決着、世界の分岐点。勇者一行の末路
おかげ様でこの話しで完結いたします。ありがとう御座いました。
……ナセルは、おかしなことを感じた。初めて見るエルドラの姿だった。初めて真の力をエルドラが見せたのだ。
……そう、バルカスに負けた時にも見せなかった姿を。もし、あの時この姿になっていたらバルカスに勝てたのではないかと思う程にエルドラの力は上がっていた。
何故?なぜあの時この力を使わなかったのか?そうすれば、負けなかったのではないか?……考えてみればバルカスとの一戦を終わった後、エルドラが一番軽傷だった。そう、前衛であるはずのエルドラよりもナルス、アミーの方が傷が深かったのだ。
リリアが一番ひどかった。リリアは必死に自分達を守ってその末に身体中がボロボロになった。
今さら、魔王討伐になんの関係もないこんな戦いで、寿命を縮むような力を使って、単なるプライドのために……
目の錯覚だろうか、先ほどまで輝いていた勇者であり夫の姿は、ただの餓鬼に見えていた。思い通りにならず駄々をこねて、騒いでいるだけの餓鬼に見える……
聖なる気が溢れる。それなのに、まったくこの男が勝てる気がしなかった。
相手、マースという少年は……天に向かって真っすぐに立っていた。ただそこにあるのが当然のように、何万年もそこにあり続ける大木のように、例えるなら、自然、自然の景色と一体とかしていた。
「……まあ、合格点かなあ」
ぼそっとタカさんと呼ばれていた男が言った。男はいつの間にかナセルとアミー、リリアの傍に居た。
「お前さんら、よく見ておけよ?これから面白いものが見れるぜ?お前さんらが捨てちまったものだ。加護とか神とか悪魔とか関係ない人間の力の集大成が見れるぜ?」
「人間の……」
呆然とした顔でリリアはつぶやいた。
「お前さんがリリアだろ?マースの昔なじみだろ?こっぴどくマースを追い出したって聞いてるぜ?」
「……!!……マースが……そうです……」
「ああ、安心しなよ。最初は怒っていたみたいだけどな、すぐに忘れちまったよ。むしろ感謝していたぜ?そのおかげで剣が振れるってな。今じゃいい思いでになってるってよ。あいつ、お前さんに会っても何も言わなかっただろ?あいつの中じゃとっくに整理できてんだ。今じゃもっと夢中なことがあるからな」
リリアは心を抉られた。自分が支えにしていたマースが……とっくに自分の事を過去にしている。思い出……言葉は同じでも、リリアとマースにとっては天と地ほども違う意味になっていた。
リリアはその思い出に縋って生きているだけだった。マースはその思い出を力に変えて本当の意味で思い出にしていた。
頭の中が割れそうになった。目から勝手に涙が出てきた。口からは嗚咽が出てきた。吐き気が酷くて息が吸えなかった。
「……マースが……私より……思い出より……夢中な事って……」
リリアはやっとそう言った。
「強くなること、最終目標は俺に勝つことだな。まだ一発も入れられねえけど。あの調子じゃ後1000年は無理だな。その間に俺も強くなるし。まあ、今の状態でまる子相手にいい勝負ができるくらいかなあ……」
「……強さとは、加護とは違うのですか?」
ナルスは小さ声で聞いた。ホルス教で育ってきたナルスには世界の全てはホルスであり加護の力であった。最高の加護である聖女、そして勇者世界は自分達を祝福し、それこそが全てだった。だから、加護を否定するという事は、ホルスの力を否定すると言う事は自分の全てを否定するという事であった。
「はあ?加護なんて力の訳ねえだろ?そいつはあくまでも馬鹿な女神の力であってお前さんの力じゃねえ。加護ってのはな、単なるおもちゃだよ。それを使うが馬鹿ってもんだ。高いおもちゃを買ってもらった。だから僕偉いって言ってるようなもんだ。周りから見たら馬鹿が馬鹿なことやってるとしか思えねえ」
ナルスの心に罅が入った。リリアは目の前が真っ暗になった。
だとしたら、私は、マースに何と言った?加護もない癖に騎士団が務まるか……加護なしと一緒だと思われたくない。無能……話すこともしなかった。マースがどれだけ助けを求めていても、それがマースのためだと思って……
お前なんておもちゃを持っていないから仲間じゃない。どっか行け。仲間外れにしろ……そう言っていた……
おげえええええ……
リリアは胃の中の物を吐き出した。
ナルスは自分の世界が壊れて行く音を聞いていた。それでも、それでも20年の自分の人生を全て否定することなどできない。もしかしたらこの男が嘘を言っているかもしれない。
確かにこの男やマースは強い。異常だ。相手にさえされてない。何故魔法も、加護もないのにここまで差があるのか、その差がどれだけあるのかさえ分からない。つかめない。バルカスは強かった。でも、それは自分達より強いと言う事が解った。単純に力負けした。
