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賽が舞う  作者: 和久井 玻緒
肆の目
23/36

 自分よりもはるかに長い槍を、余市さんが華麗にさばく。


「己の欲に溺れ、清き魂を喰らわんとするその罪、醜すぎる。俺の前に現れたこと、悔いる前に散れ」


余市さんは脇から襲ってきた邪鬼を足で蹴り倒すと、上から牙をむく邪鬼をひと突きした。先ほど蹴り倒した邪鬼は体勢を取り直すと、腕を大きく振り上げる。余市さんは喉元めがけて槍を刺した。刺された邪鬼は、黒い塵となって跡形もなく消えた。


 すると今度は余市さんの後ろから、覆いかぶさるように邪鬼が襲い掛かるが、前からも邪鬼が牙を剥きだして迫ってくる。余市さんは前を見据えたまま、槍の柄を背後の邪鬼の腹めがけて押し込むと、前から来た鬼に槍を突き刺した。


 柄を押し込まれた邪鬼は、短いうめき声を漏らしたが効き目はなく、余市さんを鋭い爪で切り裂こうとした。


だが、寸でのところで、上総さんが銀の刀身で邪鬼を真っ二つに切り裂いた。余市さんが謝辞の代わりに片手を上げると、上総がニコリとほほ笑んだ。


 上総さんは先ほど邪鬼を切り裂いた刀身を上へと振り上げた。上総さんに襲い掛かろうと高い位置から飛び降りてきた邪鬼の首が転がった。まるで舞を踊っているかのように、流れるように刀を振る上総さん。


 銀色に輝く刀身をひと際大きく振り払う。


「欲に落ち果て汚れたモノよ。直ちに消えていただきます」


 一見逞しいようには見えない上総さんの腕からは想像もできないほどの威力があり、ブォンというすさまじい暴風と共に振り下ろされた刀身は、そこにいた何体もの邪鬼が一斉に黒い霧と化し散った。


 それでも邪鬼の数は一向に減らない。すぐさま上総さんの周りを邪鬼が囲む。


 優位を感じ取ったのか、一匹の邪鬼がニィと口を歪めて笑う。その邪鬼のこめかみを、真っ赤な銃弾が突き抜けた。


 残りの邪鬼が一瞬怯んだ隙に、上総さんが刀身を薙ぎ払う。

 すると、上総さんを取り囲んでいた邪鬼が黒い塵となり霧散した。


 邪鬼が消え去った後、多紀さんの姿が見て取れた。すれ違いざま上総さんが多紀さんの肩にポンと手を置くと、多紀さんがウインクして見せた。


「欲にまみれたモノたちよ。早う消えてもらうで」


 多紀さんはひとつの狂いもなく、確実に炎の弾で邪鬼たちを打ち抜いていく。右から邪鬼の胸を打ち抜き、すぐさま左へと銃口を向け、頭を打ち抜く。そうかと思えば、今度は後ろに上にと、次々に邪鬼は多紀さんの銃弾を喰らい霧散する。


 地面から這い上がってきた邪鬼を打ち抜こうとした時、背後から襲ってきた邪鬼に羽交い絞めにされてしまった。


 多紀さんは右腕を払われ持っていた銃を落としてしまった。自由になる左手をレッグホルダーに手を伸ばしたが、もう少しのところで手が届かず、さらに強く首を絞められる。


そこへ、ビュンという音とともに、手裏剣がバケモノの腕に刺さり、多紀さんの首を絞めている力が緩んだ。その隙を逃さず、すぐさまレッグホルダーに手を伸ばし銃を抜くと、多紀さんは邪鬼の足へ銃弾を撃ち込んだ。


「グオーッ」


バケモノは叫び声をあげ、乱暴に多紀さんを放り投げた。でも多紀さんは空中でクルッと回転してきれいに着地した。そしてすかさず落とした銃を拾い、多紀さんは片膝をついて構える。先ほど多紀さんを羽交い絞めにしていた邪鬼は、少しずつ黒い霧へと姿を変えていたが、止めを刺さんばかりに、多紀さんが邪鬼の頭を打ち抜いた。


