勇者とタカさん
身に余るご評価ありがとうございます!!
「てめえら、今絶対に人間に言っちゃいけねえ言葉を言った事が解っているか?」
「は!!本当の事を言っただけだろ!!何が悪い!!」
「そうかい……どうやら勇者ってのはただの餓鬼だったらしい。あの馬鹿女神らしい糞の集まりだった訳だな……」
「あなた!!!女神ホルスになんてことを!!神罰が下りますよ!!」
「糞が喋んな!!おう、こんど糞の親玉に言っておけ、懲りてねえようだからタカフミがもう一回躾けに行ってやるってな。今度は万年単位で身動きできないようにしてやるって言っておけ」
「はああ?何言ってんのこのおっさん?人間が神に何ができるってのよ?」
「この森にいる奴らは大体神を殺せるぜ?まる子だったら世界ごと壊せる。この森に絶対に手出ししないって約束だったから干渉しなかったが……ここまでくそばかりになっちまったら、さすがに黙ってられねえな……」
「ふん、妄言をたれるようになったか、こんな奴の力など必要ない。女神ホルスも背信者の力など欲しくもないだろう。ここで殺してやる」
「おう、お前らどうやらマースとやり合ったらしいがよお、お前らマースに触れたか?ちったあ戦いになったか?」
「……!!あんなのはまぐれだ!!僕たちはパーティーで本来戦う。あの時は最初一対一で始めたのが間違いだったんだ!!最初から連携をしていれば簡単に勝てたんだ!!ははは!!僕らは人間の最高到達点だ!!負けるわけがないだろう!!」
「……なるほどねえ……人間の希望様は一対一で勝てずに、情けなく仲間に縋ってぼこぼこにされて、負けたのを仲間のせいにして、今度は一対多数だったら負けるはずがない。最高の加護とやらをバカなガキみたいに自慢して、何も持たない加護なしの少年に何にもできないで負けて、そう言うわけだ」
「……貴様!!許さん!!」
「なんでお前みてえな馬鹿餓鬼に許してもらわなくちゃならねえんだ?おい。勇者と書いて馬の糞と読むクソ餓鬼。加護なんて阿呆なもんに頼ってたら一万年たっても俺には勝てねえぞ。もちろんマースにもな。加護を持っている人間はな、本物の人間には絶対に勝てねえ。人間が掴むべき強さを捨てちまって馬鹿なおもちゃを振り回しているだけの阿呆はな」
「許せません!!!私たちだけならともかく、加護をバカにすると言う事は女神ホルスをバカにすると言う事!!エルドラ!!この外道に神罰を与えますよ!!」
「本当にむかつく!!このおっさん!!私たちの苦労も知らないで好き勝手言って!!殺してやるわ!!」
「ははは、お前らの苦労なんて知るか。どうせ加護なんて中身もないものに頼って好き放題してたんだろうがよ?幼児がちょっと周りより高級なおもちゃがたまたま手に入ったからって自慢してただけだろうが?勇者?賢者?聖女?まとめて馬鹿って読んだらどうだ?人の痛みが解らない馬鹿垂れにはぴったりだろうが」
「エグゾースト・ファイア!!!」
アミーは自分で唱えられる最高の魔法を唱えた。
「ブレス・サラマンダー!!」
ナセルはさらにアミーの魔法を強力にサポートした。人間に出せる最高火力となり、タカフミを炎が襲った。
「ふん、」
隆文は軽く指で空気を裂いた。手品のように炎はその空気の断面にすいこまれ、後には何も変わらない姿で退屈そうに、ゴミを見るような目のタカフミがいた。
「っつ!!そんな!!」
「何がそんなだ馬鹿。そんなとろ火、ここの森じゃ煮炊きにも使えねえぞ。二人合わせてそれかよ。ゴミムシが。少しは考えて力を使え。お前ら出来るってだけで、それ以上考えなかろうが。人間ってのはな、出来た、じゃあそれからどうしようって考えてもっと進化するんだよ。どうやったらもっと上手く、効率よく、強力に、最大限の効果が出るように考えて行動するんだ。てめえらはもらった加護だかアホだか知らねえがそれが全てなんて思って、それでいいと思ったんだろうが。当然だ馬鹿」
「このおおお!!!」
エルドラは全力を持って聖剣をタカフミに突き刺した。
タカフミはあくびをしながら半歩だけ中心線をずらし、聖剣の腹を優しく小指で押した。
勢いはそのまま、軌道をずらされたエルドラは盛大に前に進み地べたへキスをした。
「……お前は猪か。いや、猪に失礼だな。お前ほど猪は馬鹿じゃないし。どうだ?加護とやらの力が全く通じないと解ったら、お前何にもできないだろ。人間としての力を放棄した間抜けにしか見えねえぜ。」
「……人間としての力……だと……」
エルドラは鼻血を出し、無様な顔でよろよろと立ち上がった。
