表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/134

ゲート開放

『――ミラクル☆ユキナ、貴様は砲撃術式を追え、私たちもこれから現場に急行する』


 麗の番号から飛ぶ女の指示。

 敵ではなく、ロッテという名前を持つことを知ったユキナがスマホ片手に砲撃術式と並走する。

 発射された術式からずいぶん離れて飛行しているのにもかかわらず、ユキナは術式の熱で全身を汗でびっしょりと濡らしていた。


「でも――いったいどうすればいいの? 受け止めるなんてことも……」


 砲撃が触れた瞬間、おそらくユキナの体は融解する。

 いくら変身で強力な美少女戦士になったユキナでも、あれに真っ向から立ち向かえるほどの力はない。


『――もはや砲撃術式を消滅させることはできない。だが砲撃を逃がすだけなら希望はある』


「砲撃を……逃がす……」


 夜空を照らすあの光は、魔法なのである。

 絶対に覆せない運命や法則ではない。

 物理的に考えれば、人の力によって対処することは可能である。


『――着弾予想地点はベルリン。予想命中率99・9パーセントだ』


 ユキナの背中を虫が這いずる。

 ユキナは確かに砲撃術式を誘導する航空機を撃破したはずだ。

 

 目を失った術式が正確な到達目標を射抜けるはずが――


『――我々はまんまと短絡な罠にはまってしまったのだ。別の可能性の霧を払いきれなかった』


「……どういうことなの?」


 スマホの向こうでロッテの息が詰まる。


『――エーデルワイスが無為無策を演じるわけがなかった――それに気が付けなかった我々の落ち度だ』


 ユキナはロッテの真意を悟る。 

 外部からのリアルタイムの砲撃誘導以外の誘導方法の存在。


「それじゃあ、あの航空機はただの囮――偽物なの!?」


『――いや、欺瞞の可能性は低いだろうな。成功すれば大規模な戦果を挙げられる術式だ』


 確実な成果を挙げるため、何重にも砲撃誘導の方法を備えていることも考えられる。


 ロッテのセリフにユキナは言葉を失う。


『――おそらくエーデルワイスは航空機から発せられる電波状の魔力で砲撃を自動誘導していたんだろうが――』


 それが無効となった場合、別の誘導方式が作動する――


『――砲撃術式本体に誘導術式を付与し、自立型の砲撃として完成する』


 単独で目標を撃破する都市破壊規模の攻撃。

 

「そんな……」

 

 予想のはるか上を行く事態にユキナはおもわず言葉を漏らす。

 こうなった以上、何としてでも砲撃を無人地帯へ反らす必要がある。


『――私たちもすぐに貴様と合流する。砲撃術式の射線上で合流だ』


 その言葉を最後に通話が切れる。


 ロッテの真意はこうだ。

 何らかの方法で砲撃を受け止めると。


 ユキナは無言でスマホをポケットに収納する。


(でも……本当にみんな揃えばなんとかできるの? 私馬鹿だから、あの人や麗ちゃんが考える作戦なんて想像もつかないよ)


 自分の真横を貫く光の槍。

 ヨーロッパごと吹き飛ばしてしまいそうな大きさの砲撃に身が委縮する。


(だけど……絶対に何とかしなくちゃ)


 ユキナの決意は揺らがない。

 この世界に来る前、取り返しのつかない後悔を繰り返さない。


(私は……守るんだ。守りたいものを全部!)


 じきに麗たちと合流する。

 ユキナはフルスロットルで砲撃術式を追い抜いていく。


 とうに音速は超え、ユキナは『身体保護』のOSを使うことなく徐々に距離を離していく。


(この辺かな……)


 急ブレーキをかけ、空中でほうきが停止する。

 ほうきの上から投げ出されそうになりながらも、必死にこらえて半回転。


 目の前に迫る砲撃術式。

 ユキナは砲撃の射線上に出ている。


「――ユキナ! ミラクル☆ユキナ!!」


 真横から轟くユキナを呼ぶ声。


「私だ、貴様はそこで待機しろ!」


 ユキナの左側――

 黒色のドレスをはためかせ、霊装で出現させた空間の裂け目から飛び出すロッテ。

 『巡行』に設定したOSで空を飛ぶロッテの背後には、同じく巡行のヘスティアが続く。


「――私が作るゲートで砲撃を安全地帯にまでワープさせる、貴様は私の支援に回れ!!」


 ロッテの作戦。

 砲撃術式の射線上に、出口を安全地帯に設定した巨大なゲートを広げる。

 さすれば砲撃がゲートをくぐり、人のいないところに座標設定したゲートの出口から飛びだしていく。


「砲撃の行き先を上空に設定する。国の管理する人工衛星が焼失しようが構わん!」


 覚悟を決め、ロッテは大気を薙ぎ払うかのように両手を勢いよく広げる。


「――霊装使用――万物を通過せし異空間よ、その実を剥いて現出せよ!!」


 詠唱と同時に腰の剣に光が灯る。

 

