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3人目の魔法少女到来

「……どこに行ったのかしら」


 焦燥を露わにする麗。

 もえかの姿どころか、魔力周波すら感知できない状況。

 一刻も早く彼女を発見し、然るべき対処をする必要があるのである。


 もえかが撤退してから、もうすぐで10分が経過する。


 手掛かりといえば些細なものだ。

 彼女の跳んで行った方角。

 そして落とされた血液。

 だが血痕は途中で消失、そこからどこに向かったのかは掴めていない。


 麗と同様、蒼汰もユキナも発見には至っていない。


 だが、もえかが姿を消すことのできた原因は掴めている。

 その理由をユキナが心の中で代弁する。


(やっぱり……隠密術式だよ……)


 過去に何度も煮え湯を飲まされてきた術式である。

 あらゆる追跡から逃れることのできるそれは、まさしく難攻不落とも言える強力な魔法である。


(もえかさんは私と麗ちゃんを殺すことが目的。それなら、また姿を現して襲ってくるはずだよね……)

 

 最早自分たちから彼女を見つけることは絶望的である。

 再び逢い見えるためには、もえかが自ら3人の前に姿を現すほかない。


 そして、人工魔法少女ロストよりおよそ600秒が経過した。

 

 秒針が10回転を成し、11週目に突入を始める時間。

 それを待っていたかのように、または偶然であるかのように、蒼汰、麗、ユキナ以外の靴の音が響いた。


 忌々しい鍔鳴りの機械仕掛けの刀を携え――


 衣服の損傷は激しいままだが、胸の傷も、その他の傷も綺麗に消え――


 艶のある黒髪を流し、凛として威風堂々たる風格でいる女子高生。

 

 体制派(システマイザー)の暴力装置として最高級の魔法少女が、再び3人の目の前に現れた。

 

 ユキナは背筋を凍らせ、一瞬握っていた魔法のステッキを落としそうになる。

 蒼汰は再び現れたもえかの姿を目に焼き付け、救いの手を差し伸べるべく身構える。

 麗は拳銃を振り上げ、間髪入れない射撃で先手必勝――


 ――という目論見は大きく揺らぎ、麗の手の内から拳銃が吹き飛ばされる。


 黒髪を生き物のようになびかせながら接近していたもえか。

 鍛え抜かれた剣豪の速度で刀を操る少女は、続く2撃目の狙いを麗の首に設定。


「麗ちゃん!!」


 もえかの刀が麗の首に迫る中、飛び出したのはユキナだった。

 凄まじい演算速度で魔法のステッキにブレードを形成し、もえかの刀と激突する。


「もういい加減――!!」


 もえかの刀をはじき返し、ユキナは左手の手のひらに魔力を注ぎ込む。


「――倒れてよ!!」


 一瞬にして収束された魔力を、手のひらからの魔力砲撃として射出。

 

 鍔迫り合いで打ち負け、体勢を崩したもえかへの至近距離からの魔力砲撃。

 もえかが回避も防御系術式も張る余裕のない状況の中、すぐ隣の麗が声を張る。


「それはだめよ!! ユキナ!!!」


 ユキナの魔力砲撃を否定する麗。

 一歩遅れた麗の言葉を、ユキナは理解し切れていなかった。


 だがすでに発射された魔力砲撃は、すぐ目の前の対象に着弾する。


「――っ!!?」


 もえかに着弾した瞬間、魔力砲撃は砲手のユキナに向かって跳ね返される。

 