でも、この二人は何も解らない。あっさり勝てそうな気もする。でも、それをどうやって勝つのかと考えたら何も思いつかない、勝てる姿が想像できない。
どれだけ強力な加護、聖女、勇者、賢者よりも強力な神と等しい力を持って……いや、それでも勝てる姿が思い浮かばない。
「お前さん、今自分が信じてきた世界が崩れてるだろ?」
男はナルスの心にナイフを突き立ててきた。
「それでいいのさ。可哀想にな、お前さんはこの世界で一番くらいに強いって加護を持ってたんだろ?それはな、この世界で一番使っちゃいけない力を持ってしまったってことなんだよ。」
「……え……」
「加護なんて元々この世界になかったのさ。お前さんが最後まで縋っていた加護ってのはな、馬鹿な神が人間につけた首輪だよ。知っているか知らないが、まあ、教えてこられなかっただろ?加護なんてよお、人間には本来必要のないものなんだよ。」
「でも……そうしないと……人間は全滅して……」
「しねえよ。人間は危機に陥ると必死で考えてどうにかしようとあがく。あがいてみっともなく泥水を這いまわりながら、それでも生きようとあがく、考えて考えて、なにかないか何かないか探し回って、泥臭く、犠牲を出しながら、打開しようと何でもする、作り上げる。そうして人間の歴史を作ってきた。その過程で人間は大きな力を手に入れてきた。鉄の武器、戦術、他の動物を利用し飼育する。食料を得るために必死で固い土を掘り起こし、畑にして作物を作れるようにする」
「……女神ホルスの言う事は……全てはホルスが……」
「お前さん、そのホルスが食い物を配ってる姿見たことがあるか?いやあ、そんな事よりホルスの姿見たことがあるか?俺はひねくれているんでな、自分で見た事以外は信じないようにしてるんだ。そんで、ホルスの最大の加護をもらったお前さんらはただの人間の俺らに相手にもされてないんだけど?それでも、認められない?」
「・・・・当たり前です!!女神ホルスの力は絶対です!!そして、エルドラは最強なんです。見てください!!あの莫大な聖気の本流を!!あれこそ神の力です。あの力さえあれば。バルカスも、魔王も!!絶対に!」
ナルスは壊れて行く心を繋ぎとめられるようにエルドラへ最後の支援魔法をかけた。
ナルスの最強の支援魔法、聖気に強力なバフがかかり、筋力は倍加し、速度は残像が生まれる程に早くなる。
アミーは肺が潰れる事を覚悟で魔法を放った。「ライトニング・テンペスト!!」
すべての力がエルドラに集まり聖気が爆発的に広がり、電が巻き起こり、局地的な天変地異のようになった。リリアも動こうとした、パーティーの盾は自分だ。曲がりなりにも勇者一行の盾となりメンバーを守ろうとした。それは無意識にまで刷り込まれた行動だった。
行こうとしたリリアの方をタカさんが抑えた。
「お前さんは行くな。お前さんはマースが人間として鍛え上げた所を見ていろ。お前さんがきりすてたマースの、本物の人間の強さを見ていろ。人間は弱い。どこまでも弱い。しかし、この世界のどんな奴よりも可能性に満ちている。マースはその可能性を全て強く張る為に使った。600年それだけのために使った。人間の力はな、考えて考えて、その結果生み出したものを受け継いで、さらに考えて、結晶のような技術に出来る事だ。俺はそれを600年マースに教えた。その結果をお前さんは見届けろ。」
「加護など一つも役に立たない所を見届けろ。本物の人間本来の、力のあり方を見届けろ。人間、いや、この世界に生きとし生けるものはこの世界の全ての力を借りて、世界と一体になることだ。それが出来るようになれば……神も悪魔も敵じゃねえ。」
きゅうるるるるるるん♡
まる子がリリアとタカさんを守るように尻尾と翼で守ってくれた。間からは勇者と聖女と賢者が一つの世界とつながったマースに向けて攻撃を仕掛ける時だった。
「聖光!!神滅流覇斬!!!」
「エルダー・バースト・ティルト・ゴアデュプリケイター!!!」
「ミーズ・レジオ・フレア・ガラティーン!!」
全ての力、全ての神の力を集結して聖剣アロンダイトに込めた、聖気、光、魔力、核熱、これ以上ない破壊の全てを込めた聖剣が、マースに全て向かっていた。溢れる聖気により視認できない程の速度でマースに襲い掛かる。
消えた。跡形もなく。後ろの森も一緒に、全てが消えた。
そうか、ホルスがここに行けと言ったのはこのためだったんだ。仙人をぶっ殺せ、その結果自分たちはこれほどの破壊力を持つ攻撃手段が手に入る。この攻撃があれば、どんな敵でも倒せる、そう言う事だ!!
