66/153
海里
崖が迫り
谷間を抜けた河が
ふっと扇のように広がる
吹き抜ける風が
磯の香りを運び
視界の先には
どこまでも広がる海原と
どこまでも続く空がある
淡く砂色の壁に覆われ
瓦屋根を頂く家屋が
入江を取り囲むように
点々と建っている
入江の一点から伸びる桟橋には
幾つかの木船が浮かび
入江の内側に小さく広がる砂浜には
網がいくつも広げられ
陽射しにさらされていた
穏やかな波は
浜辺をゆりかごを揺らすかのように
幾度も幾度も繰り返し
波打ち際を
まだ幼い子供らが
笑いながら駆け抜けていく
この先に広がる海原は
魂が孵り、
やがて還る場所
この小さな里は
海から授かる小さな魂を
わずかな時の間預かり
育み見守る場所
命を受けたその間
帰り、安らぎ、旅立つ場所
やがて沈みゆく陽が
砂色の里を朱く染め上げ
子供らは皆、家路を急ぐ
暗闇が辺りを包む頃には
淡い月の光が
砂浜を鈍い鉛の色に照らすのだろう
繰り返される時の中で
永遠の時を繰り返すように
海は里と共に
魂を孵し
魂を還し続ける
荒れる時も
凪いだ時も
最後までお読みいただきありがとうございます