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戦場での乙女の対談

 魔力砲撃からベルリンを守りきったロッテ、ヘスティア、ユキナ、麗。

 急激な魔力消費に加え、決して少なくない砲撃の影響は彼女たちを蝕んでいた


「――脈拍低下、角膜損傷に加え広範囲の熱傷。麻酔の時間はありません、治療術式を用いて処置します」


 白衣を着た男たちが慌ただしく駆け回るのは簡易テントの中だ。 

 ナース服を着た看護師が医師の傍らでテキパキと作業をする。


 彼ら彼女らはロッテの私兵、衛生兵である。


 砲撃術式を退け、ロッテたちは歓喜を湧き上がらせていた。

 だがそれもつかの間、興奮と安堵の狭間で彼女たちは意識を失った。

 

 駆け付けたロッテ傘下ヘリが4人を収容し、近くの公園にテントを張って懸命の応急措置を始めたのである。


 そこから時間に追われた急ピッチの治療が行われた。

 AEDによる除細動、角膜の損傷部の治療、火傷した皮を剥いで包帯を巻く。

 『救急』のOSに特化した衛生兵であろうと、完全な回復にまで持っていくにはまだ時間がかかる。


 衛生兵は4人の完治までの休養を要請した、だがロッテはそれを蹴ったのだ。


 エーデルワイス。

 自分たちの回復を待つ間、あの悪魔が動きを見せる可能性は否定できない。

 だからこそロッテたちがすぐにでもマルセイユ宮殿に強襲をかける必要がある。


 ブルギニオンは拘束している。

 残る障壁はエーデルワイスのみだった。


 医療ベッドの上で30分ほど休息をとった後、彼女たちは包帯だらけの体を無理やり起こす。

 彼女たちの目覚めと同時に、テントの中に武装した兵隊が駆け込む。


「――エーデルワイスに断罪を下し、吉野蒼汰を確保すれば任務完了だ」


 ロッテは新しいドレスを着こなし、腰に両手剣を垂らす。

 ヘスティアはランスの埃を拭い去り、霊装で変身したユキナが魔法のステッキを握りしめる。

 麗は霊装である青色のリボンでポニーテールを結い上げ、さらにもう一つの霊装の小型拳銃を胸の谷間に押し込む。


「――マルセイユ宮殿に魔力反応はあるのか?」


 3人が出発の準備を整えたことを確認したロッテが私兵に問いかける。


「魔力反応は確認できません。ロッテお嬢様のゲートを妨害する術式はないでしょう――隠密術式が施されているとしたら別ですが」


「宮殿敷地に歩哨は確認できるか?」


「確認できません。宮殿外部は完全なる無人です、防御兵器の類も発見できませんでした」


 あらかたマルセイユ宮殿の現状を理解し、ロッテは思案するように顎をさする。


「大天使の拉致には成功したが本命のベルリン砲撃は失敗した――我々を潰す気でいるのなら果たして小細工をするのだろうか……もしくは」

 

