Ⅲ.My dearest
50年前に会った日も、山の中腹にある川辺の家へ帰る私を、彼女は笑顔で見送ってくれたわ。
またね、と手作りのお菓子を持たせてくれたし、お庭で育てているお気に入りの薬草も幾つか束ねてくれた。
表地が黄色で、裏地が青色の、とってもかわいいリボンでね。
そう。彼女の好きな色が淡く染めてあるリボンだった。
カレーヌは、好きなものが多かったの。
そんな旧友が、私は大好きだった。
出来ることなら、ずっと、ずっと、彼女の傍で過ごしたかった。
懐かしい日々に思いを馳せながら、私は白木蓮の林に入ったわ。
その場所に、人が足を踏み入れることはない。だから、魔女がひっそりと隠れ住むにはお誂え向きだった。
特に、カレーヌにはね。
群生した白木蓮の樹が、彼女の家を隠してくれていたの。その林の向こう側は、魔力を自在に扱えない彼女にとっても、誰にも侵されない安全圏だった。
翠緑の山に突然現れる白亜は、それは綺麗なものよ。
一緒に林をつくったもう一人の旧友は、今は山頂を越えた隣の領地で密やかに暮らしていて、彼女もカレーヌに会いたがっていたわ。
数ヶ月おきに手紙をくれるのだけれど、私に充てた報せなのに彼女ったら、カレーヌの話ばかりするのよ。
こちらから会いに行けるのなら、それが一番良いのだけれど……。その魔女が住む隣国は天候が変わりやすくて、日中でも激しい寒暖差に見舞われる。だから気候の穏やかな場所に慣れた私たちには、簡単には会いに行けなかった。
力の消耗を抑え、英気を養い、充分に力を蓄えたとして。万全に準備を整えても、無事に辿りつけたとして、帰りの道中を無事にやり過ごせるかは運に任せるしかなかったの。
山の頂上にある国境を越えた先は、下りるより登るほうが、命の危険が増す。
魔女としての力が微弱なカレーヌの身には、そこは近道でも過酷な行路となってしまう。そんな場所でなければ、魔女を狩ることに躊躇しない隣国でもう一人の旧友が生き残ることなど、不可能だったでしょうけれど。
そうまでしても、私たちは故郷の傍を離れたくなかった。
カレーヌが残ると言ってくれたからよ。彼女は私たちにとって、特別な友人だった。
寄り添って、彼女の生きる原動力になるには及ばないかもしれないけれど。力を直接分け与えることなんて、私たちには出来ないけれど。
それでも例えば不純物の混じった水を飲めるようにするだとか、火を熾しづらい湿気の多い時期に火おこしの魔法を込めた石を幾つか用意するだとか。
そのくらいの助力は、カレーヌ本人も快く受け取ってくれたわ。友人の負担になりたくないと考えているのは、同じ思いの私にもよく伝わってきていたもの。
久しく離れていた旧友へ会いに行くことに、仰々しい理由なんて必要ないの。
ただ会って、たくさんお話しをしたい。
それだけよ。
魔女カレーヌに残された灯火が、じきに燃え尽きることを知っていても。
つい、……会いたくなってしまうの。