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秋風に小夜更けて
秋風に吹きさらされる石の壁
蔦が絡まり葉に覆われて
過ぎ去った時を伝えている
外側だけが残されて
内側にあった生活は
今や風の向こう側へ
過ごした日々も
重ねた歴史も
遺された石に刻まれ
思いと想いは
風と共に
流れては消える
揺れる草葉が
生きていたもののその証
人の様を
灯る光を
思わせて
ただ一人の異邦人は
時の傍観者として
秋風に吹きさらされる
時の蔦に絡め取られ
舞う言の葉に酔わされて
在りし日々の夢を追うことは
どれほど時を過ぎても変わらず
自分もまた
いつかは風の向こう側で
生きていくのかと
流れゆく大河の小さな一滴を思う




