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《真白》惚れた方が負け





「――とにかく、真白殿はとても人気がありましたよ」


東湖の声に、我に返る。


「か、過去の話だよ」


「今、宮中に戻っても、そうなりますよ。むしろあの時よりももっと大騒ぎになります」


宮中を離れていたから、一体どうなっているかわからない。


たまに戻って顔を出してはいたけれど俺のことなんて、皆忘れているかもしれない。

いや、むしろいっそのこと忘れていてもらいたい。


「きっと山のような恋文を貰ったのね」


「文字通り“山”ですね。そんなに貰ってみたいものですが」


「馬鹿言うなよ。東湖だって姫君たちからすごく人気があったよ。“光源氏”って陰で呼ばれていたよね」


そう言うと、東湖は噴き出すように笑う。

雛鶴も東湖の笑顔につられて口元を綻ばせている。


「ええ? 光源氏? 東湖さんが?」


「懐かしいあだ名ですねえ。あの頃は数々の姫君と浮名を流したので、そう呼ばれただけですよ」


自慢げに東湖が言ったのを聞いて、雛鶴は少し身を引いて「ふうん」と苦笑いする。



「真白殿に見向きもされなかった姫君を陥落するのは、非常に容易いことでした。傷ついた彼女たちを慰めるのは私の役目ですから」



それはもしかして、さっきの疑問の答え?

東湖は姫君たちから俺を守ってくれていたけれど、同時に自分にも利があって……。それはそれでお互い様な関係だったってこと?

気づくと自分の眉間に深く皺が刻まれている。


純粋に俺を助けるというわけではなく、下心満載だったことにようやく気付く。

そうだ、東湖はそういうやつだった。

あの頃は姫君たちから逃げることができればどうでもいいと思っていたから気づかなかったけれど、

東湖は元々ものすごく女好き。


それなのに、変なところで一途で……――。



「そ、そう。もういいわ。また教えてね」


東湖をさらりとあしらって、雛鶴は俺に目を向ける。



「やっぱり真白くんは姫君たちに放っておかれないのね。きっと今京に戻ったら、すごいことになるわ」



笑った雛鶴に、つい反論したくなる。


「あのねえ、俺は……」


そこまで言いかけて、口を噤む。


確かに今まで沢山の姫君たちから好きだとかなんだとか言われたし、恋文も山のように貰ったけれど、



――俺が好きなのは、雛鶴だけなんだけど。




「なあに?」



ああ、本当に腹立たしい。


この気持ちを告げたら、この優しい世界も、一気に崩壊する。


東湖の目が俺に向いている。

こいつは俺の想いなんて百も承知で、こうして釘を刺している。


絶対に、自分の気持ちを雛鶴に言うなよ。と。


開きかけた唇を、閉じる。


大丈夫。俺はまだ、大丈夫。



ただ願わくは、このままもう少しだけ、大塔宮様の手の届かない場所にいたい。



もう少し、俺だけの傍にいてほしい。



「……何でもない」



ぼそぼそと呟く。


東湖はようやく俺から目を離した。

雛鶴はきょとんとして首を傾げている。


その姿に、俺は目を閉じる。


惚れたほうが負けだなんて言葉、間違いなく真理だと思うよ。


少なくとも、俺は。




【終わり キンノクニSS 大和編へ】



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