「……人間の力ってのはなんだ。女神ホルスから加護をもらって、その力で……」
「ばーか。それで何の加護も持ってないマースや俺に何にもできないだろうが。……たく、つくづく馬鹿ばっかりだな、こんなのが今の人間の代表なんてつくづくあの馬鹿女余計なことしやがって……人間の強さってのはなあ、弱い事なんだよ!!だから強くなるために必死に考えるんだろうが!!色々工夫するんだろうが!!何にもないから強いんだよ!!」
「人間はな!!弱くて弱くてどうしようもねえ、かっこ悪い、ひとりじゃ何にもできない、だから集まるんだよ!!みんなで考えるんだよ!!そんで少しずつ少しずつ、進歩していくんだ。亀みてえな速さでゆっくり進んで行くんだ。そうしてできるものが人間の強さなんだよ。他の人間の心が解る。だからそのために何かする。自分の心が痛い、だから助けてほしい。その為にみんな一所懸命幸せになろうと頑張る。それが人間の強さだろうが!!」
「てめえらはな、俺から言わせたら人間として最下層だ。勇者だあ?最高の加護だあ?そりゃあ最高の神の犬になりましたって事の証明だろうがよ。誇りなんぞねえ、自立なんぞねえ、与えられたもので調子に乗って、鼻息荒くしているただの糞だ。おう、犬どもてめえら人間もどきが本当の人間に勝てると思ったか?魔王なんて倒したって無駄だぜ?どこまで行ってもてめえらはただの犬だ。あほくせえ。馬鹿女もお前らじゃ無理だと思って俺の所によこしたんだろうよ。ひょっとしたらあのあほの事だ。お前らに見切りつけて俺に始末させて、次の勇者とかを準備してるぜ?つまりお前らは廃棄された可能性が高いわな」
「・・・・・!!そんな馬鹿な事があるか!!僕は」
「じゃあ、お前、俺に少しでも勝てると思うか?マースに勝てると思うか?俺の見立てじゃお前らじゃ四天王とか言う奴らにも勝てない。ぼろ負けだ。そんな奴らが本当に頼りにされると思うか?お前らの性格じゃ、好き放題やってきたんだろ?そんな間抜け共にお前らの女神様とやらが何かしてくれると思うか?あっちの立場からすると自分の信仰を集めたいのに、肝心の勇者様がお馬鹿で間抜けなんてなったらまずいだろ?」
確かに、バルカスに負けてからは手のひらが返ったように皆冷たくなった。勝っていた時はちやほやしてたのに、負けて帰ってくると悪い噂も聞こえてきた。その噂のほとんどが身に覚えがあったために何も言えなかった。
「くくく、図星か……呆れたねえ、お前さあ、さっさと勇者やめて逃げた方がいいぜ?他の奴らも同じだ。もう一生誰にも会わないで4人で暮らしたら?多分お前らどこにも行く場所ないだろ?それともここで暮らすか?60年位たてばほとぼりも覚めるだろうよ」
「……子供が、いる……」
「あらら、何人?」
「アミーとの子が2人、ナセルとの子が3人、リリアとの子が1人……他にも……」
「……お前、本当に屑だな。魔王討伐の旅で何やってんの?最中に子供出来たら戦力が減ると思わなかったの?子供を産むためにそいつら離れなきゃいけないわけだろ?その間に何かあったらどうするつもりだったの?あのな、俺は別にそう言う関係になるなとは言わねえ、戦闘の後は特に高ぶってどうしようもなくなる時はあるからな。でもよお、お前それならそれでできねえようにやれよ。せめて、替えの存在を用意してからやれよ。戦力の低下を考えないで猿みたいに盛るって、お前下半身に脳がついてんのか?」
「……うるさい!!それでも僕らは勝ってきたんだ!!だから!!」
「負けただろ?少なくとも俺とマースに、そんで女神様とやらにも見切りを付けられた。お前もう終わりだよ。……それにな、てめえ、リリアって子、あの蹲って泣いている子だろ?子供出来たって言ったよな……お前の子を産んでくれた子だよな……お前、その子にさっきなんて言った?」
ぞくり……
瞬間、タカフミの空気が変わった。無表情になり、目が笑わなくなった。
「俺はな、どうにも役に立たないとか、使えないとかそう言う言葉に反応してな……俺の前でそんな言葉を使う奴は、生きていたことを後悔させてやることにしているんだ。しかも、お前にいたっては、子供を産んでくれた大切な人だろう……それを、てめえはなんて言った?よう、俺の前でもう一度同じこと言ってみろよ……」
エルドラは金縛りにあったように動けなくなった。暖かい場所にいるのに、氷の中にいるように全身が震えた。
「……タカさん……もういいよ……」
