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真理の誓い 〜ハンミルの伝説〜   作者: カーディナル
第一巻 その名は。
5/16

守りたい。

 リンの雄叫びとともに振り下ろされたバウの拳は、無情にも再び液状化したヨウガントに軽々と避けられてしまった。

 その上、地面に叩きつけられた拳には液状化した溶岩がまとわりつきながら固まっていく。

 四つん這いで身動きを制限されたバウの背後で、ヨウガントは再び固体化した。

 先程から少しずつ液状化した体を切り離しているせいか、少しだけ小さくなったように感じる。

 けれど、まだ戦いに慣れていないバウとリンにとっては脅威だということに変わりはない。

 ヨウガントは、先程と同じように腕を斧に変化させ、躊躇なくバウの背中へと振り下ろしてきた。

 一瞬、息を忘れるほどの痛みがリンに襲い掛かる。

 リンの喉からは、自分自身ですらみっともなく感じるほどに情けない悲鳴が迸った。

 無理もない。

 悪戯三昧だったリンにとって多少の切り傷や擦り傷は日常的だったけれど、溶岩の塊に頬を殴られ、腕や背中を切りつけられたのははじめてのことだ。


「リン、気を強く持て。これしきのことに負けるでない……!」


 今の今まですぐ近くで反響していたはずのバウの声が、随分と遠く聞こえた。

 痛みに悶絶する動きで、バウの腕を戒めていた溶岩が割れて自由を取り戻すことができたけれど、許容以上の痛みによって呆然自失のリンは四つん這いのまま。

 精神の繋がっているバウもまた、リンが起き上がらない以上、同じ姿勢のまま固まるしかない。

 バウの呼びかけは聞こえていたけれど、リンは動けないまま、涙を流すことしかできなかった。

 ふと、バウの視界にランの姿が見えた。

 巻きこまれそうなほど近くでゴーレムが戦っているというのに、避難する気配もない。

 気を失っているのか、それとも……。


「ねえ、ちゃん……リナ……」


 ーー俺は、弱い。

 リンの記憶の中のランとリナは、いつも笑顔だった。

 山の中で転んで膝を擦りむいたリナは、血が出ていてもリンに心配をかけまいと「痛くないよ」と笑ってみせた。

 宝石が目当ての盗賊に人質として捕らえられたランは、不安と恐怖に泣くリンを安心させるように「大丈夫よ」と笑っていた。




 そんなふたりの兄であり弟であるリンは、情けなく泣くことしかできないのだ。

 ーーバウを目覚めさせたのが姉ちゃんだったら。

 ランが倒れ伏しているという事実は変わらない。

 たらればを言い出したらキリがないとわかっていながら、リンは現実を逃避するように取り留めのないことを考える。

 ーーせめて、あの時リナを守り抜けていれば。

 ーーそもそも、遊びにかまけて修行をサボっていなければ。

 後悔と自責の念に圧し潰されながら、リンは「ごめんなさい」と呟いた。

 誰に許しを乞うているのかもわからないまま、何度も何度も。


「リン、諦めるではない。そなたは家族を守ると言った。そなたの姉は、まだ生きているぞ。にもかかわらず、そなたは諦めるというのか」


 そんな、まさか。

 一縷の望みをかけてランを注視したリンの目の前で、確かにランの指先がビクリと動いた。


「そなたの妹もまた、無事だ。僅かながら気配を感じる」


 姿は見えないけれど、リナもこのがれきの山のどこかに無事でいるらしい。


「家族を守ると、そなたは言った。我はそんなそなたに力を貸すと決めたのだ」


 ーー大丈夫よ。リンが本当は頑張り屋さんなことくらい、お姉ちゃんは知ってるもの。

 訓練を何度サボった時のことだったか。

 サボり魔の弟でごめんね、と謝ってみたことがある。

 ランはクスクスと笑いながら、そう答えてくれたのだ。

 本当はランの前で失敗するのが恥ずかしくて、訓練をサボってひとりで練習をしていたことを見抜かれていたのだろうか。

 ーーお姉ちゃんがついてるわ。

 確かに気を失っているように見えるのに、ランの声が聞こえた気がした。

 ようやく、リンの体に力が戻ってきた。

 姉の幻影に励まされてやっと動けるようになるなんて、男としては少し気恥ずかしいけれど。



「姉ちゃん、リナ。今助けるよ、もう少し待っていて」


 リンとバウが立ち上がると、ヨウガントは待っていたとばかりに仁王立ちでこちらを睨みつけていた。


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