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ナノマシン

 日本 A-MI東京都市 ミコト研究機関 


 窓のない部屋。

 太陽の光が一筋さえ届くことのない、自然界から完全に隔離された空間。


 電灯と計器類の人工的な明かりが室内を照らしていた。


 そこでは白衣を羽織った中年の男の技術者、そしてスーツを着た男女が2人、壁のスクリーンに視線を走らせていた。


「――こちらをご覧ください」


 技術者の一言で全員がスクリーンに集中する。

 マウスを操作し、新たな画面を表示。


 様々な表とグラフが現れ、数々の数値が浮かび上がる。

 暗号のように英語の文が立ち並び、専門的なデータが画面を埋め尽くした。

 そしてページの最下部に映し出される写真。

 それは何らかの物質の集合体である


「これは同系列研究機関から譲り受けた技術を、我々が完成にまで導いた、人工魔導発生ナノマシンです」


 魔法は天性の才能である。

 魔法の適性のないものは魔力を持たず、魔法を使うことはできない。

 だがこのナノマシンさえあれば、無適正の人間に無理やり魔法を授けることができる。


「これは……美しいものですね」


 スーツの女が感心したように画面に食いつく。


「はい、これが――人工魔法少女計画のカギでございます」


 技術者の説明に、感服したようにスーツの女は顎をさする。

 スーツ女の好反応に、心を躍らせる技術者が付け加える。

 

「このナノマシンを投与する人間には特殊な調整を加えています。調整カリキュラムで強化した人体にナノマシンを投与し、そこでナノマシンに適合できるかどうかを観察します」

 

「なるほど――ですが、ナノマシンの完全適合に成功する人材はあまりいないのではないでしょうか?」


 はい――技術者が肯定する。


 人工魔導発生ナノマシンは非常に致死性を高めたドーピングである。

 故に、致死性を克服できるだけの超人的な肉体と精神を作り上げるのが調整カリキュラムの正体である。


「実際、投与の段階で多くの被検体が命を落としました」


 そう言いつつ、技術者は数冊の茶色の封筒を引き寄せる。

 封を開け、中の書類を取り出す。

 出てきたのは数百枚の書類、そこには一枚一枚顔写真や個人データが記録されている。


「これらはすべて実験に参加した被検体です」


 どっさりとした書類の束には何百人もの調整という名の実験結果が記されている。

 そしてすべてが、『適合失敗』と記されていた。


「ナノマシンに適応できたのは2名のみ、その他の者は体が耐え切れずに絶命しました」


 白衣の男は別の封筒の中に保管されていた2枚の書類を取り出す。

 それは2人の少女の実験データを記した、先ほどの数百枚のものと同じ書類だ。


 違うところといえば、『適合成功』という文字が判子されているところだ。


「ですので実質、ナノマシンを運用できる者は現状たったの2人のみということになります」


 白衣の男の話を聞いていたスーツの女。

 そのとき、それまで沈黙を守っていた男が口を開く。


「なるほど……こちらの要求水準が高すぎたことは認めるが、これほどピーキーなナノマシンでは、軍用品としての需要が下がるというものだ」


 その男の言うことは正しい。

 莫大なコストを賭けた上で、適正者が圧倒的に絞られるといった事態などあってはならない。


「ご安心ください――体制派(システマイザー)殿」


 白衣の男はスーツを着た男である、体制派(システマイザー)殿の懸念を払拭するため、言い訳を用意する。

 

「これは予想の範疇でして、別な計画を水面下で同時進行させています」

 

 スクリーン操作。

 技術者はそれまでのナノマシンに関する実験データを閉じ、新たなスライドを展開するためマウスを動かす。


「ナノマシン計画を引き継いだ計画、それがナノマシンの完全適合に成功した人工魔法少女の――クローン化計画です」


 展開したスライドの読み込みが完了。

 スクリーンに浮かび上がるのは計画の詳細である。

 

