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渚
まだ消えない心の痛みを
胸の内に抱いているから
未だ一歩を踏み切れないまま
だけど、君はそれを知っても
僕の隣で微笑んでくれる
僕はもう一度誰かを想っていいんだろう
大切なものを守れず放してしまったあの日から
僕にはそんな資格はないと
そう決めて生きてきた
夕日に手をかざす君の横顔は
あまりにも眩しくて
僕は知らずに涙する
その時呟いた君の言葉は
潮風と一緒に僕の心の涙を乾かし
寄せる波と一緒に僕の心の泥を流す
僕はもう一度望んでいいのだろうか
誰かと共に歩むことを
いつの間にか
「誰かと」ではなくなってしまった
ただ一人の大切な君と
これから共に歩むことを
砂に刻まれた思い出たちは
波とともに消えていくけど
海に還ってしまった記憶は
何度波が寄せては返っても
薄れることなく残り続ける
忘れる必要はないのだと
辛いことも悲しいことも
含めて全部が大切だから
ありのままでいいのだと
波の音が響くようにして
君の声が打ち寄せてくる
どこまでも どこまでも




