え、普通そんなんで追放するか?
「ば、化け物が……!」
洞窟内にて。
黒ローブを羽織った男が、片膝をついた姿勢で悪態をつく。
「ヴェルス・イアード……実力は噂以上かよ……!」
「いやいやいや」
俺――ヴェルス・イアードは、剣を鞘にしまいつつ、ひょいと肩を竦めてみせる。
「俺なんてまだまださ。ちょいとだけ、あんたの攻撃をかすっちまったからな」
「それだけで《まだまだ》だと……? ふ、ふざけんな!」
激怒する黒ローブの男。
そうか。
そういやこいつ、国内でも有名な盗賊団の首領だったな。
幾度にわたって挑んできた冒険者を、ことごとく返り討ちにしたという。
別名――皆殺しのヴィケンズ。
あまりにも多くの冒険者を殺したことから、人々からは強く恐れられていた。聞くところによると、エース級と呼ばれるAランク冒険者でさえ勝てなかったらしい。
だが。
「いやいや、かすっただけでも駄目だって」
なぜなら、俺は防具を着ることができないから。
厳密に言えば、最下級の《レザーコート》や《レザーレギンス》といった弱い防具なら着れるんだよな。いまの俺も、冒険者になったばかりというような装備を身にまとっている。
だが、それ以上に高級な防具は着ることができない。すこし着ようとしただけで、全身に激痛が走るからだ。
理由は単純明快。
前世の俺がそう神に願ったからである。
――やはり男は《裸ノーダメ完封》が正義。
前世で一通りの魔物を秒殺できるようになった俺は、今度は刺激を求めるようになった。
強い武器さえあれば、ある程度の魔物なら誰でも倒せる。
簡単なんだ。
でも、それじゃ飽きたからな。
来世では刺激ある生活のために、呆れる神を無理やり説得して、この呪いを自身に課した。おかげで順風満帆な日々を送っている。
ひとつ懸念事項があるとすれば――そうだな。
まともな装備を身につけられないせいで、俺はギルドでも異質の存在だってことか。
実際にも、俺の冒険者ランクは最下級のE。
いくら戦闘経験が豊富といっても、防御面において頼りない者を昇格させるわけにはいかないらしい。
まともな攻撃を一撃でも喰らったらアウトだからな。
だから俺は、冒険者7年目にしていまだ最底辺。
年齢も25歳だし、どんどん若手の冒険者が登録してきている時期だ。
こうなってくると、さすがにギルドにも居づらくなってくる。新人冒険者たちの冷たい視線も気にかかってきた。
ギルドに登録していないと、強い魔物と戦うのにも一苦労するからな。こうなると困るんだ。
だから俺はヴィケンズを狙った。
悪名高いこいつを倒せば、ギルド内でも評価が高まるだろうと。Dランクくらいには昇格できるだろうと。
「そういうわけで、ヴィケンズ。ちょいと気を失っててもらうぞ」
「くぬっ……!」
俺がヴィケンズの首筋に手刀を打ち込むと、奴は白目を剥いて動かなくなった。
これで、すこしは俺の評価が上がるはず。
――そう思っていた時期が、俺にもあったんだ。
王都ホルワース。
冒険者ギルドにて。
「はぁ? ヴィケンズを倒しただぁ?」
ギルドマスターの素っ頓狂な声が響きわたる。
「ああ。念のため気絶させているが……拘束を頼めるか」
言いながら、俺は背負っていたヴィケンズを床に置く。強めに手刀をしておいたし、まだまだ目覚めるには時間がかかるはずだ。
「な……!?」
「本当に皆殺しのヴィケンズ……!?」
「嘘だろ……!?」
周囲の冒険者が口々に喚き声を発する。やはり、こいつの討伐はかなり目を引くみたいだな。
「というわけだ。あとは頼んでもいいか?」
「――困るんだよなぁ」
「は?」
ふいに眉根を寄せたギルドマスターに、俺は顔をしかめる。
「ヴェルス。知ってるだろ? ヴィケンズは強敵だった。我がギルドにおいても、多くの犠牲者が出た」
それは知っている。
だから俺が討伐しにいったんだ。半分は《自分の名誉のため》だが……こいつを放っておけば、さらに被害が拡大するからな。
「ヴェルス。おめー、ランクはなんだよ?」
「は?」
どうしてそんなことをいまさら聞くのか。
「Eだ。それがどうしたってんだよ」
「馬鹿野郎が。そんなこともわからねーのか。AランクやBランクの冒険者が殺されたのに、Eランクごときがやっつけたんじゃ……ギルドの信用問題に関わるだろうが!!」
は?
こいつ……なに言ってんだ?
「ヴェルス。君はほんと、頭が悪いねぇ」
ふいに新たな人物が姿を現した。
ニールス・ケイン。
青の長髪が特徴的な、Sランク冒険者だ。
ニールスは嫌らしい笑みを浮かべながら、続けて言う。
「ただでさえ、現在はギルドの評判が落ち続けている。そこで君なんかが功績を出してみなよ。ギルドは人を見る目がない、むしろ無駄な犠牲者を出した……そんな噂が広まるのは必然だろう」
「…………」
呆れた。
あまりに次元が低すぎて、言い返す気にもなれない。
「そうだ、ニールス! おまえがいたじゃねえか!」
ふいにギルドマスターがにかっと笑う。
「ヴィケンズはニールスが倒したことにする! それなら問題ねえな!」
「ふっふっふ。さすがはギルドマスター、僕も同じことを考えていたところだよ」
は?
は?
は?
おいおい、なに勝手に決めてやがるんだよ。
「というわけだ、ヴェルス」
最後に、ギルドマスターは俺に振り向いた。
「ギルドの信用のために、おまえにはここを去ってもらう。わかってるな?」
「おい、ふざけ……!」
そう言いかけたところで、俺は気づいてしまった。
周囲の冷たい反応に。
誰もが俺に敵対する目つきをしていることに。
「…………」
なんだ。
なんだってんだよ。
このでっち上げを、みんな見ていたはずだよな。そのうえで、俺をのけ者扱いするってのか。
「出ていけ、ヴェルス。ギルドマスターの命令は絶対だ」
「はあ……」
先輩冒険者に投げかけられた言葉に、俺は心から嘆息する。
もはや反論する気力さえ起きない。
こいつらには、最初からなにを言っても無駄だろう。
――そうやって、俺はギルドから追い出されたんだ。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
すこしでも
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
今後とも面白い物語を提供したいと思っていますので、ぜひブックマークして追いかけてくださいますと幸いです。
あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
何卒、お願いします……!