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賽が舞う  作者: 和久井 玻緒
陸の目
33/36

 見えないとはいえ、気配や臭いの分かる両親には、家の前が魑魅魍魎、鬼やら妖やら人ならざるモノで溢れかえり、まるで魔の巣窟と化していたことは察しがついていただろう。


 そんな中、ある程度上総さんに治療してもらったとはいえ、傷だらけで帰ってきた俺を見て、驚きはしたものの何も聞こうとはしなかった。


 しかも気を失った匠実を何も言わず介抱し、そのうえ、今は人ならざるモノに憑りつかれやすいからと、しばらく家で預かるとまで言ってくれた両親に、心から感謝した。


 緊張と恐怖、慣れない術を使ってものすごく疲れていた。


 俺は部屋に入るなりベッドに転がると、そのまま泥のように眠ってしまった。


 起きた時には外は暗く、時計を見ると針が一時を指していた。


 喉が渇いて下に降りていくと、二人ともまだ起きていた。

 俺に気付いた母さんが席を立った。


「何か食べる? お腹すいたでしょ」


「いや、腹はすいてない。喉が渇いた」


 ぶっきらぼうに答える俺に、母さんはそれでも何も言わず冷蔵庫から水を取り出し、コップに注でくれた。


 俺はそれを受け取ると、一気に飲み干した。


「……ありがとう」


なんだが気まずくて俯く俺に、母さんが明るい声をかけてきた。


「匠実くんは大丈夫よ。ぐっすり眠っているわ。二・三日もすれば家に帰っても問題ないでしょ」


 その言葉に、体中に安心感が広がっていくのが分かった。でも、安心したとたん後回しにしていた事が頭をもたげる。


 どうして匠実がこんなことになってしまったのか、どうして鬼や妖、魑魅魍魎といった者たちが沸いて出てきたのか、どうして傷だらけになったのか、そして、一番の問題は式神となった阿紫のこと。


 両親にどう説明しようかと考えていると、それまでひと言も声を発しなかった父さんが口を開いた。


「甘楽……くん、と言ったかな」


 戸惑うような困惑した表情の父さんの言葉に、思わず聞き返した。


「え?」


 父さんから思わぬ人物の名前が出たから聞き返しただけだったのに、父さんは名前を間違ったと勘違いしたようで、こめかみをポリポリとかじる。


「同じクラスの、その……髪の長い」


 どうやら甘楽の性別にも戸惑っているようだったが、今更甘楽の性別についてあれこれ言うのは面倒だったので、性別が分かるように単刀直入に聞いた。


「彼がどうしたの?」


「あ? ああ、すべて説明してくれたよ」


「え? うちに来たの? いつ? なんて言ってた?」


 驚きのあまり矢継ぎ早に聞いた俺に驚きつつ、母さんが簡潔に説明してくれた。


「あなたが寝ていた時、家に来てくれたのよ。彼、あなたのことをすごく心配していたわよ」


 にわかには信じられない。あの甘楽が俺のことを心配していた?


 ウソだろ。


 という言葉が真っ先に浮かんだ。


 甘楽はいつも俺と絡むことを鬱陶しそうにしていたし、面倒くさそうにしていた。だから、母さんの言葉が信じられなかったけれど、話はそれだけじゃなかった。


「それと、匠実くんが妖に憑りつかれてしまって女の子たちの魂を集めていた事、その妖をあなたが祓った事、あなたが匠実くんのために一生懸命頑張った事、でも、この事、匠実君は覚えていないって事、彼が全部教えてくれたわ」


 思いもかけない人物から思いもかけない言葉を聞いて、目頭が熱くなるのを感じた。両親の前で、涙を流すなんて恥ずかしくて、俺は必死に感情を抑えていたのに、父さんがさらに追い打ちをかける。


「いい仲間ができたんだな」


 そう、俺のためにあえてきつい言葉を投げかけてくれた。そして、危険も顧みず俺を助けるため妖に立ち向かってくれた人たち。そんな仲間ができたことはとても誇りに思う。そして、自分も彼らのために力になりたい。


「とても大切な人たちだよ」


 俺のその言葉に、父さんは俺以上に嬉しそうにほほ笑んだ。


「良かったな」


「うん」


 甘楽が両親に話してくれたおかげで肩の荷が下りた。けれど、甘楽も一つだけ真実を告げていないことがあった。


 それは、阿紫を式神にしたこと。


 それは自分で話さなければならないことだけど、まだきちんと話せる自信がない。それはまた今度にしよう。


 とにかく今は眠い。


 ようやく心の底から落ち着いて眠れる気がした。

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