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Ⅷ.Shooting star

 


 隣国との争いは、自国の大敗で幕を閉じた。


 麓の人里へ休養にやってきた、元は農民だったという兵たちの会話で、旧友の死は報された。

 そして彼女が愛したという男の子も、美丈夫と称された壮年期を経て、眠るように息を引き取ったと聞いたわ。


 一度だけ、その彼に会いに行ったことがあるの。カレーヌが亡くなって暫くの頃にね。


 とても美しい青年だったわ。豊かな麦畑のように金色の髪と、風にたゆたう湖面のように青い瞳を持っていた。


 彼は一生涯を懸けて、かの魔女を愛し続け、魔女も人の子を心から愛していた。




 白木蓮の林に護られた魔女の家は、100年経った今でも無人のままよ。

 きっと、もう、あの家に誰かが住むことはないでしょう。


 彼女の面影も、彼の生きた軌跡も、少しずつ風化していく。いつか、見る影もなくなっていくでしょう。

 だけど、それで良い。

 そう在ることが、きっと一番良いのよ。


 たとえ見えるものが、取る形が違っていても、記憶だけは残すことが出来る。

 思い出に繋がる場所さえ、永い時を生きる魔女には貴いものだから。



「あなたの大切な人も、そっちへ行ったみたいよ。カレーヌ」



 その日は真昼から月や星々が煌々とし、山の丘陵はくっきりと浮かび上がっていたわ。空は晴れ渡り、海も凪いでいて。


 今宵もまた、静謐で、そして輝かしい夜空。

 美しい記憶と重なり、だけど覚えているより遙かに心惹かれる。


 群青の空を翔る、青い流れ星。

 魔女にとって、あたたかでやさしい光。

 切なる願いとともに生まれた逸話。

 私たち魔女も、希う心を持って、生きている。



「彼は育ちが良いのね。とっても素敵な青年だったわ」



 人里にある言い伝えでは、青い流れ星は恒星の死滅や死者との邂逅であるそうよ。

 遠方の国では、天女が星のドレスを作るために材料を掻き集めている様子とも。


 だけど魔女のあいだで親しまれた言い伝えは、別にあるの。


 魔女を愛し、魔女に愛された人間が、寿命の受け皿を渡された時。

 愛しい相手と無事に再会できるよう、導かれて乗る渡り船であると。


 それは、光を湛える湖面のように煌めく、澄んだ青い色をしているのだと。











 魔女の物語はこれで、おしまい──。



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