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最初、マースの最初、

テンプレを改造しました。情けなくて、何もできなかった主人公。でもその後で、大きな世界との出会い、本当にざまあになる時って、対象が屈辱になる時ではないと思っているんですよねえ。後悔しても、取り戻せない。その相手が目の前にいて、それでも一緒に居ようと思う資格も自分でないと思っている事が本当に死んでしまいたくなるんじゃないでしょうか。まあ、この話しの中ではそれがあるか解りませんが……





どうやら、僕は死ぬらしい


 18の今日までを思い返すと我ながら起伏にとんだ人生だったと思う。


 側の名前はマース・ビブリオ、本当の名前はマースだけだ。


 僕は両親がいない。


 父は冒険者としてその日暮らしをしていた。母はただの村の娘だった。ある日、村にゴブリンが現れて、その討伐のために雇った冒険者が父だった。


 母は少ない報酬に納得しなかった父に献上され、僕を孕んだ。


 最寄りもなく、無くすものが少ない母は否応なく村から差し出されたそうだ。村から追い出されたら母は生きていけない。この時さえ我慢すれば生きていける。


 そう思って泣きながら父の所に行ったらしい。


 父はそれでも、母を大事に扱った。平たく言えばその時点で惚れたらしい。もし、冒険者としてひと財産が出来たら、この村に戻って所帯を持とうと話したらしい。


 母はその言葉を信じた。村としても貴重な戦力と働き手が増えるのならば大歓迎だった。


 見目だけは美しかった母、勉強など教えてくれる者もおらず、力仕事もあまりできない。将来は村の男をあてがわれてそのまま、なるようになるしかない。


 そう考えていた。それが最初は不本意とは言え、頼もしい男性から見染められたのだ。


 この時が母の人生にとって最高の地点だったのだろう。


 僕が生まれて一年後、父が死んだと報告があった。


 形見の冒険者カード、そして遺髪が届いた。


 母はそれでおかしくなった。それしか希望がなかったんだ。生きる事の悦びを父に夢見る事で暮らしていけたんだ。

 最初は村の人たちは母を慮り、優しく接してくれていた。僕という子供もいるけれど、後添えに若い男との結婚も世話をしようとしていた。

 

 母は頭は良くなかった。父を愛しすぎていた。父が死んだことが理解できなかった。父が死んだと言ってくる村の人に殴りかかり、罵声を浴びせた。


 そのうち、誰も構わなくなった。僕は母と一緒にいた。父の面影をもつ僕だけが母の心のよりどころだった。


 それでも食べ物や、日用品を村の人たちはくれた。それで何とか生き残っていた。


 僕が3歳になった時、村が盗賊に襲われた。後で知った事だがこの盗賊は戦争にあぶれた傭兵の集団だったらしい。この国との戦争に負けて、行き場を失い、略奪行為に走っていたらしい。


 普通の盗賊より質が悪かった。国から指名手配され、いつ死ぬか解らない。尻に火がついた状態で暴れまわっていた。


 村は皆殺しになった。


 女は連れ去られて、男は殺された。


 子供は奴隷として売るために連れていかれた。



 盗賊団のアジト、山の中ほどにあり、大きな洞穴をさらに改造した臭い場所、そこには牢もあり、僕ら子供はそこに繋がれた。


 心を折る為なんだろう。さらった女は子供の前で嬲られた。


 母は父の名前を言いながら死んでいった。最後まで父の事を愛したまま行った。


 僕の反応が面白く無かったのだろう。盗賊は僕を執拗に嬲った。いつの間にか僕は何が起きても反応しなくなった。死んだと思った盗賊は僕を蹴飛ばすともう見向きもしなかった。


