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《大和》異質な存在




「ねえ、教えてよ」


「どっ、どこがいい、なんて、俺は……」


詰め寄る俺に、真白は露骨に身を引く。


壊れたおもちゃのように、真白の声の調子が狂っていた。


明らかに真白が動揺している姿に、じわじわと楽しさが勝ってくる。


真白がこんなになるなんて、すごいな。

目を泳がせて、この場所から立ち去ろうとする真白に、俺はさらに追い打ちをかけようと決める。


「顔?」


「べっ、別に、顔なんて……、あいつごく普通だし……」


「じゃあ性格?」


「せ、性格は最悪だよ! 俺に対して遠慮しないし、はっきり物を言うし、怒るし、最低最悪なんだよ!」



自分の姉を最低最悪と言われて、いい気になるわけはないけれど、その言葉が本心ではなく、どうも照れ隠しで放たれているのは伝わってきていた。


真白は動揺したように頬を赤く染めて、俺と目が合うと、露骨に逸らす。


「ふうん」


にやにやと勝手に唇の端が上がる。


思っていたよりもこいつは姉ちゃんに惚れているのかもしれない。


意地悪く笑っている俺を見て、真白は急にムッとしたように眉を顰める。



「――ちょっと。何その笑顔。不愉快なんだけど」


「俺はすごく面白いよ。真白がいつもと全然違う顔をしているから」



茶化すように笑った俺に、真白はとうとう怒りを堪えることができなくなったのか、さっきまで俺が読んでいた本を掴んで、俺に向かって投げつけてきた。


「痛てっ!!」


「腹立つ!!」


「急に手を出すなよ!」


ドタバタと取っ組み合いのケンカになりそうになった時、突然頭にパシッと大きな音が響いて、痛みが走った。


音は二回で、痛みは一度だけだったことを思うと、俺だけではなく真白も同じように殴られたことを知る。



「――一体、何やっているんだ! 喧嘩するなよ、二人とも!」



呆れたように俺たちに向かって拳を握りしめていたのは、則祐だった。



「だっ、だって則祐、太一が……!」


「ち、違うよ、俺はただ……」


「うるさい。もう深夜近いんだぞ! 大塔宮様の眠りの妨げになったらどうする!」



怒鳴っている則祐が一番うるさいような気がする、と思ったけれど、真白と一緒に黙り込む。


「さあ、仲直り!」



般若の顔の則祐を見て、渋々真白と向きあう。



「ご、ごめん……」


「……うん、ごめん」


互いに謝ると、則祐は途端にいつもの則祐に戻った。


則祐は怒らせると一気に人が変わってしまうって、覚えておかないと。



「――よし。それで、どうして喧嘩していたんだ?」



則祐は俺たちの傍に座り込む。


尋ねられて答えようとすると、真白は俺を睨みつけた。


余計なことを言うなよ、という言葉がその視線に含まれているのは、俺も気づいていた。


黙る……?

いや、でも則祐にも共有したい。


そう思って、真白のことは気にせずに口を開く。


「真白に、雛鶴姫のどこが好きなのか聞いていたら、突然怒り出したんだよ」


「べっ、別に怒ってなんか……!!」



再び声を荒げてムキになりかけた真白は、則祐の纏う気が鋭くなったのを感じて、途端に口を噤む。


「姫のどこが好きか、か……。よし俺も聞こう! それはとても気になるな」


則祐は心底楽しそうに、真白に向かって身を乗り出す。


「い、いいよ!! 別に則祐や大和に教える義理はないよ!」


「あるだろ。さっさと教えろ」


俺よりもしつこく、則祐は真白に迫る。

真白は困った顔をしていた。

則祐に返す言葉を探っているようだった。


真白は俺には対抗意識を燃やすくせに、則祐にはちょっと違う。


俺よりももっと気を許している。


もちろん俺なんかよりも、二人の関係はずっと昔からだろうし、心を許すのは当たり前だ。


そうわかっているけれど、ちょっとだけ寂しくなる。


いや、寂しくなるだなんて、変か。


所詮俺はここにいること自体、異質な存在。

俺は実は足利方だし、本来なら宮方に紛れ込んでいるなんておかしすぎる。


ここが居心地が良すぎて、忘れそうになる。

いや、真白や則祐だって最近は忘れていそうだ。


俺が大塔宮様の命を狙っていることは、真白も則祐も知っている。


でも、俺の正体なんて、どうでもいいように振舞っている。




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