男爵家は平和だったのに
よろしくお願いします。
異世界転生して、せっかくいいお家に生まれ直せたと思ったのに、皆が話している言葉が全然わからない。
唯一わかったのは、自分の名前がエリーゼだということ。これも、皆が何度もエリーゼの名を呼ぶから分かったのであり、その他は何を話しているのかさっぱりだった。
これは大問題だと思った。
前世を思い出す前のことが全くわからないわけではない。今までこの世界で生きてきた記憶は残っている。ぼんやりとだが、誰が誰だかわかるし、この世界の常識もわかる。
しかし、精神が日本人だった頃の人格に引っ張られるようで、思考も日本語のままだし、どうやらヒアリング力も成人のままになってしまっているようだった。
前世では英語も人並みに使えていたはずなのに、この国の言葉には全く歯が立たなかった。どうせならヒアリング力も若返ってくれていればよかったのに。
幸い、この家の両親はとても穏やかな人たちで、突然喋れなくなってしまったエリーゼのことも温かく見守ってくれた。
両親には、高熱のショックで話せなくなったのだろうと思われていた。
穏やかな両親の元で過ごせたおかげで、エリーゼは日常会話なら聞き取れるようになり、少し片言だが話せるようにもなっていた。
しかし、ある日母が突然亡くなった。よくよく聞くと、エリーゼが以前かかったのと同じ流行病だったようで、高熱を出してそのまま儚くなってしまった。
そして、男爵である父親から唐突に告げられる。
「エリーゼ、君は僕の本当の子ではないんだよ。おそらく公爵様の血が流れている。」
そう言ってすぐに、その公爵家に連絡をとったようだ。連絡を受けた公爵家からはすぐに人が遣わされ、エリーゼは検査され、『公爵家当主と親子関係あり』との判定が出るとすぐに公爵家に引き取られていった。
去り際に父親に、たどたどしい言葉で尋ねた。
「お父さま。ワタシの存在はジャマでしたか?」
父親は寂しそうな笑顔で答える。
「君は僕たちの宝物だよ。でも、最良の環境で育つことが君にとっては大切だと思ったんだ。」
そう言って、頭を撫でてくれる。
「寂しくなるけど。向こうで頑張って勉強して、幸せになってくれ。」
これで私の穏やかな生活は終わったと思った。
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