挨拶に失敗しちゃった
よろしくお願いします。
「エリーゼと言います。よろしくお願いします」
エリーゼはそう言ったつもりだったが、皆の表情から失敗したことを悟った。
「エリゼといいマシュ。ョロシクおねがィしマシュ。」
と皆には聞こえていた。
「…これは。」
最初に口を開いたのは長男。しかし、その次の言葉がでない。他の者達も同様に、何も言えずただ顔を見合わせる。
父である公爵が次に口を開く。
「エリーゼは、言葉が不自由だ。皆もそのつもりで接するように。」
神妙な面持ちで一同にそう告げる。
―き、気まずい。
エリーゼは最高に居心地が悪かった。
―これでも相当挨拶の練習はしたんだけど。それにしても、ここまで深刻に捉えられるなんて。
男爵家にいた時にも感じていたが、言葉がわからないことに対してこの国の人たちはとてもとても不寛容だった。
長らく一つの国が大陸を支配してきたので、この国では外国語などに馴染みがなく、発音できないという概念があまり理解されないようだった。
そのため、結局エリーゼは発達段階に問題ありとされ、専属の家庭教師がつけられると公爵から説明された。
その説明に、一同は完全に納得行かないまでも、頷きあい、最終的にはエリーゼを受け入れてくれた。
「困難もあると思う。しかし、わが公爵家の最高の教育を受けることで、光明も見えてくるだろう。」
と言うのは長男の言。
皆それに頷きあって、ともに困難に立ち向かおうと一致団結してくれたようだった。
思っている以上に大事になって、ちょっとプレッシャーだったが、受け入れてくれるだけありがたい。そう思ったが、新たな難関がまだ待ち受けていた。
「次は親族に挨拶をしよう。」
親族のいる応接に向かい、家族のときと同じようにまず公爵から皆の紹介をされ、ついでエリーゼが自己紹介をした。
違っていたのは皆の反応で、端的にいって阿鼻叫喚だった。
「公爵家の格が下がる。」だとか、
「男爵家ではどんな教育をしていたのだ。」とか。
声の大きな愚か者と言うのはどこにでもいるもので、一番声が大きいおじさんが、エリーゼのことを一番口汚く罵っていた。格を下げるのはどっちなのよ、と思ったけど、言える立場でもないので、黙っていた。
親戚一同の反発もあり、エリーゼは普通に話せるようになるまで、公爵家からは出られないことが決まった。
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