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砲撃誘導

「もう少しでストラスブール街の上空に入るよ!」


 霊装で変身を済ませたユキナが全速力で空を駆けていた。

 魔法のほうきにまたがり、片手スマホで麗に現在状況を報告する。


「まだ飛行機は見えてこないよ」


『――わかったわユキナ。それと伝えておくことがあるわ』


「何?」


『――目標の航空機が術式誘導に必要なものである以上、エーデルワイスは万が一の撃墜に備えて対策を練っている可能性があるわ』


 魔法でフランスの軍用レーダーに映らない工夫をしているため、エーデルワイスが懸念しているのは我々魔法少女である。


 魔法少女は人間だ。

 空を飛ぶ物体など基本視覚以外では発見しえない。


 だからこそ機体に夜空と同化させる迷彩塗装が施されるなどしていると考えられる。


「わかった。それじゃあいったん切るね」


 通話終了。

 フリルだらけの衣装のポケットにスマホを収納し、ユキナは両手でほうきの柄を握る。


 ツインテールを宙になびかせ、ユキナはそっと下を向く。

 心の中で葛藤が複雑に絡み合い、普段の彼女らしい振る舞いをできない。


(帰ったら仲直り……しなくちゃ)


 先ほどのように麗とスマホ越しの会話は問題なくできる、だが面と向かってちゃんとお話しできるかの不安が残っていた。


 麗はユキナに対して普段通りだ。

 逆にユキナが麗との間に壁を作ってしまっている。


「これが終わったら麗ちゃんと……ちゃんとヘスティアちゃんのことを話し合おう」


 ユキナはヘスティアが還ってきたことを知らない。

 未だに日本政府の手中にあると考えている。


 ユキナを取り巻く問題が漠然とした不安となってのしかかっている。

 胸を痛める原因をすべて取り除かなくてはいけない。


「決めた――私一生懸命がんばる」


 後悔して悲嘆して憎悪したユキナの過去。

 その事象を繰り返してはいけない。


「――悪魔でもお化けでもどぉんとこい!!」


 夜の空に響き渡るユキナの叫び。

 一通り吹っ切れて平静を保ったユキナはほうきの操縦に集中する。


「もうそろそろ飛行機が見えてきてもいいはず……」


 麗の話では航空機はストラスブール上空を周回しているという。

 

 今日は快晴。

 曇り一つない星空の絶景。

 探し物をするにはもってこいの日和である。


 ユキナは目を凝らして周囲を見渡す。

 星々のきらめき、夜空を背景に存在感を強調する月。


 視界からはるあらゆる情報をリアルタイムで精査する。

 

 流すように視線で天球をなぞる。

 あるのは空、星、月――


 人工物の類は見つけられない。


「絶対に……この近くにいる……」


 意識を集中させ、ユキナの瞳が鋭くとがる。


 そして何かに気が付いたのか、ユキナの視線が一点に固定される。


 それはユキナの上方。

 見上げた先――無数の星の間で点滅している。


 光の明滅は一定間隔で移動しており、それはこの自然の空には不釣り合いな人工的な輝きであった。


「――っ!!」


 研ぎ澄まされたユキナの感覚が、思考が訴えかける。

 それを討てと――


「――見つけた!!!」


 急反転。

 ほうきの機首を真上に上げて上昇する。


 冷たい空気を全身で受けながらも加速する。


「あれを墜とせば!」


 徐々にその姿が鮮明に浮かび上がる。

 巨大な両翼に取り付けられた4つのプロペラ。 

 大型の車でさえ格納できそうな胴体が重力をものともせずに空を行く。


「鉄の塊――あなたを墜としてベルリンを救ってみせるの!」


 右手に握る魔法のステッキ。

 ステッキ上部のハート形の宝石に魔力が込められる。

 

