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反撃

 エーデルワイスを取り囲む大天使勢力。

 彼女たちが行動を開始したのは同時。


「――もう貴様の思惑はここで潰えろ!! この世界に大天使を殺す思想家は不要だ!!!」


 ロッテは白銀の両手剣を握りこみ、突進の勢いを加えて鍛え抜かれた刃を飛ばす。

 

「――私を殺しても、大天使にナイフを向ける異教徒はなくならないのよぉ!!」


 エーデルワイスは左足を軸にターンする。

 半回転の遠心力をディスターソードに乗せて、背後にいたロッテへ剣撃を撃ち込む。


 耳が壊れるほどの金属音を立て、2つの剣がその身を削り合いながら静止する。

 

 背後から質量を伴う殺気――


 エーデルワイスの首筋直前まで迫ったヘスティアのランスが、物理的な殺意となって肌を抉る。


 刃先が肌を貫いた瞬間、エーデルワイスが長髪を鞭のように振るう。


 鈍器のような衝撃がヘスティアの顔を撃つ。

 振るわれた後ろ髪がヘスティアの鼻をへし折り、エーデルワイスの首筋をつついたランスが勢い余ってあらぬ方向へ――


 運悪くヘスティアの正面にいたロッテの肩を抉り、白銀のランスを赤く染める。


「――やっぱりご主人様の言いつけが最優先で最重要。周りへの配慮が致命的に欠けてしまうようねぇ!!」


 残りの2人もきっと同類。

 エーデルワイスが躱してしまえば、ユキナと麗の攻撃はロッテか蒼汰に直撃する。

 

 作戦立案後、即座に実行。

 エーデルワイスは赤い絨毯を思い切り踏みしめ、膝を折ってしゃがみ込む。

  

 ユキナのハンマー。

 麗の銃剣。


 どれも死体を作り出すには国宝級。

 もう後戻りはできないぞ!

 後悔と絶望を噛みしめて死んでゆけ!!


 エーデルワイスの頭があった位置。

 そこを鈍器と刃物が通過したはずだ。


 そして響き渡る金属音。

 エーデルワイスの足元、廊下のカーペットの上を何かが転がる。


 おかしい。

 本来であればもっと生々しい音が轟くはずだが――


 エーデルワイスは足元を転がる異物に視線を転ずる。

 

 そこにあったのは円筒状のもの。

 2つのピンが抜かれ、今にも動き出しそうな妙な雰囲気を醸し出していた。


 エーデルワイスはすぐさまそれの正体を理解する。


(――閃光発音筒(フラッシュバン)!!)


