参戦
蒼汰を地下牢から救出し、3人は地上へ上がって宮殿外――敷地内花畑へと向かう。
「エーデルワイスはすでに絶大な神の力を使用しているの。だから近いうちに体が限界を超えてしまうはずよ」
ワルプルギス文書を用いた大規模砲撃。
あれから数時間ほどしか経っていない。
エーデルワイスはろくに休養も取れずに剣を握っている。
「万が一2度目はあっても3度目の文書の利用は到底考えられないわ」
大天使の殺すことに命すらかけるマッドならこの予想は棄却されるが。
「それなら、私たち含めて4人がかりで攻撃しちゃえば何とかなるんじゃない?」
「そうだといいのだけれど――」
ユキナの意見に麗はどこか懐疑的だ。
今まで無視してきた――いや気が付かなかった懸念。
今でも蒼汰たちを監視し、好機を伺っているかもしれない男の存在。
アルベルト・シュタルホックス。
先日の宇宙エレベーター事件から姿をくらませている。
エーデルワイスという至上の価値ある資源が存在する以上、あの男は彼女を利用するものだと思うが――
(アルベルト・シュタルホックスほどの狡猾な男であれば、エーデルワイスとの戦闘で疲弊した私たちを一網打尽にすることも考えるんじゃないかしら……)
それも直接的ではなく間接的に。
(大天使を殺す方法としては一理あるわね――仮説の域を出ないのだけれど)
一人悶々と思考を巡らせる麗。
しかし彼女は自身の思い違いに気が付いてはいない。
アルベルトがファントムフューリーであるということを前提とした間違った仮説。
(エーデルワイス以外の反応波にも意識を向けるのが大切ね……)
「――出口だよ!!」
ユキナの叫びで麗が我に返る。
一行は礼拝堂を抜け、一階ロビーに差し掛かっていた。
麗はしばしば思案に耽ってしまう癖がある。
今は非常時、ここは戦場。
自分の世界に入り込んでしまって命を落とすなど、あってたまるものか。
これで最後だ。
集中して目の前の仕事にとりかかろう。
「エーデルワイスをぶっ飛ばして日本に帰りましょう――霊装使用――」
ブレザー越しの魔力光。
麗が思い描く自動小銃を現出させる。
3人は正面玄関の目の前に到達。
ユキナと麗が同時に跳躍し、飛び蹴りの形で靴裏を思い切り扉に叩きつける。
扉の蝶番が変形し、蹴りの衝撃に耐えられなくなった扉が外の世界へ吹き飛ばされていく。
野外へ足を踏み入れた瞬間、ユキナは魔法のステッキを構え、麗は銃口を正面へと向ける。
2人に続くように蒼汰も壊れた正面入り口から外に出る。
「これは……」
蒼汰の見た光景。
ユキナと麗の背中の向こう、踏み荒らされ、焼けた花畑の上に散乱する外壁の残骸。
遥か彼方の地平線から降り注ぐ太陽の光で照らされる宮殿外の全貌――
炎色の髪を投げ出し、地面の上でうずくまる1人の女性。
全身の包帯がボロボロに千切れ、漆黒のドレスに穴を空けた女性が地べたをはいずり、土を握りしめていた。
そしてその中心には、疲労の隠しきれない顔で妙な輝きを見せる剣を握る金髪の女性。
蒼汰とユキナが凍り付く中、麗は現場の状況を即座に理解する。
「――やっぱり子が親のマネをするには未熟すぎるってことかしら? 魔力エンジンが暴発融解するのが目に見えているわ」
双丘の谷間に汗をため込んだエーデルワイスが剣を構え、麗に応答する。
「この場にいる敵勢力を制圧するだけの余力はあるのよぉ。足手まといを死地へと連れてきて、責任追及があるのではなくてぇ?」
「あら、私の審判の心配なんてありがとう。お礼に銃弾と流血は私のおごりよ」
麗とエーデルワイスの押し問答の間、蒼汰は死んだ花に囲まれる一人の少女に意識が吸い寄せられていた。
「……ヘスティアさん……」
宇宙エレベーター『ヴァリアラスタン』の静止軌道ステーション『ヴィーナスタウン』の展望台。
人工洗脳薬物による弊害を押し込めるために、脳を破壊し自害したはずの魔法少女。
そんな彼女が心臓を動かし息をしている。
ユキナや麗、さらにロッテと同様に体中に包帯を巻いている。
苦痛から痛々しく喘ぐヘスティアを見て、蒼汰の心中が黒く染まっていくのを感じた。
蒼汰の様子に気が付いたのか、エーデルワイスが口角を釣り上げて笑う。
「ふぅん、吉野蒼汰の様子が変わったわぁ。アルベルトの言っていた仮説はいい線をいっていたのかもねぇ」
アルベルト――その名前に蒼汰が反応する。
「エーデルワイス――アルベルトを知っているのか?」
「――私の腹心だと思っていた男だったのよぉ」
腹心だと思っていた?
