Ⅳ.Be reunion
白木蓮の樹を植えてから200年。
幼馴染みの3人が揃うことは、残念ながら適わなかった。お互いに生きていることは知っていたのだけれどね。
隠れ住む生活を続けて、長い年月を経てきたわ。
たった50年なんて気にならないほど、永く生きた。
白亜一色の林を抜け、空は青藍に変わり、私は黄白色の屋根を目指した。
家の周りを囲う薬草畑が、風に乗って薫ってくるの。
彼女の住処は、いつでもやわらかな色彩に包まれていたわ。
「ひさしぶりね」
私が声を掛けると、旧友はゆっくりと振り返った。
そして微笑みかけてくれたの。
片手に、摘んだばかりの薬草を集めた籠を持っていた。
「ええ。あと20年経って来てくれなければ、こちらから会いに行くところだったのよ」
「まさか私が忘れるとでも思って? カレーヌ」
「いいえ、ジェシカ。今日はあたし達にとって、大切な日ですものね」
ジェシカ。
村から授かった私の名を呼んでくれるのは、彼女かもう一人の旧友だけになってしまったけれど。
カレーヌともう一人の旧友が呼んでくれるから、私は自分の名前を大好きでいられた。
「随分と咲いてくれたのね」
白木蓮の花々たちを思い返す。
ここへ来る前に、必ず目に入る樹の群れ。
下地は魔女の村だから、花は盛りを越えても咲き始めのように白く在り続けた。
その荘厳な佇まいには、何度見ても感嘆の息をこぼしてしまう。
その日は、3人がはじめて白木蓮を植えた日だった。
「ええ。でも8日も経てば、また青空よ」
言って、彼女は肩を竦めていたわ。
魔女カレーヌも、白木蓮の林までなら行くことができたの。
そこを抜けた先へは、彼女自身の力だけでは向かえないけれど。だから用事で麓の町へ行くときには、私がつくったローブを被って行っていたわ。
力の消耗と使った時の反動を抑え、負担を軽くするための魔法がかけてあるローブよ。
でも、そのときはローブを脱いでいた。
自宅の傍でなら、空の下に身を曝しても問題はなかったの。
絹糸のような髪を、小ぶりな耳の後ろでひとつに纏め、肩に垂らしていたわ。
彼女の髪は、宵闇色だった。
瞳も、月を宿した夜のように美しかった。
明昼に頂く陽のような瞳の私は、幼すぎて旧友のその目が羨ましかったこともあったわ。
黄梅色の髪を唯一褒めてくれた彼女に、私の心はいつも温かくいられた。
友人たちの荒みきった心に、清らかな光を灯した彼女に。
だけど……。
「したかないわ。本来なら、3日で盛りが尽きてしまうものだもの」
「あたしに魔女として相応しい力があれば……」
「自分のことをそんなふうに思わないで、カレーヌ。あなたが居たから、村のあった場所はこうして守られているのよ」
500年を経て、村の目印としての役目を終えた白木蓮の大樹は、村の長となった魔女の婆様たちが力を注ぎ続けたからこそ、旬に惑わされることなく毎日咲き誇っていた。
でも、新しい白木蓮の林に、私は長寿を願ってないの。もう一人の旧友も、きっと同じ思いだったはずだわ。
「それに8日もあれば充分よ。香る白亜の絨毯なんて、人里でも滅多に見られないわよ」
「ふふ。ええ、確かにそうね」
「だから、一緒にお花見しない? ひさりぶりに」
だけど。
私があげられるものは、限られていた。