出立
昨日までと同じ場所なのに
昨日までとはまったく違って
それは単なる感傷に過ぎないのだろう
がらんどうの空間を見て
胸が締め付けられた
扉を開けて
正面にはベッドがあり
その左手には
衣装箪笥があり
床には傷をつけないように、と
広く大きなラグがあった
エメラルドグリーンの遮光カーテン
開けると朝の光が差し込み
そこからは住宅街と畑と小さな公園が
ラグの上を子犬達が駆け回り
じゃれながら
時には勢いにのって
ベッドに飛び乗ろうとして
そこはだめだよ
と叱りつけた
それも、今は、何もない
一面にはフローリングが広がり
外に見える景色は
いつもと何も変わらないはずなのに
ひどく味気ないものに見える
部屋に背を向け
扉を閉めようとしたとき
胸が熱くなり
すぐに冷たさに変わった
まるで「そこ」が
離れる事を拒んでいるかのように
動きかけた足が止まる
振り向き、部屋を一瞥し
それは感傷に過ぎないと
今度は言葉にする
視線を外し
部屋を出る
扉の向こうに消えゆく景色に
またキリと胸を締め付けられる
離れがたい空気を断つように
短く息を吐き出す
変わったのは誰だろう…
そこはもう
帰る場所ではないのだ
ここに詰まったたくさんの記憶は
肩に背負った鞄に詰め込むだけ詰め込んだ
溢れ出たものは
感傷と共に
置いていこう
帰らぬ日々と共に
置いていこう