 僕は、この時確かに一度死んだ。


 気が付いたら僕は、誰かに抱えられたていた。


 鉄と汗と血の匂い、とてもいい匂いと言えないような匂いだったが、だから僕はまだ生きていると思えた。


 ……お父さん……


 僕はその匂いを嗅いで、そう言った。


 ・・・・・・


 僕を助けてくれたのはこの国、フォンダン王国の騎士団だったらしい。僕を抱えていたのはその隊長だった。


 名前はアラン・ビブリオ。25歳。


 若くして騎士団の分隊長を任される逸材。貴族としての地位は侯爵。


 先の闘いにおいて華々しい戦果を挙げ、叙勲された。今回は残党狩りの指揮を執っていた。情報をたどり、やっと大規模な討伐体をくんで駆けつけた。


 遅かった。村は跡形もない程破壊され、酸鼻を極める光景が広がっていた。


 この世界ではそれぞれが女神ホルスの加護が15歳になると発動される。もちろん加護は様々なものがあり、戦闘に適した加護も生活に適した加護もある。


 加護がなければ人間はまともにこの世界で生きていく事は出来ない。人間単体では犬にも勝てない。武器をとりやっと渡り合える。そして加護、例えば戦士の加護があれば筋力に多大な補正がかかり、大型の猛獣とも渡り合えるようになる。


 人はその力に酔いしれた。女神ホルスがいなければ加護が手に入らない。だから皆女神ホルスを崇めた。


 この村にも戦闘を生業とする加護を持った者もいただろう。だが、相手は素人ではない。抵抗の痕はところどころみられる。それでも、一線で戦闘をしていた傭兵に勝てるわけがない。同じ加護もちだったら結局経験がものを言う。


 一筋縄ではいかない相手だった。だからアランが来た。アランの加護は聖騎士。王国でも10人しかいない希少な加護を持っていた。


 聖騎士は周りの人間に加護を与えられる。鼓舞することで周りは普段以上の力を発揮できる。


 事戦闘となると、最高の加護であった。


 戦場で行くつもの惨状を見てきたアランにとっても村、いや、元村と言おう。その有様は酷かった。戦闘の末に死んでいったのでは無い、己の楽しみのために嬲り殺しにして、火を放った事が良く解る。


