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真理の誓い 〜ハンミルの伝説〜   作者: カーディナル
第一巻 その名は。
6/16

作戦

「バウ、作戦がある」

「あぁ、従おう」


詳細を聞くことなく、バウは安請け合いをした。

精神が繋がっているから、詳細など聞くまでもないのだろう。

いまだ腕を斧の形状にしているヨウガントに、リンは鋭い蹴りを食らわせた。

狙いは斧の根本部分。

岩よりも少し柔らかい溶岩は、バウの足が命中した瞬間に弾け飛んでいく。


「さっきのお返しだっ!」


リンが拳を振るうと、バウの固い拳がヨウガントの頬へと向けられた。

精神融合の世界と同じぼんやりとした青い光がバウの拳を覆っているのが見える。

リンは戦闘訓練を積んでいない。

経験があるのは、ヤンチャゆえの取っ組み合いの喧嘩と、悪戯ばかり。

いくらバウと手を組んだところで、正攻法の戦いでヨウガントに勝てるわけがない。

リンがめちゃくちゃに腕を振り回し続けていると、ヨウガントは突然の猛攻に少し驚きはしたようだが、すぐに慣れて簡単にいなしはじめた。

戦闘慣れしていないリンの攻撃は、手数は多いけれど、どれも決定打には至らない。

それでも、ヨウガントはリンの思惑通りに動いてくれる。

決定打には至らずとも顔面で腕を振り回されるのは不愉快らしいヨウガントが、バウから距離を取るように一歩後ろへ下がる。

 

リンは開いた隙間を埋めるように、一歩前へ出た。

二歩、三歩、四歩。


一歩一歩が大きいゴーレムの四歩は、リンの数百歩ぶんにもなるだろう。


「なぁ。知ってるか、ヨウガント」


バウの中にいるリンの声はヨウガントには聞こえない。

それを知っていて、リンは戯れに呟いた。


「サオリには海がない。川も、細い小川しかないんだ。つまり、サオリは慢性的な水不足だったんだ、昔から」


それゆえ、サオリにはあるものがあった。

ヨウガントが液状化してバウから距離を取ろうとしたタイミングで、リンは思いきり殴りつけた。

ーーヨウガントの背後を。

堅いもの同士がぶつかり合う轟音が響き渡った。

耳から脳を直接揺さぶられているような不快感に耐えながら、リンは思いきり突き出した拳をゆっくりと引き寄せた。

ヨウガントの背後にあった建物に、大きな穴がひとつ、あいている。

 バウの拳によって開けられた穴だ。

 そしてその穴から、水が噴き出てくる。

 滝のような勢いのそれは、容赦なくヨウガントへと襲い掛かっていく。

 慢性的な水不足に悩んでいたサオリには、大きな水専用の倉庫がある。

 水の圧力に耐えられるよう、一流の鍛冶師が打った金属でできているその倉庫には、数年かけて溜めた小川の水や、水の国ミリネから買い取った水が収められている。

 すべて合わせれば、サオリの全国民が五年は困らないであろう量になる。

 それだけ溜めこまれていた水が、一気にヨウガントへと押し寄せていく。

 ランの講義で教わって頭の片隅に残っていた内容が、正しければ。

 リンは祈るような気持ちで滝に打たれるヨウガントを見つめた。

まず変化が見られたのは、ヨウガントの左腕だった。

橙に燃え盛っていたはずの腕は、黒くなって動きが鈍くなり、ついには動かなくなってしまった。

溶岩が冷え固まったのだ。

 続いて胴体の左半分が、そして滴った水に冷やされた左足が、動かなくなっていく。

全身の半分以上が黒くなってしまったヨウガントを、リンは容赦なく殴りつけた。

堅い音とともに、ヨウガントの黒くなった腕が折れて胴体から外れて落ちていく。

 

リンは腕の折れた肩を掴み、グイッと引き寄せた。

辛うじて水の直撃を免れていた右半身に滝を浴びせるためだ。

 

けれど、水が触れるよりも一瞬早く、ヨウガントは残った自由になる右半身を液状化させ、バウから距離を取った。

すぐに溶岩化したけれど、体を半分失った代償は大きい。

 

ヨウガントは、バウの腰にも届かない小さなゴーレムになってしまった。



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