 ロッテたちの前方、約300メートル先に現れる異空間。

 巨大な魔術の産物が、すべてを呑み込む勢いでその口を大きく開けている。


「ヘスティア・シュタルホックス、ミラクル☆ユキナ――ゲート維持の支援してくれ。砲撃は目の前だぞ!!」


 その言葉でヘスティアとユキナがすぐにロッテの両脇を固める。


「ユキナ、いきますよ!!」


「うん!」


 2人の魔法少女が祈りを捧げるように、自身の魔力エンジンに集中する。

 彼女たちの心臓が光り、メラメラと立ち昇る魔力周波。

 

 ヘスティアとユキナの魔力周波がロッテの体を包み込む。


 さらなる燃料投下でゲート構築に拍車がかけられる。


 あと数秒で砲撃はゲートを貫通する。

 だから3人はめいいっぱいの魔力を開放する。


「来た――!!」


 視界を埋め尽くすほどの閃光。

 夜空の寒冷があっという間に焼かれ、急激に気温が上昇する。


「「「着弾!!」」」


 3人の声が重なり合う。

 それを合図に砲撃がゲートに直撃する。


 爆発的な衝撃波。

 1万度を超える光。

 掠めただけで魔法少女など煙にできる超重砲。


「――これ、ベルリンを壊すなんてレベルの威力じゃないよ!!」


 全身に汗をかき、衝撃波でまともな呼吸のできないユキナが叫ぶ。


「踏ん張ってくださいユキナ――ゲートの維持が崩れたら、私たちなんて細胞も残りませんよ!!」


 赤髪を後方に吹き飛ばし、目が開けられないヘスティアが歯を食いしばる。


「あまり喋りすぎると振動で舌を噛み千切るぞ!!」


 ロッテの激昂が宙に舞う。


(やっぱり……これは無茶があるのではないか……)


 すでに全員が限界を迎える直前だった。

 大量発汗と魔力の急激な低下。

 外に出ている素肌が火傷を起こす。

 

 3人を痛めつける砲撃術式は止まらない。


「も……もうだめ……ヘスティアちゃん……」


 ユキナの意識が飛び始める。

 ぐらつくほうきの上で、ユキナの全身から強制的に力が抜けていく。


「……っ」


 声にならない声。

 上体を大きくのけぞらせ、ユキナはほうきの上から投げ出される。


「ユキナ!!」


 離脱したユキナ。

 ユキナの退場でロッテとヘスティアにさらなる負荷がのしかかる。


「ロ――ロッテ! これ以上は……」


「耐えろヘスティア・シュタルホックス、もう少しの辛抱だ!!」


 ゲートが揺らぐ。

 ロッテのゲートの処理能力が限界を迎え、裂け目の縁から魔導砲撃が漏れ出す。


「も――もうだめです……」


 それまで真っ白に染まっていたヘスティアの視界が暗転する。

 衝撃波がヘスティアの体を吹き飛ばす瞬間――




「ヘスティア!! 意識を保ちなさい!!」




 不意に聴覚を揺さぶる少女の声。

 

「う――麗!?」


 ブラックアウトから回復し振り向いた先。

 そこには背中から白い翼を生やした藤ノ宮麗が右脇にユキナを抱え、左手を前方に突き出していた。

 強大な魔力周波を湧きあがらせ、魔力送信に奮闘する。


「ここで眠ったら吉野君にも会えなくなるわよ!!」


「――っ!!」 


 麗に心中を見透かされ、ヘスティアは一瞬恥じらいを顔に乗せる。


「だからとっとと魔力をこめて!! 吉野君をさらっていったエーデルワイス(クソ野郎)をぶちのめしに行くんでしょ!?」


「――当然です!!」

 

 ヘスティアは両手を前方へと突き出し、さらなる魔力解放を実行。

 ユキナの穴を麗が埋め、2人の魔法少女がロッテに力を与え続ける。


「これで最後だ!! 貴様らの最高の恩義に、全身全霊を持って報いてやる!」


 そう言い放ったロッテの顔は、汗まみれになりながらも最高にきれいな笑顔が張り付いていた。

 

 そのセリフを皮切りに、フランスの夜空を照らした広大な魔力光が消失する。

 それと同時にロッテの作り出したゲートが形を失い沈黙する。


 魔導砲撃完全排除。


「やった……やりました」


 気を失いそうになりながらも、ヘスティアは今現在の状況を理解する。


「神の力に抗えたようね――私たちの()()()()()魔法がオリジナルを乗り越えた」


 傷の癒えない麗が全身の傷口を開かせながら、血の滴る顔に微笑みを浮かべる。


「作り物が本物を超えたなどおかしな話だ。だが今だけは誇ってもいいかもしれないな――まともにぶつかり合ったわけではないが、勝利は勝利だ」


 ロッテは疲労に満ちた全身を流れる汗を拭く。


 ベルリンを背後に奮戦した3人は最後の力を振り絞り、達成と喜びを天へと打ち上げた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