 砲撃がユキナの衣装を焼き焦がし、衝撃と高温が同時にユキナの意識を奪い去る。


 ユキナが気絶するのと同時に、麗が短剣を取り出すのが見えた。


 狙いは狗神もえかの右目。

 脳まで達することを前提にした1突きが、もえかの目の前にまで肉薄。


 しかし、殺意のこもった斬撃は軽く躱される。

 加えて、もえかの刀による斬撃がカウンターとして撃ち出される。


 麗は体をひねり、斬撃の射線上より退避――


 ――のはずが、麗のすぐ横にまで迫っていた刀身は急激に軌道を変えた。


 麗の反応速度では追いつけない攻勢が、彼女の胴を斬り裂いた。


 呻きの声を漏らした麗の膝の力が抜ける。


 その隙を見逃さなかったもえかが、一時的な膝立ち状態の麗の顎を蹴り上げた。


 その衝動が重大な脳震盪を引き起こさせる。


 麗までもがその場に崩れ落ちた。

 先ほどまで優勢に戦いを繰り広げていた少女2人が、何らかの理由により本来の性能を取り戻した人工魔法少女に打ち負かされた。


 もえかは刀を振り上げ、斬撃による斬首を計画――


 2人を殺せば実験は完了される。

 だが、この場に存在する4人目の人物。


 彼は真っ赤に瞳を変色させ、彼女たちに命じる。


「――まだだよ2人とも!」


 吉野蒼汰が発した言葉は、特殊な周波を伴って麗とユキナに届く。


 ――大天使命令受領。


 ――魔法少女、再覚醒。


 赤い瞳を広げ、倒れこんだ麗とユキナが揃ってもえかのお腹を蹴り上げる。


 ローファーとヒールの打撃が、もえかの上半身を大きく反らせた。


 洗脳に堕ちた2人はすぐさま立ち上がり、体勢を崩したもえかの胸に掌底を打つ。


 もえかは背中から地面に倒れこみ、おもわず握っていた刀が手の内から離脱する。


「――藤ノ宮、胡桃沢、その小さな建物をもえかの方に崩して!!」


 蒼汰が指を指す先――


 戦闘によって半ば崩れかけた2階建ての建造物。

 2人は蒼汰の指示通り、その建物の柱に向かって攻撃を開始する。


 木っ端みじんに手前の柱を破壊。

 支えを失った重量級の建物は蒼汰たちのいる方向へと傾いていく。


 蒼汰たちはすぐに現場から退避。

 建造物は瓦礫と煙がまき散らして、もえかの倒れる地点へと倒壊する。


 吹き荒れる煙にせき込みながら、蒼汰は麗とユキナに声をかける。


「――2人とも、今はどうしようもできない! 一旦退避しよう!!」


 洗脳を施したことによる麗とユキナの復活。

 実質的に戦闘力が向上したとはいえ、未だもえかに対する決定打に繋がっているとは言い切れない。


 目指すは『第1実験場』入口。

 蒼汰と麗たちが入ってきた唯一の出入り口である。


 蒼汰の駆け足に2人が続く。

 

 これまで随分な距離を戦闘しながら移動してきた。

 目標地点まではそれほどの距離ではない。


「――胡桃沢、魔法のほうきを出して!!」


 命令を受けたユキナが空飛ぶほうきを召喚。

 ユキナがそれに跨り、蒼汰と麗の襟を掴んで強引にほうきの上に乗せる。


 徒歩よりも何倍も効率よく移動できる魔法文明の利器が効力を発揮。

 

 ビルの谷間を駆け抜け、視界が開いた先に頑強な扉が姿を現した。


 目標地点を視認。

 このまま出入り口を通過するのが一番早いであろう。


 それも束の間、後方から響く爆発音。

 

 蒼汰が後ろを振り向いた時、見えたのは建物の瓦礫や砂塵が爆発のエネルギーで空中高く持ち上げられていた光景だった。


 そして、それを成した魔力閃光。


 あの方角は、もえかの上に覆い被さった建物のある方向である。


「普通の足止めじゃ跳ね返されるのか……」


 蒼汰苦虫を噛み潰したように表情を曇らせる。


 瓦礫の噴火から約数秒後。

 砂塵とアスファルトの砂利を巻き上げながら、高速飛行でこちらに向かう人影を確認。


 空飛ぶほうきよりも速い移動速度で飛ぶもえか。


 着実に距離が詰められ、確実に攻撃が命中するほどの間合いへと追い詰められる。

 もえかは手のひらをかざし、魔力を収束させていく。


 魔力砲撃が来る――


 思わず固唾を呑む蒼汰。

 