 今度は直接的な方法で我々を始末しようと考えるだろう。


「エーデルワイスが直々に剣を構えて相対する――」


 前例のない神の力で発射された魔力砲撃。

 半無尽蔵の魔力で撃ちだされたそれが、射手であるエーデルワイスに負担を与えるという考えは捨てきれない。

 その可能性が真であったならば、2発目の発射の可能性はぐんと下がる。


「さすがに我々はもう一度ゴールキーパーになれるだけの余力はない――だがそのリスクを冒してでもマルセイユ宮殿に行かなくてはならない」


 ロッテの言葉に、居合わせた面々の表情が引き締まる。


「私と魔法少女3人でエーデルワイスと対峙する。私の兵たちは後方支援に回れ――全力出撃だ」


 その言葉を皮切りに兵隊はテントを抜け、外に鎮座する輸送ヘリコプターに搭乗していく。


「医療部隊はマルセイユ宮殿から1キロ地点に移動しろ。私たちはゲートで直接マルセイユ宮殿へと殴り込む」


 甲高い音を上げて剣を抜くロッテ。

 魔法少女たちも各々自前の武器を握りしめ、前を行くロッテの後に続く。


 テントの向こう。

 夜明けが近い薄暗がりのもと、ロッテの詠唱が空間に裂け目を創り出す。


「さあ行くぞ魔法少女たち。神の不可侵領域にまで足を踏み入れた罰当たりとの戦争だ」


 高らかな宣言に続き、ロッテたちが異空間に身を沈めていく。

 言葉にできない異彩な空間を数歩進み、目の前に開く現実空間へと足を踏み入れる。


 ゲートの出口をくぐった先はマルセイユ宮殿。

 広大な土地に佇む大きなレンガ造りの宮殿が、彼女たちの目の前に現れる。

 遠方からワープした彼女たちを迎えるのは一面の花畑だった。


「……防御術式の起動認めず。兵隊の熱烈な歓迎もないな」


 剣の切っ先を誰もいない虚空に突きつけながら語るロッテ。


「――ねえみんな、エーデルワイスと戦う人と吉野君を救出する人に分かれない?」


 ユキナの提案。


「たった一人の相手に4人がかりで戦いを挑んでも、有効な連携が取れなかったら同士討ちしちゃう――そうでしょ?」


 元の世界で数多の悪と戦ってきた歴戦の魔法少女戦士。

 16歳という幼さの抜けないユキナであるが、彼女の経験は大人のそれを凌駕している。

 だからこそユキナの言葉には説得力がある。


「私もユキナの意見に同意します」


 ヘスティアの快諾。

 麗を除き近接戦に特化した3人が入り乱れる戦闘をしては、仲間の攻撃にさらされる危険性がある。

 

「そうだな――では私はエーデルワイスを叩く」


 ロッテは構えた剣を顔の前へと持っていき、闘争心を掻き立てるように鍔を鳴らす。

 その様子を隣で見ていたヘスティア。

 そしてヘスティアは意を決したように言葉を紡ぐ。


「私は――ロッテさんとともにエーデルワイスと対峙します」


 ヘスティアの要望を聞いた麗はわずかに眉をひそめる。


「ヘスティア、いいの? 吉野君に会いに行きたいんじゃ――」


「彼に()()()を見せる勇気がありません――まだ気持ちの整理がついていないんです」


 諦めと寂しさを吐き出したヘスティア。


「……そう、わかったわ」


 ヘスティアは蒼汰に見せたくないのだ。

 麗が目にした、決して自然に発生することのない謎の黒い翼を。


「ヘスティア」


 麗が彼女の名前を呼ぶ。


「あなたがヴィーナスタウンの展望台から回収され、空白の時間に何かをされた。それを吉野君に知られたくないという気持ちはわかるわ――」


 麗は一呼吸置き、ヘスティアの気持ちをなだめるように笑顔を浮かべる。


「でも必ず、あなたが彼と顔を合わせられるようになることを祈っているわ」


 麗の言葉に心が浄化される。

 ここが敵地であるということを忘れさせるほどに清楚な時間が辺りを包み込んだ。


「――それじゃあ私たちは吉野君の救出に向かうわ。ついてらっしゃいユキナ!」

 

 ヘスティアから視線をそらし、麗はユキナを連れて宮殿内へと入っていく。


「――あの2人は宮殿内でエーデルワイスと鉢合わせすることはないだろうな」


 麗とユキナが消えていった勝手口の方を見ながら、ロッテはその言葉に確たる自信を匂わせる。


「これから面と向かって剣をぶつけ合うんだ。隅っこで見物など恥ずかしがり屋もそこまでにしておけ」


 マルセイユ宮殿本館正面入り口。

 絢爛な装飾扉の前に立ち尽くす純白のドレス。


「――あらあらぁ。せっかくあの子たちを見逃してあげたのにぃ」


 その女は腰の剣に手をかけ、勢いよく抜剣。

 ロッテの持つ剣とは双璧を成す真っ黒な刀身。


「――なるほど、砲撃発射の影響は少なからず受けているようだな。たとえ順番であろうと4人を相手にできるほどの力はない。故に――」


 ミラクル☆ユキナと藤ノ宮麗を見逃し、のちに各個撃破する算段か。


「私たち4人を殲滅し、一時的に後ろ盾を失う吉野蒼汰を抹殺――」


「……それでぇ?」


「さらに付録付きだ。貴様はベルリンを砲撃をしようとした、神の力を利用してまでだ」


 ロッテは何かを見透かし言葉を並べる。

 エーデルワイスは何かを見透かされ言葉を捨てる。


「砲撃の目的――ベルリン地下の『ヴィクトーリア資金』が欲しいのだろう?」


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