夢の記憶
目覚めると
辺りはまだ薄暗く
朝を迎えるにはまだ遠い
暗闇に目が慣れ
少しずつ辺りが見え始めると
化粧が施された梁が
最初に目に飛び込んでくる
木で出来た少し古ぼけた天井は
凍えるような夜の中にあっても
温もりを与えてくれるような
そんな印象がある
視界をずらせば
真横には三面鏡があり
鏡台の上の両端には行儀良く
二対の少女が座っていた
艶やかな衣装を着飾った彼女達は
物言うことなくじっとこちらを見つめている
幼少の頃からずっと彼女達はそこに座り
これからもこの部屋を見守り続けるのだろう
鏡台の脇には衣装タンスが
二つ三つと並んでいる
そのうちの一つには
今は着られなくなった
着物が収まっているのだと
そんなことをふと思い出した
どうしてこんなことを思い出しているのか
不思議に思いながらゆっくりと
体を起こそうとしたその瞬間
辺りに広がっていた景色が一変した
薄暗い闇の中なのに
見上げた天井は白く
無機質なものに変わっていた
見覚えのない景色
カーテンの隙間からは街灯が差し込み
わずかな光が世界を映し出す
訳もわからず体を起こそうとして
初めて人がいることに気づく
そういえば昔、妹が
雷を恐れて一緒に眠ったことがあった
この年になって
そんなこともないだろうと思い直し
思わず苦笑いを浮かべる
そうして突然
閃きのようにその事を知る
夢なのか
切れ落ちた記憶は繋がり
知らなかった記憶を知り
思わず笑みがこぼれる
起こしかけた体を横たえ
乱れた布団を元に戻し
小さく長く息を吐く
ゆっくりと目を閉じ
祈るように手を組むと
腹部の上に両手をのせた
辺りはまだ薄暗く
朝を迎えるにはまだ遠い
世界は未だ夢の中




