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実験開始

「こいつ……ただの人間じゃねぇな」


 白髪男は蒼汰の亡骸を蹴りつける。ごろりと転がる肢体は投げ出され、自ら筋肉を動かすことはない。

 気になることがある。


「こいつの人間を超えた反応波、異常なまでに質と量が違う……」


 普通の異世界転移者とはまったく異なる反応波を放ち、その存在を強調する少年。死亡した今となってはもう感じられることはないが、それでもまだ全身をピリピリとさせる。


「やはり……こいつが例のターゲットか」


 大天使。

 業界ではそのように呼ばれる未知の存在。

 上の連中にとって、対立勢力の要となる大天使を抹殺することは二番目の彼岸。

 それを自分が成し遂げたという達成感を持ち、心中ご機嫌な白髪男は蒼汰に背を向けて天を見上げる。


「やってやったぞクソッタレ。報酬は弾むんだろうなぁ」


 任務完了。

 反体制派、重要項目消化、続いて最重要項目の実施に――

 

 終わったはずだ。

 邪魔はあったが、その邪魔である騎士女を殺害し、そして吉野蒼汰、もとい大天使の排除はこれで完了したはずだ。


「――そんならよぉ……」


 余裕が不安に変わり、陶酔が焦りに変換される。

 自分の背後、ピクリとも動かない屍のいる位置。何かを引きずる音と共に重圧的な魔力周波の気配を感じる。


「どうして立ち上がっているんだ? エンジェル使い」

 

 白髪男の後ろ、首の抉れを完全に修復した吉野蒼汰が白いオーラを漂わせて立っている。

 メラメラと立ち昇る魔力周波、本来魔法使いが魔法を使用するときに体から放出される霧状の魔力である。


(ここまではっきり見える魔力周波なんて聞いたことがねぇ……)


 思わず身構える白髪男。

 演算開始、魔力形態を『対魔導・物理防御』に変換。術式発動――白髪男の拳に蛍光が灯される。

 本来防御に使用されるこの術式は、術式の影響下にある対象を頑丈に固め、攻撃から身を守る装甲の役割を担う。それを拳に手中させ、頑丈な鈍器として機能させる。


「いい加減倒れろよ化け物ヤロウ……」


「…………っ」


 僅かに動く蒼汰の口元。ギラギラ赤色に光る瞳で白髪男を見つめながら何かをつぶやく。


「――大天使だか何だか知らねぇが、魔導戦士団長のガロンとして、ここで魂の抜けた人形に変えてやる――」


 目標までの距離7メートル弱、疾走時間一秒以内で奴に接近し、心臓を破壊すれば一瞬で決まる――


「今度こそ報酬分の働きをさせてもらうぜ……大天使サマっ!!」


 爆音――脚力でアスファルトを叩き割り、刹那で蒼汰の目の前へ――

 

 突き出された右腕。

 役目を終えた術式が消え去り、彼の拳の魔力閃光が消失。

 口元から血が流れ、内臓を破壊され、みるみるうちに力が抜けていく。


 魔導戦士団長ガロンは自らを貫く刃の鋭さに打ちのめされ、拳が蒼汰に届くこともなく彼の目の前で静止している。


 根元まで食い込んだ白銀のランスに赤色の液体が塗布される。

 ガロンの真横、蒼汰と同じ血色の目をした女騎士が、僅かに恍惚した表情でガロンの脇に穴を空ける。


「――っ!?」


 殺した女。

 確実に息の根を止め、魂が肉体から乖離したはずの騎士。

 それが今目の前で、ガロンの身に寄り添うように刃先を突き立てている。


 状況から考え、この現象は吉野蒼汰の大天使によるものだと考えられる。

 事前に知らされたデータにはない能力。最新情報がカバーできない未知の力。


「クソッタレ。洗脳にこういう機能があるなんて聞いてねえぞ……」


 そして躊躇なくランスが抜かれ、よろめいたガロンの口の中に手を突っ込む女騎士。

 下顎を握り潰す力で鷲掴みにし、そのまま力任せに砲丸投げする。


 野外ステージのスクリーンへと体を叩きつけられ、衝撃が強制的に胃液を吐き出させる。

 嘔吐の最中、ガロンは騎士女を睨みつけていた、今まさに目の前まで接近した騎士女を。


 刀身に魔力を集中し、独特の魔力閃光が灯ったランスが撃発。

 秒間三〇連打の高速の突き。

 ガロンの体はあっという間に引き裂かれる。

 繰り返されるランスの衝突による爆音――音速を超え、ソニックブームをまとったランスがガロンの腹部を再び貫通。


 もうガロンは戦えない。

 力尽き、手足が重力に呑み込まれて下に落ちる。

 追い打ちのかけるようにランスが再び発光。


 正面に向けて術式展開、小型魔力弾子形成。術式追加、『魔力爆発』、さらに演算追加、魔力爆発の攻撃範囲を正面に限定――術式起爆。


 結果。

 魔力爆発によって飛ばされた小型魔力弾子が散弾のように射出され、前方の敵を薙ぎ払う。

 二つの術式を組み合わせた混合魔法――『爆式散弾術式』。


 バラバラに散ったガロンの肢体。

 全身の水分が飛び散り、スクリーンを突き破って体のパーツが姿を消した。


 自分の仇をとり、彼女は蒼汰へと視線を向ける。

 潤んだ瞳で彼を見る彼女、恋焦がれた相手を見るように甘美に満たされ、残虐な色欲に支配されていた。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「大天使発現を確認――さらに復活も観測――最終フェイズ『ロンギヌス(ツー)』へと完全移行です!!」


 某所、ガロンを殺害したときと同時刻。

 最新鋭設備の備わったスクリーンだらけのオペレーター室。

 宇宙空間から地上を見つめる特異体観測技術衛星の高性能カメラが、大天使出現の様子をリアルタイムで捉えた。

 さらに地上の監視カメラの別角度映像でも、確かに未知の力の存在を確認。


「そのまま監視を続けろ。それと、反体制派の息のかかった異世界転移者どもの動きも把握しておけ――これで吉野蒼汰の実験が開始された」 

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