちは優しく見守っていた。
こうしてイリスは、約一年もの間エリーゼに会えるのを今か今かと待ちわびていたのであった。
読んでいただきありがとうございます。