マースは上体は変らず、ほんの少しだけ腰を落とし、腰を引いた。刀は腰に下げられ、右手を柄に添えていた……
そして、光の本流とマースはぶつかった。マースは鯉口から初めて刀を抜いた。音もたてず、身体が空気と一体化になって、光も破壊の本流も、神聖力を持つ矢も、全て一刀のもとに切り捨てた。
音も、空気も残さず、マースは何億回もやってきた事をやった。
脱力、骨がない、液体から気体へ、そして世界と一つに、足は大地の力を伝え世界の一部となったマースの身体は距離など関係がなかった。
魔力なら魔力を神聖力なら神聖力を、聖剣なら聖剣を切ればいい。
速く速く、ひたすら速く、何臆回もなぞってきた身体はそれを可能にした。細胞レベルで学習した動きはエルドラたちの攻撃を視認もせず、空気の起こりに反応し、最適な動きを神経が反応する前に動き出した。
究極の脱力と速さを持ったマースの動きはエルドラたちには一切見えなかった。
衝撃音は起こらなかった。物音ひとつ起こらず、居場所が変わっただけになった。外から見たらエルドラの位置とマースの位置が変わっただけに見えた。
お互いにダメージらしいダメージは受けていないように見えた。
アミーとナセルは今起こった事が理解できず、それでも、いま確実に死んでいた恐怖に動けなくなっていた。気が付かないのはエルドラだけだった。
「は!!うまく避けたようだが!!次はそうはいかない!!僕を、加護を、ホルスをバカにした付けは絶対に払ってもらう!!」
マースは、もう構えもせず、そのまま去って行った。
アミーとナセルは今だ何が起きたのか理解していないエルドラを可哀そうな物を見る目で見ていた。
すると、タカさんは勝負が終わったとみてマースに声をかけた。
「おーい、マース、追加でもう一人前作っておいてくれえ。まる子もお前のハンバーグ楽しみにしているしよ。リリア嬢ちゃんも泊まっていくだろうからよ。」
「一応エルドラさんたちの分も用意しておきますよ。どうせしばらく帰れませんし。まあ、明日からの前払いってことで、あー、そういやタカさん、上と下どっち行きますか?」
「うーん……とりあえず下に言ってきたばっかりだから上かなあ」
「じゃあ、俺は下かあ、後始末する人の気持ちになってくださいね。」
「そんな生意気な事を言うのは俺に一発入れられるようになってから言いなさい?今夜も飯終わったらいつものだぞ?」
「今日こそは一発やってやりますからね!」
「がははは。1000年早い!!まあ、さっきの立ち方はよかったぞ。花丸上げよう。だからグリーンピースは……」
「楽しみだなあ、ハンバーグにはグリーンピースは欠かせませんよね♡」
「……俺はこの世界は大好きだけど、何故この世界にはグリーンピースなど恐ろしいものがあるだろう……いいか、マース、この世で一番強いのはグリーンピースだ。あれは魔神だ……」
「その魔神を虐めれる人が何言ってるんですか?自分凄いと思っている人がピーマンとグリーンピース食べれないって勘弁してくださいよ。栄養バランスを大事に!!ねー、まる子♡」
きゅうううん♡キュるるるるん♡
「うう……まる子まで……わかったよお、でもちゃんとデザートにプリン用意してくれよな?俺なかったら泣いちゃうぞ?」
「あ、そうだ、今日はタカさんが久しぶりに戻ってきたからハヌマーンとかフェンリルとか、ジャータユとか遊びに来ると思うすよ。俺が広めましたし。森中から集まると思いますよ」
「おま!!それなら大宴会三日は寝れませんよコースじゃねえか!!師匠を何だと思ってんの?」
「ダメ人間」
「はっきり言いやがった!!反論できないのが悔しい!!!でもそれがちょっと嬉しい♡」
「基本タカさんどMですもんね。」
「違う!!俺はソフトMだ!!ツンデレ大好きなだけだ。だからマースは結構いい感じです。」
きゅるるるるるるるん(# ゜Д゜)
「な、何だよまる子!!お前マース狙い?そんなにマース大好きなの?……あれ?フェンリル?ハヌマーン?シルフィ?ニルフィ?ジャータユ?みんなマース狙い?え?
