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真理の誓い 〜ハンミルの伝説〜   作者: カーディナル
第一巻 その名は。
3/16

ゴーレム。目覚める。




地面の発光が眩すぎて、溶岩ゴーレムの橙の光が消えたように錯覚した。

リンがどうすることもできずに呆然と光を見ていると、地面から浮き上がった光は同じ場所にーーリンの目の前、以前社があった場所にーー集まりはじめた。

目を焼かれながらもよくよく見れば、光の塊はそれぞれ石の塊が発光しているもののようだ。

光の塊にしか見えない石の塊は一ヵ所に集まりながら、徐々に形成されていく。

まず、リンの目の前に二本の棒が形成された。

それから、その二本が太い一本にまとまっていく。

さらに両脇に最初と同じような棒が二本生える頃には、リンは形成されるものの正体に気付いていた。

光の塊でできた人型のゴーレムが、リンの目の前に立っていた。

最後にカッと強まった光に目を焼かれ、咄嗟に強く目を瞑ってしまったリンの視界が回復した時、リンの目の前には見慣れた石造りのゴーレムが佇んでいた。

光が消えたために周囲は再び暗くなったけれど、どうしてか、目の前の石のゴーレムははっきりと見ることができた。


「バウ、様……」


毎日のように社で見ていた石像と同じ姿。

 