「でもざぁんねん。あの男は忠犬じゃなくて野良犬ストーカー、かわいそうでもないから処刑させちゃったわぁ」
妙な笑顔で武勇伝を語るエーデルワイス。
「アルベルトはヘスティア・シュタルホックスのにっくき政敵だっけぇ? 復讐を私が体現させてあげたの」
エーデルワイスの語らいが波に乗る。
これから命を奪う大天使と魔法少女への最後の雑談を提供するつもりか――
ユキナと麗が行動を開始するのは同時だった。
「マジカルミラクル☆ドッキュンハンマー!!」
詠唱の直後、魔法のステッキが一瞬のうちに変形。
ユキナの体を超える大きさのハンマーに変化したステッキを地面へと叩きつける。
それと同時に麗が霊装詠唱で出現させた複数のスコップ。
それを魔力で操り、急速に地面に穴を空けていく。
この間3秒。
ユキナがハンマーで地面をたたき、跳ね上がった土砂がエーデルワイスの全身へと降り注ぐ。
「――あなたたちは乾杯の途中でワインに口をつけるタイプぅ?」
会話の途中で攻撃など意地汚い。
片手でディスターソードを水平に薙ぐ。
剣撃が舞い上がった土砂を斬り裂き、斬られた大気が衝撃を共なって土砂を払いのける。
その直後、土砂の合間から姿を現したユキナがハンマーを振るう。
急に現れた魔法少女の凶器が眼前へと迫り、咄嗟にディスターソードで斬り結ぶ。
ユキナとの衝突でエーデルワイスのハイヒールが地面へと埋まり、火花を散らしながら至近距離で睨み合う。
「変身なんて珍しい固有魔法、普段大切に持っているブローチが霊装かしらぁ?」
「ふん」
エーデルワイスを押す力をさらに強める。
筋力であればユキナにかなう者などそうはいない。
「――あなたも急ぎすぎる性格、お姉さん寂しいなぁ」
ユキナのハンマーに押し潰されそうになりながらも、エーデルワイスの態度は変わらない。
そして押されるだけの鍔迫り合いに飽き飽きしたのか、エーデルワイスはディスターソードに魔力を注ぎ込む。
防御術式で刀身を強化し、純粋な打撃力を向上させた瞬間――
エーデルワイスの背後、花と根ごと土を巻き上げた何かが地面より襲来する。
「――会話なら殺し合いの最中にでもできるでしょう? せっかくだからアルベルトのことも話してもらうわよ」
穴を掘ってエーデルワイスの背後に回った麗。
銃身に取り付けたナイフ――銃剣でエーデルワイスを狙う。
「協調性の高いあなたに、心労の絶えない暴力を伴う会話を提供してあげるわね?」
高速の突きがエーデルワイスの背中を貫く。
力の抜けたエーデルワイスがハンマーに押し潰され、その体が地面へと叩きつけられる。
「とりあえずアルベルトのことを話しなさい。あなたの望む対話の時間よ」
ハンマーの下で虫の息のエーデルワイス。
力いっぱい肺に空気を取り込み、それを言語に変換する。
「……部を弁えろ人間」
ハンマーの縁から光が漏れる。
それは紛れもない魔力光、ユキナと麗が見慣れた魔法の光である。
それがエーデルワイスの体から放出された刹那、ユキナと麗がサッカーボールのように吹き飛ばされる。
蒼汰が息を呑んだ瞬間、エーデルワイスが何事もなく立ち上がった。
腹を貫かれ、体をハンマーで潰されたはずのエーデルワイス。
だが痛みも感じさせない優雅さで腰に手を当てる。
「――神の力が体を蝕んでしまうのなら――」
それは聡明な麗たちが見抜けなかった使用法。
「その都度神の力で体を治療してやればいいだけのこと。マゾヒズムを極めれば私の勝利は揺るがないわぁ」