マースが、静かに近づいてきた。マースは服を変えていた。生成りの粗末な服から、ゆったりとした前合わせの白い羽織とたすきを絞め、下は袴、タカさんが昔いたと言う国の侍同士の決闘の死に装束とも言うべき姿だった。長い髪は油を塗られたように艶艶と輝き、頭の後ろでまとめられ、目元には紅を引き、口にも紅を引いた。これは首を切られても見苦しくないようにという作法であった。
エルドラはそれがマースだと解らなかった。余りにも記憶の中にいるマースとはかけ離れていたのである、王国では甲冑を着込み、さまざまな防具を備え、耐久力をあげることが主流になっている。それとは逆にマースの服は動きやすさ。心胆、覚悟を持ってこの場へ望むという事を明確に表した服装だった。
凛として佇む、水晶のような煌めきがあった。
マースはエルドラに冷たい表情のまま話しかけた。
「エルドラさん、さっきから見させていただきました。リリアはあなたといた方が幸せだと思っていましたが、どう見ても今のリリアは幸せだと思えません。ですので、自分勝手ではありますがあなたとリリアを切り離させていただきます。ただあなたとリリアには子供が産まれているので、身体に痛みを与えるだけにします。」
「マース……お前が言っていた幼馴染って」
「リリアです……」
「そうか、なら、俺が出る幕じゃねえな。だけどよ、せっかく俺も盛り上がったんだ。後で顔かせ。久しぶりに立ち会おうぜ。リリアちゃんは俺に任せな。今は戦える状態じゃないしな」
「お願いします。エルドラさん、先ほどは木剣を使用しましたが今回は僕本来の武器を使います。ですので本気で来てください。そちらの賢者さん、聖女さんもお好きなように攻撃してきてください。準備が必要ならば待ちます。最大の力を持ってかかってきてください。僕も、真剣に行きます」
マースの雰囲気が変わった。昔見た何もできないマースとは似ても似つかない空気を発し始めた。バルカスの圧倒的な重圧ではない。全てが静謐で凍り付くような神聖な空気。
マースは初めて構えた。武器、刀という武器を腰だめに構え、少し前傾姿勢になり、そのまま動か無くなった.
エルドラに最早まともな思考はなかった。知られたくない所を全てさらけ出されたのだ。だが、希望はある。もしここで仙人とやらを始末してしまえば、また王宮に戻り戦力アップを考えられる。女神ホルスに頼んでもっと強力な勇者にしてもらおう。
「フィジカルハイブースト!!!マインドフルネス!!プロテクションレザー!!」
ナセルは今できる限りの支援魔法を全員にかけた。三人のからだが光に包まれた。
「テンペストホール!!エグゾートフレア!!サモンアイビーゲイザー」
前線に出ているエルドラの支援のために逃げ場を失うように計算して魔法を落としていくそうすると必然的に逃げ場は狭まり・・・・・・そこには、エルドラが待っている
アミーは最後に呼び出したゲイザーから視覚情報を共有し、マースがどこにいるのか探ろうとした。
爆炎と暴風雨の舞起る中、必死に探した。空気を裂いた。そうすればその先に必ずいる。そこに最大火力の攻撃魔法をうちこむ。魔力のパスはナセルから絶え間なく送られてくる。
「バースト・フレア!!」
広範囲の、全殲滅魔法を使った。周囲全ての光景を爆炎に染めて一気に全てを破壊する魔法を使った。
シュン……ピキ……
マースは一振りした。そのひと振りでアミーが信じてきた世界が全て変わった。
マースは、目の前の空気を両断した。この世界の全ては空気を通じて影響をおよぼず。その空気を遮断され、対象に影響を及ぼせるわけはない。爆発、炎上は全てその断面に吸い込まれた。この時点でアミーの全ては封殺された。
魔法の全てを封殺される、それはアミーの全てを否定することに他ならない。アミーはこの時点でただの役立たずの一人の女と化した。
あっけにとられているアミーの胸に一本の刃が生えた。音もなく、静かに、当たり前のように、それは胸から生えていた。
「これであなたは、何もできません。魔法を使う事もできません。肺を半分破壊しました。詠唱を唱える事もできません。少なくとも、これが終わるまでは……」
アミーはそのまま、崩れ落ちて動けなくなった。
全くマースの動きについていけなかったエルドラは今さらマースのいる場所に気が付いた。自身にあたえられた加護の力を最大限に使い、全力でマースに突貫した。
もしよろしければご感想などお願いいたします。書き手は悦び庭駆け回るでしょう。もひゃひゃと喜ぶでしょう。タカさんは書き手の前の話しのあの人です。多分。本当は何にも考えてません( ´艸`)