「すでに1体の個体を作り上げ、実戦試験として反体制派(ファントムフューリー)の異世界転移者との戦闘を行わせています」


 仕事が早いな――体制派(システマイザー)殿は呟きを漏らし、隣のスーツの女も熱心に画面に見入っている。


「現在までに、200回行った実戦テストにおいて、損傷はありますが200回の勝利を観測することができました」

 

 誇らしげな技術者のセリフに、2人の傍聴者に微笑みが浮かぶ。


「――これらは次なる最終段階に移行できるだけの実験結果です」


 技術者がプレゼンテーションのように2人に語る。


「人工魔法少女計画、および魔法少女クローン化計画で作り出された彼女らは、現時点において十分実戦投入が可能なレベルに達していると判断します」


 威風堂々と技術部としての見解を見せつけ、技術者は反応を待つ。

 その期待に応えるように、スーツの女が喜びの声を上げる。


「これは素晴らしいではないですか、我々としても資金援助をした甲斐があるというものです」


「ありがとうございます――アルフレッド財団当主、アルフレッド様」


 頭を深く下げて礼を言う技術者。


 スーツの女、もといアルフレッドは見返りを期待した表情で笑顔を浮かべる。

 アルフレッド財団が莫大な借款を送り、それが体制派(システマイザー)の戦勝に大いに起因することができれば――


 財団が戦勝後、最上位の神々の円卓において発言権を得ることができるかもしれない――


 スポンサーのアルフレッドの横でも、()()()である体制派(システマイザー)殿の高揚ぶりも見て取れる。

 

 完璧な仕事をこなし、それを十分に評価された技術者。

 彼はこの傍聴会における最後の説明を始める。


「――あとは被検体にサンプルを注入し、最後の実戦演習を経て正式な引き渡しとなります――体制派(システマイザー)殿」


 体制派(システマイザー)殿が口を開く。


「そのサンプルを取り込むことで覚醒する……のかね?」


「はい」


 応答後、技術者は再びマウスを動かす。

 クリック音の直後、スクリーン上に新たな映像が流される。


「スクリーンにご注目ください」


 無数の真っ赤な物体が漂う映像。

 それは色が真赤いということを除き、何の変哲もない細胞の拡大映像だった。

 技術者は淡々と説明を加える。


「こちらが、先日フランスのマルセイユ宮殿の戦闘後に採取した――吉野蒼汰の血液です」


 アルフレッドと体制派(システマイザー)殿が同時に目を光らせる。


「これは……つまり……」


 アルフレッドが確信を含めた呟きを漏らす。

 彼女が注目しているのは画面を埋め尽くす赤色の物体である。


「これは吉野蒼汰の血液中に含まれる――大天使の魔力周波を含んだ赤血球です」


 これが酸素と同時に、魔力周波を全身に循環させているのです――技術者が付け加える。


「――そして、この血液を取り込んだ被検体が完成形となるという結果が出されました」


 技術者は真上を指さす。

 

「『ヴァリアラスタン』の高軌道ステーションである『ナノタウン』、そこに設置されている世界最高のスーパーコンピューターが算出したデータです」


 それを聞いた体制派(システマイザー)殿が背もたれに体を預け、ソファを軋ませる。

 そして誇らしげに語ってみせる。


「――なるほど、『シラユリ壱型』が活躍してくれているのであれば、支援した我々としても鼻が高いな」


「――神々の皆様には感謝しています」


 白衣の男は映像を閉じる。


「本日の報告は以上です、アルフレッド殿、体制派(システマイザー)殿、長時間のご視聴おつかれさまでした」


 技術者は再び礼を言う。


「――それと、これは報告なのですが、本日15:00にナノマシンに適合した成功者に吉野蒼汰の血液を投与します」


 そして――技術者は接続語を話したのち、もったいぶるように間を置く。


「――同日19:00より、渋谷を中心に実験を敢行します」

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