俺は?」
「……ああー、マースのご飯上手いもんなあ……そういう意味で言ったら俺もマース狙いだなあ。あいつに一生ご飯作ってもらいたいもん……良し、ならば、戦争だ。ジャン拳であいつに作ってもらう曜日を決めよう!とりあえず今日は俺のハンバーグなので明日からのメニューを決めます。ハヌマーン。お前のリクエストは?カレー?うん、それもあり!!まる子!!お前のメニューは!!マース本人?馬鹿野郎!!人化の術を覚えてから来い!!え?もうすぐ覚える。おめでとうございます。オムライスが食べたい?俺も食いたい。フェンリル!!お前が食いたいのはなんだ!!親子丼?なんで?お前犬系じゃん?はあ、卵と鶏肉と玉ねぎとつゆのハーモニーが溜まらん……君本当に神を殺せる魔獣?……とりあえず今日はハンバーグ。マースの事だから沢山用意している筈だから。腹いっぱい食えるでしょ」
そう言いながら、一行はエルドラの事などなかったように去って行った。
エルドラは激高して、すぐにマースと周りにいる者を皆殺しにしようとした。そして、聖剣に力を入れた……
ぽとり……
聖剣が真ん中から真っ二つに折れた。折れたと言うより、とてつもなく鋭利な物で切断されていた。切られた感触など一つもなかった。聖剣を振りぬいた時に違和感も感じず、断ち切られていたのだ。
エルドラも、ナルスも、アミーも、リリアも、まったく解らなかった。聖剣アロンダイトそれはホルスから遣わされた聖なる剣であり、破壊は不可能と言われていた勇者の剣であった。
エルドラ自身もこの剣は傷ついたところは見た事もない。それが、あっさり、馬鹿馬鹿しくなるほどに両断された。自分に気が付かない程に。
聖気の根源、増幅するのにはアロンダイトが絶対に必要だった。その根源をあっさりと破壊された、現実が理解できす、エルドラは時が止まったように動かなかった。
「エルドラ……無理だよ……あれは本物の化け物……バルカスなんかとは比べ物にならない化け物……」
「……ホルスの……神殿に言って本当に今まで教えられていた事が正しいのか調べてみます……あの二人を見ていたら……とても信じられなくなってしまいました……加護なんてあるから弱くなる……もし本当なら、ホルスは人間の可能性を奪った罪人です……」
ホルスの力の象徴であったアロンダイトがあっさりと真っ二つに切られた。それは今まで信じていた勇者一行の心のよりどころが消えたという事であった……
戦略など一つも入る隙間もない。どうしたら戦えるとかいう以前の問題、比べる所も解らない。攻撃できるイメージがわかない。守れるイメージはわかない。加護だとか、武器だとか、そんな物が通じるような話じゃない。
タカフミはいった、人間としての強さの前には加護などなんの意味もない。だとしたら、人間としての強さを最大限に高めた所がマースであり、タカフミであった。加護を当てにしている時点でどうやっても勝てない。
最後にタカフミは言った
「あのな、加護とか魔王とか、魔獣とかな、本当はこの世界に関係ないんだよ。この世界に嫌われてんの。だったら加護なんて受けたってこの世界が協力してくれるはずないべ?加護なんて持っている時点であんたらこの世界にとって敵なんだよ?まずは加護を忘れる事から始めた方がいいよ?」
ナセルはこの数時間で生きてきた全てが崩れ落ちた。女神ホルス、そして最高の加護、その力が何一つ通用しなかった。ホルスの事を責められてもそれに抗えること全てを潰された。無敵だった加護の力が何一つ通じなかった。
アミーはなお惨めだった。肺を傷つけられ、詠唱もできない、苦しみながら大魔法も使った。なんの意味もなかった、服に焦げ一つ付けられなかった。その上で君が受けた加護は何の意味もない。たまたま与えられたおもちゃであり、それに乗っている君は救いようのない馬鹿だと言われた。
人間の強さとは、この世界を理解し、磨き上げた技術である。何代も何代も錬磨され、たった一つの事に特化した技術だ。
剣を振って、切る。その事だけを極めた。極めた剣は全てを両断し、切られた事さえ気が付かせない。
魔法も切る、武器も切る、大気も切る、切る事だけに特化した。そこには誰かの力などなかった。
そして、その夜、失意のエルドラたちはタカフミとマースの立ち合いを見る事になる。
二人が向かい合って剣を構える。瞬間空気が凍った。地上からすべての空気が消えて真空になった気がした。