 ユキナの急上昇は止まらず、音速を超えて航空機の正面を突っ切る。

 航空機の真正面を通過する際、ユキナはフロントガラスに注目していた。


 航空機の真上まで上昇し、そこから急制動でほうきの先端を真下に向ける。


「操縦者がいなかった――だとしたら自動操縦! 人が死んじゃう恐れなし!!」


 最大の懸念であった有人飛行の可能性が否定された今、ユキナを止められる者などどこにもいない。

 演算開始、魔法のステッキに溜められた魔力の仕様を設定。


「遠慮なしにいくからね――私は正義を守り、悪を倒す少女戦士ミラクル☆ユキナなんだからぁ!!!」


 その言葉で魔法のステッキに注入した魔力が臨界状態に移行する。


「マジカルミラクル☆ドッキュンソード!!!」


 破裂するように放出されたユキナの魔力が空気中で収縮し、魔法のステッキから伸びる非実体剣が形成される。


「魔女っ娘の剣をくらぇぇぇ!!」

 

 大きく上段に構えたドッキュンソードを眼下目掛けて振り下ろす。


 歪曲するように見えるほどの速度で斬り下ろされたドッキュンソードが航空機を胴を抉る。

 高温の魔力の収縮体が金属を溶かし、オレンジ色を灯す切断面が姿を現す。


 ドッキュンソードに加わる抵抗が急激に減少。

 振り下ろされた刀身が航空機を切り分けた。


 安定性を失い、亀裂が切断面から広がるように走っていく。

 燃料がところどころから漏れ出し、航空機だったものは推進力を失って徐々に落下していく。


「やった――やった!」


 急激に高度を下げる破片を見送りながら、ユキナは堪えようもない達成感に身を震わせる。


「これで砲撃の狙いがベルリンから大きくズレてくれる。これでドイツは――」


 そのとき、ユキナは自身の発言に疑問符を浮かべた。

 砲撃の観測誘導の術式を施したであろう航空機は排除した。

 盲目の砲撃は当初の攻撃目標であったベルリンから進路を変えることとなったのである。


「それでも……砲撃発射自体はどうなるの……?」


 狙いが外れる砲撃などする意味がない。

 だからこれで終わりのはず。

 エーデルワイスの計画は潰えたはずだ。


「でも、胸騒ぎがすごいよ」


 漠然とした不安感がユキナを襲う。

 いてもたってもいられずにユキナはそわそわと周囲を飛行する。


 不安の種は積り続ける。

 安堵できない重圧の中、ユキナは遠方で光を見た。


 それは巨大な円を描く。

 円の中で幾多の光の線が交差する。

 およそ自然のものとはかけ離れた光景がセヴェンヌ国立公園に浮かび上がっていた。


「あれって……」


 超大型の魔法陣。

 ユキナはすぐに察した。

 あれこそがワルプルギス文書を用いて発生させた砲撃術式の魔法陣だと。


「隠密術式が解けた……のかな?」


 発射をしない以上、大天使の魔力で魔法陣を隠す必要はない――


 だが知っておいてほしい。

 不測の事態は突然に、そして理不尽に降りかかるものだと。


 徐々に光が蓄えられた魔法陣が臨界を迎える――


 そしてすべての闇を飲み込まんばかりの光量がライトの光のようにまっすぐに放たれる。


「――砲撃術式!?」


 巨大な魔力砲撃が彼方にまで伸びていく。

 数コンマの思考停止の後、我に返ったユキナはほうきを爆走させる。

 持てる限りのすべての加速で飛ぶ。


 砲撃術式は秒速300メートルほどで突き進む。

 現在のユキナはそれを凌駕する速度で飛翔、十分砲撃を追い抜くだけの速度を出している。 


 そのときユキナのスマホが振動を始める。

 おそらく砲撃に気が付いた麗からだろう。


(ごめんね麗ちゃん、今は出られないの)


 ユキナはスピードを欲し、さらに魔力をこめる。


(絶対に悲しみを繰り返させないよ――私はもう世界を救うことを失敗しない。私の世界の――みんなもきっと望んでるから!!)

  

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