ーーいや、違う。

大きさも材質も、石像そのものだ。

転がっていた石の塊の中から、石像だったものが集まって修繕されたかのようだ。

同じゴーレムという存在である溶岩ゴーレムが襲ってきている以上、目の前にいる石のゴーレムも味方とは限らない。

けれど、リンは不覚にも、見慣れた守護者の姿に全身の力を抜いてしまった。

ゆったりとした動きで、石のゴーレムはリンを見た。



「我を起こしたのは、そなたか」



 雷鳴のような音量ながら、深くて暖かい声だった。



「弱き者よ、なにゆえ力を求めるのか」



リンは口を開いた。

緊張にか、口の中はカラカラに乾ききっていて、掠れた声しか出ない。

「俺の家族が危ないんだ。どうか、力を貸して欲しい……!」

「素質は……問題ないか。我ひとりでは力が足りぬ。そなたが我と契約を結べば勝機はあるであろう。ーー汝、我と誓いを立てる勇気はあるか」

「それで、家族を救えるのなら」

リンは間髪を入れずに答えた。

ランは今にも溶岩ゴーレムに踏み潰されそうになっていた。

もう、時間がない。

石のゴーレムに表情はないが、纏う雰囲気が少しだけ和らぐのをリンは感じた。

「……面白い。ならば、立てよう。ーー真理の誓いを」

石のゴーレムの大きな掌がリンへと差し出された。

リンはその人差し指をそっと握る。

真理の誓いなど、名前を聞いたこともなかった。

はたしてこれで合っているのかもわからないけれど、石のゴーレムはなにも言わなかった。

しっかりと繋がれた石のゴーレムの指先とリンの掌の間から、光の粒子があふれだす。

光の粒子はふたりの手の間からボロボロとこぼれるほどの量となり、やがて、爆発するように周囲へと散らばった。

固く閉ざしていた目を開けた時、リンは見知らぬ洞窟に立っていた。

岩壁は、四面すべてがぼんやりと青色に発光している。

洞窟にも関わらず、正面の岩壁には窓のようなものがあり、その窓の向こうに今までリンがいたバウの洞窟が見えた。


「契約は成された。我が名はバウ。伝説の血を引く幼子よ。我の力、遺憾なく発揮するがよい」

洞窟内で反響するように、岩ゴーレムの声が聞こえた。

やはり、岩ゴーレムの正体はバウだったらしい。


「この空間は、なに?」

「我とそなたの精神が融合した場所だ。そなたの前にある窓から、我の目に映る景色を見ることができる」


リンは窓を覗きこんだ。

燃え滾る溶岩の体を持つゴーレムが、依然としてそこに存在している。


「あれは、何者なの?」


「あやつは、ヨウガント。溶岩でできたゴーレムだ。我と同じように千年前に眠りについた、我が兄弟だ」


「兄弟だって? バウと同じ千年前のゴーレム……世界の守護者なのか?」



「いかにも。ただ、今は変わってしまったようだ」


「変わる……?」


「中にあるミールによって、我らは善にも悪にも転じるのだ」


「ミール?」


 聞き慣れない言葉、聞き慣れない話。

 ランの講義をもっと真面目に受けるべきだったといまさら後悔しても遅い。


「我にとってのそなた。そして、そなたにとっての我。魂を共有する相手のことだ」


 悠長に話している間に、ヨウガントがバウに向かって突進してくる。

 その巨大さゆえにか素早さはないが、逆にその巨体での一歩は大きい。

 溶岩でできた腕が振り上げられ、そしてバウの頬へと命中した。

 直接触れられたわけではないのに、リンの頬は燃えるような熱さに包まれた。

 直接殴られたバウの巨体は、勢いそのまま横に吹っ飛んで、地面へと倒れ伏す。

 ヨウガントの狙いがランから逸れたのは僥倖だが、慎重に戦わないとゴーレム同士の戦いにランとリナを巻きこんでしまう。


「むむ。体の感覚が戻っていないようだ」


 千年の眠りから覚めたばかりなのだから、仕方のないことだ。

 けれど、バウが本来の力を発揮できなければ、リンの負けは確固たるものとなってしまう。

 バウは跳ねるように立ち上がった。

 睨み合いは一瞬のこと。

 戦況を動かしたのは、バウの突進だった。

 一足先に目覚めて体を動かし終えていたヨウガントは、目覚めたばかりのバウの突進をいとも簡単にいなして受け止めてしまう。

 リンが精神融合の世界で手を動かすと、バウの手もリンと同じように動いて、ヨウガントの右肩を掴んだ。

 距離感などは、精神が融合していることによりリンの思考を読んだバウが調整してくれているのだろう。

 ありったけの握力をこめてギリギリと肩を握ると、接続部分の溶岩が潰れて砕けた。

 ゴーレムに関節という概念があるのかは不明瞭だが、人間相手であれば肩を潰して腕の自由を奪うというのは王道的な攻撃のひとつだろう。

 このまま右肩を握り潰して右腕の自由を奪おうと画策するリンを阻もうとするかのように、ヨウガントの左腕が伸びてきた。

 腕が伸ばされる角度から、リンはヨウガントがバウの腕を握って右肩から引き剥がそうとしているのだと判断した。

 引き剥がそうとする動きごと利用してやろうと、溶岩の体に指を突き立てるようにしてますます力をこめたリンとバウを嘲笑うように、ヨウガントの左腕はバウの腕に触れる直前で斧のような形に変化して、バウの右腕へと深々と突き立てられた。


「ぐあっ!」


 リンの口から、堪えきれなかった苦痛の声がもれた。

 ぐらり、と体が揺れ、その拍子に右肩を掴んでいた手からも力が抜けてしまう。

 右腕、肘のあたりがジクジクと痛む。

 切れ味の悪い刃物で抉られたようだ……と気付いたのは、ふざけて振り回していた錆びた刃物を思いきり手に突き立ててしまった経験があるからだ。


「リン。早く対処しないと、そなたの体が持たぬぞ」


 実際に攻撃を受けるのはバウでも、精神体で繋がったリンにも相応の痛みは味わうことになる。

 人間は、痛みだけで狂えるほどに弱い存在だ。


「うん」


 リンは両腕を前に伸ばした。

 右腕が痛んだけれど、気遣えるほど余裕はない。

 リンはバウの両手でヨウガントの両手首を握りしめ、その場でグルグルと回転した。

 遠心力により、ヨウガントの体は地面から浮き上がり、バウを中心として空中をグルグルと振り回されている。

 ヨウガントの体をそのまま投げ飛ばして地面に叩きつけようという算段を立てていたリンだが、ヨウガントの方が一枚上手だった。

 掴まれていた腕を肘のあたりでわざと切断したヨウガントは、自らの意思で飛んだ。

 飛距離に差はなくとも、不意に飛ばされるのと自ら飛ぶのはまったくの別物だ。

 ヨウガントは尻もちをついたけれど、大したダメージは負っていないようだった。

 ヨウガントは溶岩のゴーレム。

 自らを液状化して形を変えるのは得意なのだろう。

 精神融合の世界でリンが走ると、バウも同じように走り出す。


「行けェええええええ!」






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