 それは彼女に抵抗の暇を与える前に炸裂した。

 敵の戦闘力を一時的に奪う非殺傷手榴弾。

 急激な閃光と爆発音が感覚器官を麻痺させる。


 思わず溢れるうめき声。

 エーデルワイスはワルプルギス文書の魔力で回復することも忘れ、一時的な失明と難聴に喘ぎを漏らす。


 もだえ苦しむエーデルワイスを中心に、5人の戦士たちが彼女を取り囲んでいる。

 光と音の共演に何一つ反応しない彼女たちは、勝ち誇った表情を浮かべてエーデルワイスを見下ろす。


「――吉野蒼汰、全員を一か所に集結させたのはこのためなのぉ……?」


 平衡感覚がマヒし、エーデルワイスは立ち上がれない。

 ホワイトアウトで視界を失いながら、負けじと言葉を紡ぎ出す。


「洗脳はあなたの脳波を飛ばして行うんだったわねぇ、脳波の射程範囲にいる魔法少女たちに『手榴弾の炸裂の際、光と音を遮断しろ』とかってお願いしたのかしらぁ?」


 声も聞こえないはずだが、エーデルワイスは言葉を投げて会話をしようとする。

 いや、声は聞こえないのだが、口の動きと表情筋で通訳でもするつもりか。


「――悪いな。エーデルワイスが爆式散弾術式を撃ち放った後、ロッテと僕で穴倉の中での作戦会議をしたんだ」


 故に洗脳の支配下にないロッテは事前に『身体保護』のOSに変更してもらった。

 それによって彼女は爆音と光の影響を受けていない。


「――もういいだろうエーデルワイス」 


 蒼汰の最後通告。

 一瞬にしてエーデルワイスの表情が曇る。


 麗に閃光発音筒(フラッシュバン)を投げさせたのは、この瞬間のため――


「――あなたが反体制派に属すことが正しいことなんか間違っていることなのか、僕には判断ができない。でも間違ってることは一つある――」


 ガタつく足にめいいっぱいの力をこめて立ち上がろうとするエーデルワイス。

 それを阻止するようにユキナのハンマーが炸裂した。


「悪意の神の目的のため、ヴィクトーリア資金を狙ってベルリンの街を壊そうとしたことだよ!!」


 全身が嫌な音を上げ、内臓が悲鳴を上げる。


「敗戦後の組織にクーデターを起こした神のために、対立する異世界転移者を攻撃し、莫大な資金で軍事力を爆増させようとしたあなたを―」


 爆発的なハンマーの衝撃に耐えられず、ハイヒールが踏んでいた床から浮かび上がる。


 そのまま後方の壁に背中を叩きつけ、瓦解する壁とともにエーデルワイスは態勢を崩して倒れこむ。


「もう好きにはさせませんよ! 勝利の女神(ヴィクトリア)を都市攻撃に利用するあなたの思考は、泥にまみれた(あくた)に過ぎない!!」


 蒼汰の叫びの直後、麗が手に持っていたリモコンの安全装置を解除、そして勢いよく赤いボタンを押し込む。


 ボタンの押下に続き、階下から鳴り響く轟音と衝撃。

 柱に設置された爆薬が一斉に起爆。


 エーデルワイスの横たわる床に亀裂が走り、地割れのように裂け目が広がっていく。


「――ちょっ!?」


 全身を瓦礫で傷つけ、重力に従って下の階へと落ちていくエーデルワイス。


 巻き上がる噴煙と焔。

 火災現場に背中を打ち付けられ、反射的に横隔膜が空気を吐き出させる。


「……何が……起きて……」


 目も見えず、耳も聞こえない。

 この場で拾える情報は、肌を焼くような熱波と強烈な煙の香り。


「何で……ただの魔法少女なんかに……」


 エーデルワイスは歯を食いしばり、ドレスのスカートに飾り付けられたフリルを引きちぎる。

 それを口と鼻に添え、煙の吸引を抑制する。


(どこかに……隠れないと……)


 エーデルワイスはそっと立ち上がり、煙が充満する部屋の外への脱出を図る。


 ディスターソードに込めた魔力を放出。

 攻撃魔法で壁に穴を空け、エーデルワイスは大穴から続く廊下の床を踏みしめる。


「――おはようございます、数十秒ぶりの再会ですね」


 真横から飛び込む女の声。

 

「――あなたの行き先はそちらじゃなくて、()()()なのよ」


 衝撃、激痛、浮遊。

 感覚器官を通じて3種の断罪がエーデルワイスを襲う。


 麗が拳銃でエーデルワイスの顔面を殴りつけ、宮殿外の中庭へと吹き飛ばした。

 

 煙のススまみれの金髪を泥まみれにし、それでも感覚の鈍い神経に命令を下して起き上がる。


 徐々に回復する視覚と聴覚。

 エーデルワイスはうっすらと開ける視界の中に、複数の飛翔物が向かってくるのを発見した。


 鋭利に研ぎ澄まされた大型ナイフ。

 太陽光を反射させる鍛え抜かれた鋼の刃がエーデルワイスの四肢を貫いた。


 非殺の目的で飛来したナイフ群。

 ちょうどエーデルワイスの関節と腱を狙ったそれは、確実に彼女の行動を阻止するためのもの。


 そしてその行動阻止は、次の人間へ役を回すためのもの。

 

 それは今作戦の最高責任者であり、最重要人物である吉野蒼汰、大天使である。


「ようやく追い詰めましたよ、エーデルワイスさん」


 身動きの取れないエーデルワイスを見下ろす蒼汰。

 そして何の宣告もなしにエーデルワイスの胸元に手を突っ込む。


「あなたには罪の意識を感じてもらう!! そうして僕の創る『ゼネラルメビウス』で最大限の奉仕をしろ!!」


 いや、正確にはエーデルワイスの胸元に現れた空間の裂け目。

 裂け目から見える向こうの世界は異空間、それはロッテが霊装によって顕現させた固有魔法。


「――ロッテさんなら、この世界とは別次元空間にゲートを繋げることができる」


 ゲートに挿し入れた蒼汰の手は、エーデルワイスが魔術で構成する異空間へと伸びている。

 そしてその異空間こそ、ワルプルギス文書が格納されている場所である。


 全身を突き抜けるワルプルギス文書の反応。


『――ワルプルギス文書座標に到達、文書の回収を実行します』


 脳内で大天使の声が響き渡り、蒼汰の手の内に文書断片が引き寄せられる。


『――回収完了。世界構成システムを更新します』

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