お遊びであった。今まで自分たちが行っていた闘いはお遊びにしか過ぎなかった。本当におもちゃを与えられて調子に乗っていただけだと解った。
二人とも動かない。いや、ミリ単位では動いているかも知れない。呼吸、服の擦れ、全てにおいて隙を作り、隙を見出そうとしていた。
月明かりの下で二人は精巧な絵画のように、見る者を圧倒していた。美しかった。究極まで行くとそれはもはや芸術とかす。
エルドラも、アミーも、ナルスも、リリアも、本物を見て飲み込まれていた。恐怖もわかない、いや、恐怖するほど美しい。触れずとも切れる程の緊張感、圧倒的な次元の違う世界。
そして、二人は世界と一体化していった。世界は大きく、美しかった、加護などという矮小な世界を喜んでいた自分が心底恥ずかしくなるように……
その後、エルドラたち一行は頼みの綱の聖剣も失い。失意のまま岐路についた。アミーは途中で姿を消し、ナルスは市井に戻り、教団をやめ子供を引きいて行方不明になった。
ホルスの加護、それは間もなく人間の間から消えてしまった。それに伴い魔獣、魔王も世界からいなくなった。しばらくは混乱が起きたが、それでも人間は生き続けていった。
天界で一人のタカさんという男が暴れ、魔界ではマースが暴れた。元々三つの世界で一番可能性を持っている世界が人間の世界、そしてその可能性を開花させた人間に勝てる道理はなかった。
ホルスは余計な事をして、虎の尾を踏み、タカさんに死なない程度にぼこぼこにされ、天界を半壊させたとされ全ての力を奪われた後封印された。その結果、人間の世界へは不干渉と言う決め事ができた。
魔界ではマースが憤る魔族をなだめて治まらせた。事前にタカさんが暴れたから、素直に従った。元々の原因のホルスが消えた事で人間界からは手を引くらしい。加護もほどなく無くなるという事で天界とは相互不可侵の取り決めが出来た。魔獣も加護が無くなるなら必要なくなるのでそれに合わせて減っていくとの事だ。
エルドラは、全てを無くした。さんざん勇者という事で好き放題にしてきたつけを払う事になった。魔王がいなくなれば勇者など何の価値もない。通常の魔獣であれば冒険者で対処できる。そして魔獣の数は目に見えて減って行った。そして、エルドラは戦う事も出来なくなっていった。どうやってもあそこまで届かないと思い知らされた。今では勇者という肩書が呪いにしか思えなかった。
最高の加護、それは人間として強くなることはできない……そう思ってしまった。
戦う事が出来なければエルドラはただの無能の青年であった。いつしか誰からも忘れ去られていった。場末の居酒屋でよく似た人間がくだを巻いている姿を見たそうだ。
リリアは王宮に残り続けた。騎士団として所属していたリリアはそれを全うした。子供はアランが引き取り、後継ぎとした。リリアは生涯独身を貫いた。時折寂しそうな顔で泣いている姿を見せたそうだ。
「……ごめんね、マース……」
そうつぶやくリリアの傍には誰もいなかった。子供も取り上げられ、最愛の人を裏切り、役にも立たなかった上に、罵倒されることもなく、過去の人、知り合いにしか接してくれなかった。あれはリリアのために怒ったのではない。エルドラの非人道的な行為に怒ったのだ。
もし、リリアに少しでも心が残っていてば、あの時、リリアは僕と一緒に暮らすと言ってくれたかもしれない……本当にマースの中でリリアは終わった事になっているという事が解った。そして、自分は心が死んだ。
あれ以降無界にはいっていない。恥ずかしくて、顔向けできなくていけない。
加護なしなどと言って追放しておいて、結局マースに助けられて、おめおめと帰ってきた。
これから人間の世界は変っていく、誰にも助けてもらえない。だから一生懸命もがいて自分で立つ時代が始まって行く。
無界で、この世界と切り離された所でマースは生き続けた。
竜から変化した美しい娘と、口うるさい親父と、愉快な仲間たちに囲まれいつまでもそこに住み続けた。
身に余るご評価ご感想阿知賀とうございます。しばらくお休みいたします!!空っぽになりました!!魂が削れるようなお話を思いついたらまたお邪魔すると思います!!やはり私の本質は抉りに行く事らしい・・・・・・この話しも抉ろうと思うと後40話くらい必要になってしまう。でも絶対BAN喰らう……しばらくのさようならです。




