イライラしている王子様
よろしくお願いします。
王子はある問題を抱えていた。
自身の召喚獣をコントロールできなくなっていたのだ。
王子――この国の第一王子であるセレンティウス。彼は学園に上級魔法使いを四名待機させていた。そして、時間を見つけてはその魔法使い達を伴って、彼の召喚魔法の“自習”をするようにしていた。
この国の王子は一人しかおらず、必然、彼が王位継承権第一位となっていた。
そんな自分が、召喚獣すら思うように使役できないのでは、周りの貴族に示しがつかない。
早急にこの問題を解決する必要があった。
別棟の専用教室を閉め切り、窓全てにカーテンを引く。そして、遮断魔法の得意な一名に空間を遮断させ、部屋に小魔物一匹通させないように徹底した。
そこから普段は魔法陣を熾し、束縛の魔法を構え、召喚の魔法陣を起動させるのだが、ここ最近は手順が違っていた。
常に召喚獣が出たままになっているのだ。
別に召喚獣が召喚されたままになっているのはおかしいことではなかった。エリーゼとイリスのように、自由に行動させている者もいるし、常に傍においている者もいた。
しかし、王子の召喚獣は、従属させられていない危険な状態のまま置かれていた。しかも、帰すことすらままならぬ状態になっていた。
全く帰せないわけではないが、従属の練習のために呼び出し、従属に失敗し、帰すという一連の流れの中、帰す事にも失敗することが増えてきてしまっていた。
そんな状態なため、セレンティウスは常に焦っていた。
授業中も、別棟に狂乱状態で召喚されたままの召喚獣。何とか束縛魔法で留め置かれている。
そんな自身の召喚獣をなんとかしたくて、授業に集中などできなかった。
周りで楽しそうに授業を受けている同級生たちに対しても、苛立ちをぶつけてしまいそうになる。
実際、召喚獣のことを話題に出されたとき、怒鳴りそうになるのを抑えるのがやっとだった。
「始めるぞ。準備はいいか。」
王子は四人の魔法使いたちに声をかけ、従属の魔法の続きに取り掛かった。この魔法が成功すれば、召喚獣は召喚した使役者に従順になる。そもそも、大抵の場合は失敗などしないが。
しかし、王子が魔法を唱えれば唱えるほど召喚獣は暴れる。三人が束縛魔法を使い、一人は遮断魔法を使っていたのだが、抑えきれなくなり、魔法使い四人と王子の五人がかりでも、抑えることができなくなっていた。
ここ最近は、5人体制で抑え込むのが常態化していた。
更に激しく暴れまわる召喚獣。
本来美しいはずのホワイトタイガーは、目が血走り、よだれが垂れ、5人の返り血でところどころ赤く染まっていた。
5人はセレンティウスの聖魔法で回復を繰り返すも、脂汗をかき、疲労の色をにじませていた。
「ティグルス。あんなに優しかった君はどこへ行ってしまったんだ。」
セレンティウスは己の召喚獣に向けそうつぶやいた。
エリーゼは、特別教室でマナーの授業を終えたところだった。侯爵事務員の授業はとても厳しく、体力を消耗した。
エリーゼはプンプンしていた。
「イリスったら。遊びに行ったっきり戻ってこないんだから。」
その口調とは裏腹に、エリーゼはとても心配していた。イリスは遊びが好きだったが、こんなにもはなれていた事はなかった。
しかし、前日に別れたきり帰ってこなくなってしまった。
あえて口に出すことで、『遊びに行った』ということにしたかった。
――遊びじゃなかったら、どこだっていうのよ。
そう思いながらもエリーゼには心当たりがあった。
イリスと別れる前にしていた会話。そこで出てきた場所。『大きな音がする』場所。それはどこだろうか。
本棟ではなく別棟ということは間違いなかった。
証拠に、今もかすかに音がする。しかも、だんだんと音が大きくなっているではないか。
ただ事ではない雰囲気に、エリーゼは恐れを感じつつも大事な親友のために、じわじわと歩をすすめる。
そして、明らかにこの部屋の中から音がするという教室に辿り着いた。そっと扉に手をかけると、ガチャッと鍵がかかっている音がする。
親友の危機が迫っているかもしれないのに、と行く手を遮る鍵の存在にイラッとするエリーゼ。
耳を澄ませて、爆音の合間の静寂をさぐると、いつになく弱々しくつぶやく、『エリーゼ、エリーゼ…』というささやき声が。
イリスは、たしかにここにいる。
そして何も考えられなくなったエリーゼは、体当りして扉を突き破り、部屋に飛び込んだ。
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