 もえかは正確に目の前を行く空飛ぶほうきに狙いを定め、凝縮した魔力を一気に放出。


 勢いよく撃ち出された魔力砲撃が、空気を焼き尽くしながら突き進む。


 そして、高エネルギーの魔力砲撃に対抗するように、淡い魔力光をまとうランスが真正面から激突する。


 投擲されたランスは『対魔導・物理術式』で強化されたもの。

 魔法攻撃への耐性を付与されたランスが、もえかの魔力砲撃と共に爆発する。


 その光景の一部始終を見ていた蒼汰。

 後ろを振り返りはしないが、何が起こったのかを理解している麗とユキナ。


 そして、全力で魔力を込めた武器を投げた彼女が――

 ヘスティア・シュタルホックスが開いた扉の前に立っていた。


 麗とユキナの表情は心なしか明るく見えた。

 ヘスティアが来たからといって、この状況を覆せるという保証はない。


 それでも、彼女たちはこうして仲間が揃ったことを喜んでいた。


 ヘスティアが迎撃装置になるつもりでいることに気が付いた蒼汰。

 

「――胡桃沢、藤ノ宮、このまま出入り口から廊下に突っ込んで!!」


 蒼汰の指示を受けたユキナが加速する。


「ヘスティアさんも一緒に――それと彼女に()()()()()()()()()()()()()()!!」


 ヘスティアは2本目のランスを召喚し、剣先に魔力を充填させる。

 

「麗! 可燃物を頂戴!!」


 ランスに魔力供給を行うヘスティアが叫ぶ。

 麗は彼女の作戦に感づき、すぐさま霊装を使用する。


「――いいわよ、デカいのを食らわせてやりなさい!!」


 魔力閃光と共に、もえかの周囲を取り巻くように物体が出現する。


 大きな光が四散した直後、現れたのは燃料と炸薬を大量に積載した大型ミサイル10発。


 召喚されたミサイルを狙い、ヘスティアはランスに集中させた魔力を拡散魔力砲撃として射出。


 麗はすぐに『対魔導・物理術式』を発動させ、ほうきに跨る3人を包み隠すリフレクターを展開する。


 10筋に枝分かれした魔力砲撃が、それぞれ10発のミサイルを撃ち抜く。


 魔力砲撃がミサイルの炸薬に引火。

 爆発した炸薬がさらに燃料に火をつける。


 実験場全域まで走る衝撃が、ミサイルの大爆発によって引き起こされた。


 爆発の衝撃が、術式の展開に間に合わなかったヘスティアを後方へと吹き飛ばす。


 背中を扉に叩きつけられ、呻きを漏らしたヘスティア。

 そこへ、彼女に手を伸ばす少年が声を張る。


「ヘスティアさん、手を!!」


 差し出されたのは蒼汰と後ろに座る麗の手。

 ヘスティアも手を伸ばす。

 蒼汰の手を握り、麗もヘスティアの手首を掴んだ。


 やがて空飛ぶほうきの推進力に引かれ、ヘスティアの体が宙に浮いた。


 そしてヘスティアの開放した扉から『第1実験場』の外へ――

 

 実験場から漏れだす爆炎と衝撃波を背中に受けながら、蒼汰は背後の麗に耳打ちする。


「――藤ノ宮、僕に考えがあるんだけど」


 洗脳の効果が切れ、普段通りの彼女に戻っている麗。

 そんな彼女は蒼汰の考えを理解し、言葉を返す。


「ええ、私も同じ仮説を立てているわ。あなたの考えに賛成よ」

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