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Ⅱ.Home village



 とくべつ長寿の分厚い木の根に座って、私たちは村の最後を眺めていたわ。


 しばらくして空は薄紫に染まり、彼方に淡く光る月が見えた頃だったかしら。

 3人が同時に、互いと顔を見合わせた。

 私たちは、なぜだか笑い出してしまったの。なかでもカレーヌは、とても無邪気な顔をしていたわ。


 ひとしきり笑って、私たちは木の根から腰をあげた。

 魔女も、村も、過去も。

 二度と(かえ)らないものよ。


 何か新しいことをしようと、私たちの意見は揃った。

 故郷の再興は誰も口にしなかったし、望んでなかったの。


 私とカレーヌ、それからもう一人の旧友ですぐに土を均すところから始めたわ。一緒に、たくさんの新しい苗や株を植えることも忘れずにね。

 そうして、昔々に存在した魔女の村は、白木蓮の樹の密生地となった。


 私たちも生長を促せるように力を貸したけれど、ほとんどの樹が自力で育ってくれたの。

 あのときは、ほんとうに感激で震えたものよ。

 自然ってなんて逞しいのかしら、と。


 白木蓮が林群と呼べるくらいになるまでは、3人はいつも一緒だった。

 私たちが植えた樹は、村の目印だった大樹と同じように永く強く、ひたむきに天を目指すようで。

 私とカレーヌは芳しい花に顔を近付け、もう一人の旧友は力強い幹の根元で白亜の丸天井を見上げて、ひとときの静穏を過ごしていた。


 それは、とても幸せな時間だったわ。

 ……きっと、どこかに隠れてしまっていたのね。久しくも懐かしい、生命を慈しむ気持ちが、蝋燭に灯を点すようにポッと湧いたの。


 私たちは……魔女も、皆ね。失うばかりの日々に打ちのめされていた。心が荒んでしまっていた。そうじゃなくなった後で、荒んでいた自分に気付いたの。


 でも、すべての命は自分たちが想うよりも遙かに強く、うつくしい。

 失ったあとだって、私は命を尊いものだと感じる。

 私たちは、命を愛おしいと思う。


 魔女だから侵され、奪われたのかもしれない。だけど、魔女でも命を大切に想う心は変わらない。

 それは両親かもしれない。弟妹かもしれない。恋人かもしれない。友人や動植物かもしれない。そこに境はないと、私は思うわ。


 だって、共通しているところや同調できるところだけで、誰かや何かを好きになるわけじゃないんだもの。その存在が、自分にとって欠かせない間柄だから、こんなにも大事にしたいと思えるんですもの。



 私の旧友の一人、カレーヌは、私以上に愛に尽くす魔女だった。


 特に人里の姉妹には、惜しみない愛情を注いでいたわ。それこそ本当に姉妹のようだった。

 だけど魔女狩りの波及を受けて、その子たちは謂われのない疑いを掛けられた挙げ句、魔女の虜に罹っているという理由で家から引き摺り出され、魔女と同じ罰を受けさせられたの。


 姉と、妹。

 まだ年端もいかぬ妹は姉より先に、そして友人である魔女の居場所を決して吐かなかった姉が続いたことを隠れ家で知り、カレーヌは呆然と報せを聞いていることしかできなかったそうよ。

 彼女は、魔女狩りが始まると噂され始めて早々に、姉妹から離れていたというのに。


 自分のせいで死なせてしまったと、苦しむ必要もつらい思いをする必要もなかったのに、と。

 村に戻ると言い出す直前までの、カレーヌの消沈っぷりには心底ゾッとしたものよ。

 このまま自分も姉妹の後を追うと言い出しかねないと、ほんとうに気が気でなかったわ。


 だから無事に故郷の土を踏んで、彼女の姿に私ともう一人の旧友も安堵した。

 新しいことに積極的で、日に日に笑顔が増えていって。すこしカラ元気なところもあったけれど、それでも瞳は徐々に光り輝くようになっていったの。


 心からホッとしたわ。

 友人の力になれることが、私の力が助けになることが、ほんとうに嬉しかった。


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