 すると邪鬼は一瞬のうちに霧散した。


 多紀さんが立ち上がると、その背後に背中合わせで甘楽が立つ。


「助かった、甘楽。サンキュー。それにしても数が多いな。こないにぎょうさんの邪鬼を相手にするんは、久々やな」


 二人は、互いに邪鬼たちを狩りながら会話をする。


「ホント今日は満月だからかな、うわぁ、あれ見て、穂国君が相手にしているヤツ、メッチャでかい」


 甘楽が驚くのも無理はない。


 穂国さんが対峙しているのは、二メートル以上はある大きなバケモノだった。バケモに対峙している穂国さんの周りを、邪鬼たちが囲む。


「欲にまみれたモノたちよ。今すぐ俺の前から消え失せろ」


 甘楽は短剣を握りしめ、疾風のごとく走る。邪鬼の間をぬうように走った。甘楽が走り去った後には、邪鬼は一匹残らず塵と化す。


 甘楽よりひと回り以上も大きな邪鬼が、前に立ちはだかった。

 だが、甘楽は怯むどころか、軽く地面を蹴るとひらりと宙を舞い邪鬼を飛び越える。邪鬼の後ろへ着地した甘楽は、大きく飛び跳ね邪鬼の首に飛苦無ひくないを突き刺した。


『グオォォォ』


 短いうなり声を上げたが、飛苦無もろとも黒い霧となって闇の中に散った。

 

 甘楽はその最後を見届けることなく、すぐさま穂国さんの元へと駆けつける。甘楽は穂国さんを取り囲んでいた邪鬼を狩りながら、穂国さんに声をかけた。


「穂国くーん。今日の晩ごはんは何?」


 この場の雰囲気には全く似つかわしくないトーンで尋ねる甘楽。

 穂国さんもまるで散歩でもしているかのようなトーンで返す。


「うーん……親子丼にしようと思っていたけど、なんかこいつ見てたら肉を食いたくなくなってきた」


 穂国さんは言いながら目を細めた。


 顔なのか頭なのか分からないが、そこにはいくつも目があり、そのひとつがギョロリと穂国さんを睨み、他の血走った目が甘楽をねめつけた。口からは鋭い牙が生えており、その隙間からダラッと涎を垂らしている。肉の塊にしか見えない体を、ズルズルと引きずるように距離を縮めてくる。


「えー、オレ肉がよかったのにぃ~。じゃあ、天丼は?」


 不満たらたらだが別のメニューを注文する甘楽に、穂国さんが渋々といった態で頷く。


「天丼か。ちょっと胃がムカつきそうだが、ま、いっか。今日は天丼にしよう」


「やったー! おっきいエビのせてよ」


 そう言って喜ぶ甘楽めがけて、バケモノが丸太のような腕を振りかざしてきた。


 穂国さんはすぐさま鎖鎌を投げ、バケモノの腕を切り落とした。


『ウウウウ……』


 バケモノは地響きにも似た唸り声を上げると、切られたところからニョキニョキと腕を生やした。バケモノは再び腕を振り上げると、今度は穂国さんを襲う。


 甘楽がすぐに手裏剣を投げたが、虫でも追い払うかのように、軽く薙ぎ払われてしまった。もう一度投げようとした甘楽だったが、意外にもバケモノの動きが早く、甘楽の目の前まで迫ってきていた。


 急いでバケモノとの距離を取ろうとした甘楽だったが、岩のような手が甘楽を頭から押さえつけ、その場に押しとどめた。甘楽は今にも潰されてしまいそうだったが、穂国さんが鎖鎌をバケモノの腕に巻き付けグイッと引っ張った。


 力が弱まったところを、甘楽は転がるようにバケモノの手から逃れる。


 穂国さんは懸命に鎖鎌を引っ張ったが、それ以上はビクとも動かず、逆にバケモノに鎖を引っ張られてしまい、穂国さんもろとも振り回されてしまった。穂国さんはすぐさま鎌を手放し、宙返りをして地面に着地した。


「欲に憑りつかれたモノよ、見るに耐え難い。消去」


 すると、穂国さんの手を離れた鎖鎌は、まるで龍のごとく自らの意思で動いているかのように、バケモノへと飛んでいきその首を刈った。バケモノの頭が地面に転がる前に、体と共に黒い霞となり風に吹かれて消えた。


 甘楽も穂国さんもホッとする間もなく、次から次へと襲ってくる邪鬼に対峙していた。

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