 鬼畜に死を。この村を襲った者は明確な鬼畜外道であった。尖った屋根の上に小さなしゃれこうべが笑っていた。


 襲ってから、5日はたっている。もはや生存者は見込めまい。


 外道に死を、外道に死を、アランはアジトに突貫した。


 傭兵団はなすすべなく破れた。まさかアランほどの人物が来るとも思っていなかったのであろう。抵抗はしたが一刀のもとに全て叩き切られた。


 数も違う。享楽的に生き、酒も薬もやっていた野党では勝負にならなかった。恨みの言葉も言えない間に全滅した。


 アジトの中は村以上の惨劇になっていた。そこら中に女の死体が転がり、子供は皆息絶えて居た。どうやら薬が回りすぎて後の事も考えられなくなっていたらしい。


 油を巻いて、焼き払う事にした。アランの娘と同年代の子供たちもいた。もしこれが我が子だったら。アランは静かに涙を流し、黙とうをささげた。


 ……かさ……


 音がした。


「隊長!!この子生きてます!!」


 この地獄のような所で一つの命がいた。幼い、栄養状態も良くない、酷い打撲痕もある。生きているのが不思議な状態でなお生きる事を諦めない。


 それは希望であった。地獄の中で咲いた一つの芽であった。


 アランはその子を抱え、外に出ようとした。


 抱えるアランの手を、その子は弱弱しく触ったそして……


 お父さん……そう言った。


 この時、アランは二人目の子供を迎え入れる覚悟をした。




 5年がたった。


 マースは8歳になっていた。


「マース!!次は素振り100回よ」


 アランの家には娘がいた。リリアという娘だった。子供でもその将来を期待するような美貌は際立っていた。


 肩前伸びたプラチナブロンドの髪、奇麗な琥珀色の瞳、透き通るような白い肌、騎士であるアランの子供のためか、勉強より剣の稽古に明け暮れているので、スラリとした体格。


 おとぎ話の妖精のような外見の子であった。


 マースは黒髪、黒目、オニキスのような艶やかな外見をしていた。一目で同じ血が流れて居ないと解る外見だった。


 引き取り手のないマースはアランの家の子となった。表向きは平民の子を養子に迎えるなどありえないので、使用人みならいだがリリアと歳も近い事もあり、本物の兄弟のように暮らしていた。使用人も活発なリリアと、大人しいマースのコンビは好ましく思い、リリアがイタズラをして、後でマースと一緒に謝りに来るとニコニコと許してくれた。


 マースは自分の立場が良く解っていた。アランは分け隔てなくマースにも接してくれる。それは優しさだけではなかった。決して甘やかさず、厳しく、教育していった。


 お前はリリアを支えていってくれ、リリアはあの通り一度思い込んだら一直線な所がある。だから、マース、君に頼みたい。その為に私は何でもする。


 そう言って、マースの頭を撫でた。リリアの事を心配していると同時にマースの事も大切に思ってくれる事が解った。


「はい、僕はリリアと一緒に居ます。お姉ちゃんですから」


 そうマースが答えるとアランはマースを抱き上げて


「ははは、私の息子はなんて利口なんだ」


 そう言って涙を流した。外見的には全く似ていない二人だったが、心では本物の家族となった。


 リリアは騎士を目指した。父のように強くなりたい。加護がどうなるか解らないが、父のように誇り高く、皆を守れるようになりたい。そう思い、日々訓練に明け暮れた。


 稽古の相手はマース、そして父が雇った現役を引退した騎士、名のある冒険者だった。


 リリアは血と言おうか、目覚ましい成長を見せた。加護がどうあろうと物を言うのは経験である。どんなにすぐれた力でも使い方が解らなければ何の意味もない。


 アランの一族は代々戦闘系の加護を持って来た。王国の剣と言っていい家系であった。

特別な家である。そこには貴族であっても立ち入れない文化があった。


 最低限の礼儀作法さえしっかりしていれば、誰も深くは言わない。


 マースはリリアが騎士になるといいだした時に自分の将来も騎士になると決めた。


 いつまでもリリアと共に。そして、アランはそのための工作をした、


 自分がマースを養子に向かえるとリリアと結婚できなくなる。なので伝手の有る貴族に頼み、マースをいったん養子にいれ、その後リリアと結婚させる。


「なあ、リリア、マースの事好きか?」


「うん!!大好き!!あのね、マースの事を考えるとなんか顔が赤くなって胸がぽかぽかするの……パパ、私何か変なのかなあ?」


「ははは、そうか、リリアはマースの事が好きなのか。それは変じゃないよ?好きな人を考えるとそうなるんだ。リリアはマースとずっと一緒にいたいかい?」


「マースと一緒……うん、リリアずっとマースと居たい!!」


「任せておけ!!リリアはマースとずうっと一緒に居られるよ。」


「やったー!!パパ大好き!!えへへへ♡マース私と一緒に居て喜んでくれるかなあ」


「マースはリリアの事好きだから大丈夫だよ。さあ、訓練に行きなさい。今日は私も参加しよう」


「パパが!!やった!!早く来てね!!」


 そう言ってリリアは出て行った。


「だって、君はどう思う?マース?」


「……あ、あの、僕は……僕でいいんでしょうか……」


マースは物陰から出てきて顔を真っ赤にしてアランに話しかけた。


「マースが嫌だと言ったら、それでもいいよ。それでもかまわない。マースがリリアの他に好きな人ができれば……」


「できません!!僕はリリアが……あ……」


 アランはニマニマしながらマースを眺めていた。


「今日はごちそうにしなけりゃな。お祝いだし、僕ら家族が本当に幸せになる記念日だ。リリアは幸せものだね。本当に好きな人と一緒になれるんだから♡」


「あ……あう……」



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